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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第51話 狩人-壱

 作業着を着た男性についていき、山の上にある公園までやって来た。山の上にあるといっても特別眺めが良いというわけではなく、周囲は起伏と木々に囲まれている。

 避難所になっている場所には、体育館のような建物や屋外ステージがあり、そこで人々は生活しているようだった。

 作業着を着た男性はようやく落ち着きを取り戻したようで、避難所のスペースの近くで話し始めた。


「さっきの話は避難者の不安を煽ることになるので、出来れば内密にお願いします」

「わかりました」

「あ、そうだ自己紹介を忘れてました。市役所の職員の佐藤と言います」

「向井です。この避難所は秩父の市役所が?」

「はい、秩父と小鹿野の2つの自治体が管理しています。緊急事態宣言が出た直後に開設されましたが、もう2週間以上経つのに国からの連絡もなく…」

「あぁ…あの、俺は東京から逃げて来たんですが、既に政府機能は完全に無くなってます」

「な、なんと…東京は随分酷いんですね…この辺りにはほとんど感染者はいないんですが…しかし、はあ、そうですか、国はダメですか…」


 確かに、この周辺は感染者が少ない。やはり人口密集地から離れれば離れるほど感染者と出会う確率は比例的に減少していくのだろう。しかし、感染者は移動する可能性も十分あるため、その限りではないのだが。


「ここには自衛隊からのコンタクトはありましたか?」

「自衛隊、ですか?いいえ。先日まで連絡が取れていた避難所は小鹿野町の町中にある公園と荒川の向こう側にある学校の避難所、それと皆野町にあるゴルフ場にある避難所だけですね」


 学校の避難所は、おそらく俺がこの地方に来た初日に話を聞きに行った避難所だろう。あそこは子どもと老人のみしか入れなかったんだったか。昨日まで連絡が取れていたということは、壊滅したり食料が無くなったりはしていないのだろう。

 皆野町はここから北方面にある自治体で、秩父地方から関東平野に向かう主要なルートがある。


「そうですか…ところで、避難民はどれくらいいるんです?」

「200人とちょっとですね。」

「200人…案外少ないんですね」

「ええ、当初は1000人は越えると思っていたんですが、避難所の場所を伝えた手段が防災無線でしたし、小鹿野町の方は町中にある公園のほうに行くでしょう。秩父の市街地の方は、既に…」


 確かに、田舎なら安全という考えはあながち間違ってはいない。だが、そこにこの災厄を引き起こした元凶がいる可能性が高い。

 家の中での避難が限界になりやって来る人が少ないということは、もしかして既に生存者狩りが始まっているのか…?


「そういえば、自衛隊はまだ機能してるんですか?」


 職員はそう尋ねて来た。まあ、嘘を言う必要はないし教えておこうか。


「ええ。自衛隊は東京やその近辺で、民間人を集めて北海道へ避難させました。あっちはかなり感染者が少ないそうです」

「なるほど、待っていれば自衛隊が救助に来てくれるでしょうか…?」

「…今すぐ、はないと思います。そもそも絶対に来るという確証もないですが、いつか来ると思います」


 恐らく、北海道でうまくやれていれば、来年の春以降には大規模な救助活動をすると俺は予想している。北海道の避難所が冬を越せれば、安定して継続可能な状態にできる算段がある。そうなれば人員に余裕が生まれて救助活動が再開されるはず。確信はないが。


「とにかく、今は生き延びることです」

「はい。そうですね…」


 俺は職員に別れを告げ、避難所を通り抜けて反対側の道路に出た。

 そしてそのまま東に抜ける道を進んだ。




 公園のあった山を降りて、国道299号線に出た。再度ちょっとした山道になり、しばらく進むと橋があった。

 赤平川、という河川を渡る橋だ。川の水はかなり少ない。この川の上流に支流として小森川があるはずで、その川沿いにある保養所が目的地だ。


 橋を渡って真っすぐ国道を歩く。人の気配も感染者の気配もない。道路には放置されている車などもなく、至って普通な田舎町といった感じだ。

 晩夏の涼しくなり始めた時期、朝に散歩でもしているみたいな静けさだ。


 そう思ったのも束の間、進行方向から人が来ているのが見えた。車が走っていないため、遠くからでもよく見える。

 感染者ではなさそうだが、急いでいるように見える。


 向こうもこちらを視認したのか、警戒したように移動速度を下げるが、そのまま進んできた。


「逃げてください、早く!」


 声が聞こえる範囲に来ると、先頭を走って来る男がそう呼び掛けて来た。なんだ、感染者にでも追われているのか?

 そう思っている間にも近付いてくる一団は、俺の目の前までやって来て速度をさらに落とした。12人くらいか。

 近くに来ると、怪我をしている人や目に涙を浮かべている人もいる様子がわかった。


「この先の避難所はダメです、何者かに襲撃されて…!」


 やはり始まってたのか。元凶による生存者狩りが…


「そうですか、でしたら××公園に逃げてください。さっき通って来たんですが、あそこは安全でした」

「は、はい」

「それと、逃げ出せたのはあなたたちだけですか?」

「いえ、他にも逃げ出せた人はいると思います。ただ、散り散りになってしまって…」

「襲撃者はどんな奴らでした?」

「白っぽい服を着てました。なんか新興宗教みたいな、感じで。たぶん銃とかも持ってて…」


 銃か。厄介だな。しかし、やはり元凶か。


「わかりました。引き留めてすいませんでした」


 俺は軽く会釈して逃げて来た人たちの横を抜けて歩き始めた。


「ちょ、あ、あなたも逃げましょう、奴ら正気じゃないです!」


 そう引き留める声を無視して、俺はとにかく道を進み始めた。後ろで引き留める声が複数聞こえたが、やがて諦めたのか、彼らの走りだす足音が聞こえた。




 30分後、おそらくさっきの人たちがいたであろう避難所が見えて来た。かなり大きい公園で、かなりの数のテントや炊き出しの設備などが置かれていたであろう痕跡がある。

 公園内はあちこちで火の手が上がっており…おびただしい数の遺体が横たわっている。


 ざっと目測だが、遺体は200体以上ある。老人から子供まで、男も女も関係なく、血を流して死んでいる。

 俺はその広い敷地に入って行き、遺体を近くで確認する。


 まず、40代男性。死因は恐らくだが、胸部を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死、傷はかなり深い。他にも抵抗した際に付いたと思われる細かな傷がいくつかあった。勇敢に立ち向かったのか、傷は主に身体の正面にある。

 次は10代後半の女性。死因は恐らくだが、脳の損傷。頭頂部が変形するほど強く鈍器で殴られたのだろう。こりゃ、ひでえな…それ以外に外傷はない。


 そうしてそれからいくつかの遺体を調べると、刃物や鈍器による外傷が死因だと思われた。


 もう、何体目かわからないが、次は60代男性。これは銃創だな。散弾ではなく、口径のある程度大きいライフル弾か、もしくはスラグ弾によるものだろう。

 銃を持っている奴がいるのは確定か。


 しかし、こうして遺体を調べている間も周囲に気を張っていたが、敵が襲って来る気配はない。1時間以上前に襲撃があって、既に敵は撤退したのか。

 その後も生存者がいないか探して回ったが、意識がある者はいなかった。脈までは確認してない。




 全く酷い光景だ。避難者が500人以上はいたと思われる公園に200以上の遺体、逃げ出せたのは300人程度。

 予想される敵の数は100人以上だな…そのうえ一部は銃を持っている。こりゃ、厳しいな。

 だが、諦めるつもりもない。100人いようが200人いようが、全員ぶち殺す。手助けしてくれる人もいないし、弾薬も30-06の実包が60発だけだが、相手が銃を持っているならそれを奪って使うし、それでも足りなければマチェーテでも、素手でも奴らを殺す。


 俺は惨状となった公園を後にし、目的の保養所へと向かった。




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