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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第49話 怨鎖

感染者を引き連れ、住宅と畑と空地が沿道に等しく存在する道路をやや速足で歩く。

路面に付着している血痕の頻度、量ともに変化はなく、直射日光を浴びて熱されつつあるアスファルトに続いている。


やがて数十メートル先の路上に血を流し、膝をついて鉄格子の門を掴んで何かを訴えている男が視線に入った。


「お、俺は感染、してなんか、ない…お願い、入れてぇ!」


そんな声が聞こえてくる。

男が向ける視線を追うと、そこには建設会社と思われる建物があった。その敷地内には先ほど見た若者たちがウロウロしている様子が伺えた。

その中に数人のガタイの良い大人たちがおり、門にしがみついて懇願している若者を眺めていた。


あとはなすり付けるだけだな。

俺は感染者を引き連れたまま、走り出した。


建設会社にいる者たちも、俺が走り出すと事態に気が付いたようで、叫び声が聞こえた。

もっと音を立てて呼び込んでくれ。そう思いつつ、建設会社の前を走り抜けながら、ショットガンを取り出して無造作に1発撃ち込んでやった。


門の前で事態に気付いて中に入れてくれと泣き叫ぶ血を流す若者、俺に向かって怒号を浴びせるガタイの良い大人、散弾を喰らって痛みに叫び声を上げる若者、散弾の流れ弾が建設会社の窓を割り甲高い警告音を鳴らすセキュリティ。


建設会社の前を通り抜け、しばらく進んでから振り返ると感染者はずっと追いかけていた俺には目もくれず、大音響が鳴り響く建設会社の敷地へと押し寄せていた。

門の前に締め出されていた若者は一瞬のうちに数体の感染者に噛み付かれ、数秒もせずに音も出さぬ屍に変わる。

門も数十体の感染者に押され、ゆっくりと動き出している。中にいる者たちは阿鼻叫喚、蜘蛛の子を散らすように慌てふためく。

建設会社の建物の2階、3階のベランダから人が出てきて、眼下で起こっている阿鼻叫喚の事態に驚いている様子も見える。その中には女子供もいたが、知ったことじゃねえ。


「先に手を出して来たのは、そっちだからな」


誰にも聞こえない声で呟き、俺はその場を後にした。




未だに鳴り響くセキュリティの警告音を聴きながら、病院へと戻る道を探す。この辺りは少し入り組んでてわかりにくいな。

そう思った瞬間、空に異変を感じた。


太陽が2つある。




いや、そんなわけ、ない、だろ。




偽の太陽はゆらゆらと蠢き、広がっていく。




遥か彼方にある雲が消滅し、その範囲は徐々に広がりながらこちらに近付いてくる。


何も聞こえない。晩夏の昼下がりの風の音だけが聞こえる。さっきまでけたたましく鳴り響いていた警告音も、夏虫の音も聞こえない。やがて風が収まり静寂が訪れる。


しかし、その静寂も一瞬。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという、まるで目の前を超音速の戦闘機が飛んでいたかのような音が鳴り響く。その音は永遠にも感じられるような時間鳴り響く。実際に音のしていた時間はほんの数秒か十数秒だったが、経験したことのない音に体が強張る。






「EMPか」


高層大気圏において引き起こされた核爆発は強烈な各種放射線を放ち、それらが高層大気を通過することで電子拡散を起こし、電磁波が地上に降り注ぐ。人体に直接的な影響を及ぼす可能性は否定されているが、電子機器にサージ電流を発生させてそれらすべてを破壊する。


空には未だ、オーロラのような不可思議な光が漂っている。


既に人類存亡の危機であるのに核戦争とは、なんとも馬鹿げた話だな。

お次は地上で核が炸裂するのだろうか。もしくは、既にどこかで。


東北東の空に散る残光を見ながら、あまりの出来事に放心していたが、今はとにかく病院へと戻ろう。

太陽の位置で方角を割り出しながら、俺は帰路に就いた。






感染者を避け、道を探りながらの帰り道だったため、病院に着いたのは日も傾き始めた時間だった。

門番の青年たちもあたふたとして落ち着きがなかったが、俺の帰還をほっとした顔で出迎えてくれた。


敷地内に入ると、安部医院長が出迎えにやって来た。


「ご苦労様…感染者を撒くために1人で行ってしまったと聞いたから、心配していたとこよ」

「それで、皆帰ってきましたか?」

「ええ、1人も欠けずにね。ところで…さっきのあれは…」

「EMP、核攻撃ですね」


周囲の者たちもある程度分かっていたのか、表情の緊張は変わらないままだったが、皆が息を吞む。


「ペースメーカーを装着してた人が4人亡くなったわ。そのほか全ての電気を使う機械もダメだわ。非常電源用の発電機も止まってしまったのよ」

「そうでしょうね…」

「それから、感染者が少しずつやって来るようになったわ。1,2体ずつだから若い人たちで対処できているけれど、2倍3倍と増えたら対処しきれないわ」

「市街地の外れですからね、この病院」

「食料はとりあえず十分だけれど、近いうちに別の場所に移るしかないわね」

「当てはあるんですか?」

「場所の当てはあるけれど、今、この院内に生存者は約300人いるわ。病人や怪我人、お年寄りも多いし、子どもも少なくはないの。長距離の移動には相応の数の車と道中の安全確保が必要なのよ」

「車…EMPで車は使い物にならないかと、どの部品が壊れてるかはわかりませんが、最近の車は特に電装部品が多いですから…」

「…そう。車に詳しい人を探して聞いてみるわ。300人もいるんだから、車を整備できる人ぐらいいるでしょうし」


そう言って安部医院長はさっそく車に詳しい人を探すために院内へと戻って行った。

俺もそれに続いて建物内に入り、自分に割り振られた病室へと戻った。


「向井さん!!ご無事でしたか!」

「心配してましたよ…」


病室の扉を開けると、若木さんと佐川さんが出迎えてくれた。ちょっと半泣きな表情だ。


「そんな、大袈裟な…」

「お、大袈裟って…向井さんを追ってゾンビが何十体も横道に入って行ったんですよ!?心配するに、決まってるじゃないですか…」

「向井さんがいなくなる前、道路で人がゾンビに食べられてて、それがずっと頭の中に残ってて、向井さんもそうなってないかって私、心配で…」


と半泣きからガチ泣きになってしまった2人。正直、泣いている女性を慰める手段は持っていない。

俺は逃げるようにシャワーを浴びに行くと宣言して、病室を後にした。


ちなみに、シャワールームの水は使えた。雨水を浄化して屋上のタンクに貯めているため、水だけはそのまま使えるようだ。







高層大気で核実験したのは1960年代の1回っきりで、EMPがどのような影響を引き起こすのかは未知数なので、想像と脚色を含む表現であることをご了承ください。

そういえば、第1話投稿から1年経ちました。

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