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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第50話 安息

 水温20度程度のシャワーを浴び、病室へと戻る。

 若木さんも佐川さんも病室にはおらず、どこかへと行っているようだ。


 日が暮れ始めて徐々に薄暗くなりつつあったが、俺は自分の装備の確認を始めた。

 まず今日手に入れたトカレフTT-33だが、既に全弾使い切って弾切れだ。トカレフ弾など手に入らなさそうだし、手入れ不足で若干ガタが来ているため、破棄する。工具を使わずに外せる物だけ分解して、ゴミ箱へと捨てた。増永という殉職した警官が持っていた38口径には実弾が5発装填されている。後でこの病院にいる他の警察官に渡しておこうか。

 次に最も使ったショットガン、40発ほどあった弾薬は残り24発ほどまで減ってしまった。ずいぶん使ったな。他に特別問題はないようで、軽く硝煙や燃えカスなどを取り除いた。

 そして今日は置いて行った89式だが、マウントされている光学サイトはダメになってしまっていた。EMPによって完全に破壊されてしまったらしい。取り外してアイアンサイトを使えるようにしておくしかない。

 最後に冴島さんから貰ったライフルを確認する。スコープは異常なしで、普通に使えるようだった。特に問題はないようだ。


 そんなこんなで軽く確認と整備を終わらせると、病室の扉が開いて若木さんと佐川さんが入ってきた。

 2人はトレーを持っており、その上にはどうやらカレーライスが載せられていた。


「向井さん、食事を持ってきましたよ。なんと今日はカレーです!」

「レトルトじゃないんですよぉ」


 なるほど、今日取ってきた物をさっそく使って料理というわけか。


「スーパーにあったカレールーを全部使ったそうですよ、甘口から辛口まで全部入りです」

「超でっかい鍋で大量に作ってました!」


 そう言いながらテーブルに皿を置く2人。山盛りのご飯と大量のカレーが掛けられている。

 カレーの具は申し訳程度の芋類と人参だけのようだが、そもそも手作りの料理という時点でご馳走である。


「「「いただきます」」」


 そういや今日は何も食べてなかったなと思い出しながら、カレーライスを無心で食べた。

 若木さんも佐川さんも同じようで、一言も喋ることなく無心に口とスプーンを動かし続けている。

 ちなみにカレーの味はやや甘口だった。それでも香辛料は強く出ているというややちぐはぐな感じだったが、贅沢を言える環境ではない。そういうカレーだと思って食べれば十二分に美味い。


 食べ終わって少しすると、若木さんと佐川さんが皿を片付けに行った。手伝うと言おうとしたが、2人は示し合わせていたようにさっさとトレーに皿を載せて行ってしまった。なんなんだ。


 腹が一杯になると、人間は眠くなる。特に炭水化物が摂ってると尚更に。俺はいつの間にかソファーで眠りについていた。




 病室の扉が開く音がして目を覚ます。既に陽が落ちて真っ暗な病室に2人が入って来るのが見えた。

 俺は起き上がって軽く目を擦る。若木さんと佐川さんで間違いないようだ。なんか、いつもと違う?

 そう思っていると、明かりがついた。うお、まぶし。


「あ、向井さん起きちゃいました?これガスランプなんですけど、医院長から頂いたんですよ」

「それと、お湯のお風呂にも入れました。薪のボイラー?で沸かしたんですって」


 なるほど、2人の違和感は風呂に入って髪が濡れているからか。ガスランプに照らされてようやくわかった。

 しかし、風呂か。すげえ、うらやましい。さっき冷や水でシャワー浴びたんだが。


「あ、でもでも、子どもと女性優先だってことで、今日は男性は入れないそうです」

「え…まあ、しょうがないか…」


 恐らく風呂場も狭いだろうし、300人もいては全員が1日で入れるわけもない。それに薪ボイラーといえど燃料に限りがあるだろう。

 なら寝よう。そう思って俺は再びソファーに横になった。視界には濡れた髪を乾かしている女子大生が2人。


 脳裏に過る姿。まあ、この2人より小柄だったけどな、悠陽は。







 目を覚ますと、既に空が徐々に明るくなってくる時間だった。どんな夢か思い出せないが、何というかノスタルジーな気分で目覚めた。

 若木さんと佐川さんは未だベットで寝ている。


 俺は2人を起こさないように準備をして、病室を出た。

 当分の食料は手に入った。俺は本来の目的を果たしに行く。


 次の目標は小鹿野町にある保養所だ。いくつかの企業が共同で使っていた物らしいが、どうやらそれが数カ月前に買い取られたという話だ。温泉施設を含む宿泊施設や運動場があるなどそれなりに規模の大きい物であるらしいが、病院に避難してきた地元住民の話によると建築資材などを搬入している様子だったという。当時は建て増しでもするのかと思っていたそうだ。

 そこまで聞けば、その場所もほぼ()()()だろうと予測できた。元凶がアウトブレイクに備えていたと見て間違いない。


 病院の門で当直をしていた青年たちと一緒にいる警官に声を掛けて、増永さんの物だと言って彼の持ち物だった回転式拳銃を渡す。その警官は何とも言えない悲し気な顔になって黙ってそれを受け取った。

 近くにいた他の者に安部医院長に例の件で出て来ると伝えてくれと頼み、門の開閉も頼んだ。




 病院を出て歩くこと十分ほど。荒川を渡る橋にやって来た。大きな吊橋、正確には斜張橋だ。

 橋の上には車が止まっていたり感染者がいる様子はない。そのまま歩いて渡っていく。

 そしてそのまま真っすぐ森の中にある大きな公園のような場所に続く道へと進む。登り傾斜がある道だが、奥多摩から秩父まで登山道を突破してきた人間には大したことではない。


 そのまま山道を登ること20分ほど。人と出会った。


「あ」

「え」


 お互い立ち止まって、お見合い状態になっている。

 相手は小綺麗な作業着を着た30代前半の男性。武装の類は持っておらず、おそらく無線機と思われる端末を握っている。


 俺は肩に掛けていたライフルが見えないように、やや相手から斜めに立って浅く会釈しながら声を掛ける。


「どうも」

「ど、どうも。えっと、避難のために来たんですか?」

「…え?」

「あれ…?」


 避難…?


「この先の公園に避難所があるんです。もう人でいっぱいなのでこれ以上は…」

「ああ、なるほど。自分は市街地の病院から来たんです。この先を通り抜けたいだけなんですが」

「はぁ、そうでしたか。それなら一緒に行きましょうか?」

「えっと、いいんですか?」

「はい。これ、衛星電話なんですけど、繋がらなくなってしまって山を降りてみようかと…ここでもダメみたいですね」


 そりゃEMPで壊れて使えないだろうな、電話も衛星も。


「ええ、そうでしょうね…」

「…?そうでしょうね、というと?繋がらない原因をご存じですか?」


 ん?もしかして気付いてないのか?


「先日の昼頃、東北東の方でEMP、あー、すっごい音とか空が光ってたの見ませんでしたか?」

「あー、そうそう、すっごい轟音が鳴り響いて、それから使えなくなったんですよ、これ!」

「原因はそれです。どこからか飛んできた核が高層大気で炸裂して、色々な電子機器を壊す電磁波を出したんですよ」

「へー、電磁波…え?カク?核ってあの、原子爆弾のこと…ですか?」

「ええ、まあ、原爆か水爆かはわからないですけど」

「…………」


 作業着を着た男性は口をぽかんと開けたまま固まってしまった。まあ、そりゃ核兵器が使われたと知ったら唖然とするよな。平然としている俺が狂ってるだけだ。この人のリアクションは至って正常だ。


「あのぉ」


 とはいえ、ここでぼけぇッとしてる暇はない、ので声を掛ける。


「とりあえず、その避難所まで一緒に行ってもらっていいですか?」


 口をパクパクと動かして挙動不審のまま、作業着を着た男性は付いてくるように手招きをしながら振り返って歩き始めた。

 大丈夫か、この人。



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