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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第48話 調達‐参

 バックヤードに続く扉をゆっくりと開け、奪った拳銃を構えながら中の様子を伺う。


 表の騒動で30代の男から奪った拳銃は恐らくTT-33トカレフ。ソ連製か中華製か、はたまたどこか他の共産国製かは知らないが、日本では暴力団の銃としてよく知られている物だ。恐らく奪った相手が暴力団関係者だったのだろう。

 トカレフは第二次大戦中にソ連のトゥーラ造兵廠にて開発された非常にシンプルな軍用拳銃だ。7.62×25㎜トカレフ弾を使用するが、この弾薬は他の拳銃弾に比べると貫通力に優れていると言われている。

 残り弾数は4発。本来8発入るマガジンのため、既にどこかで撃った後だったらしい。


 バックヤードに感染者や他の人間がいないことを確認して、後ろについてくるように手招きする。

 細長い通路を抜け、事務室と思われる部屋を通って、裏手の従業員出入口から外へと出る。


「まずいな…」


 スーパーの裏手は住宅街になっており、金網フェンスで仕切られているだけだった。そしてそのフェンスのすぐ向こうに数体の感染者が集まっていた。

 感染者はすぐにこちらに気が付き、フェンスに取り付いて暴れ始めた。その音に釣られる形でさらに感染者が集まり始める。

 とはいえ、戻るわけにもいかない。どちらにしろ感染者は増え続ける。集まり切る前に一点突破で脱出するしかない。


「もう包囲されつつあります。感染者が増える前に一点突破で脱出を図ります。荷物が重くて走れないと思ったら、その時点で荷物は捨ててください」


 俺はスーパーの裏手に出て来た面々に早口で説明する。そして返事を待たずに、俺は動き出す。

 建物のすぐ脇を駆け抜けて、搬入口へと向かう。そこから敷地外に出られる。

 フェンスに張り付いていた感染者はそれに釣られてやって来るが、俺はショットガンを構えてトリガーを引いた。銃声が鳴り響き、家屋やブロック塀などに反響する。


「走ります!離れないで!ついて来て!」


 俺はそう叫んで、走り出す。調達隊も俺に置いて行かれまいと走り出す。

 とにかく前方にいる感染者を排除して、包囲されている状況から抜け出さなくては。


 前方にいる感染者に銃口を向けてトリガーを引く。至近距離から放たれる00Bの散弾のほとんどを受けた身体は吹っ飛ばされるというわけではないが、勢い良く後方へと倒れ感染者は即座に活動停止に陥る。

 そうして走り出し、また感染者を排除し、また走り出す。そうして数体の感染者を排除すると、前方で感染者が5体ほど地面に膝をついて何かを取り囲んでいるのが見えた。


「あっぁあ!あぁあああ!ああぁああああああああああああっ!………」


 先ほどスーパーの駐車場でこちらを取り囲んでいた集団の1人が、感染者に地面に押さえつけられて捕食されていたらしい。そして間もなく事切れたのか、静かになる。

 感染者はその男に喰らいつくことに夢中だったようだが、20人ほどが走っているこちらの音にすぐに気が付いて、口に肉片を咥えながら振り返った。


 その顔に向かって、ショットガンを撃つ。撃つ。撃つ。さらにトカレフに持ち替えて撃つ、撃つ、撃つ。

 もうそこにあるのが誰の肉片なのかもわからないような血溜まりが道路の真ん中に広がっている。


「ヴぉぇぇぇ」


 後ろにいる何人かがその光景と鉄錆の臭いに耐えかねて嘔吐する。

 既に息が上がり始めているのに、嘔吐したことで呼吸がかなり乱れている。

 そしてそのさらに後方には感染者が続々と続いてやって来るのが見える。数は既に50を下らない。

 病院へと帰る方向を見る。感染者は見えない。


「この先に感染者はいないようです。どうにか、逃げ切ってください」


 そう言って、俺は来た道を引き返す。


「ちょ、向井さん?!」

「若木さん…このまま帰ると感染者が病院まで付いて来ちゃいます。俺が撒いて来ますんで」

「そんな、無茶な…」


 後ろにいた20人の横を通り抜けて最後尾まで行く。すでに感染者の群れの先頭との距離は50メートル程度まで迫っていた。感染者を倒す度に立ち止まってショットガンを撃って、走っての繰り返しではあまり差が付かなかったらしい。


「いいから、早く行けっ!!走れ!!」


 振り返って俺を見ている調達隊の面々に、そう叫ぶ。彼らの表情は不安や恐怖に染まっている。

 先頭の方の誰かが、先導して走り出す。すると、振り返って俺を見ていた彼らも、黙って走り始めた。


 さて、どうやって撒けばいいか。そう考えようとした瞬間、俺の視界にスッと何かが映った。

 それは俺の横にある細い抜け道のような路地の奥。あれは…さっき俺らを取り囲んでた奴らか。そいつらが2,4,6,8人。再集結したのか、集団になって小走りで移動しているが見えた。

 その集団が向かうのは病院とは逆になる方向。それなら…


 感染者が10メートルほどまで迫ってきたタイミングで、俺は横にある細道へと入っていく。感染者とおおよそその距離を保ちながら、歩き出す。

 細道を抜けて、さっきの集団が走っていた道に出る。誰かが怪我をしているのか、血痕が点々と道路に続いているのが見える。

 その血痕を追いながら、50体ほどの感染者を引き連れる。


 時々振り返り、感染者の様子を伺う。やや狭い道路にびっしりと感染者が歩いている絵面は何というか滑稽に見える。しかし、後方にいる感染者は俺のことを視認していないのに付いて来ている。音での認識は前方を歩いている感染者の足音でかき消されてしまっているはずなのに。

 もう一度振り返り、感染者の様子を観察する。腕をこちらにだらんと向け、小さく唸るような声を出しながら、変わらず追いかけて来るだけだ。


「ん?」


 腕がこちらを向いている…?感染者は道路の幅いっぱいに広がっているが、前方でこちらを視認して追って来ている感染者は俺に腕を向けている。右端と左端を歩く感染者は進行方向とはややズレている俺の方向に正確に腕を向けて来ている。

 感染者が腕を上げている追って来る理由は、早く捕まえようと本能的に腕を非感染者に向けているからだと思っていたが…もしかして、他の感染者に非感染者の位置を教えるためなのか?


 考え過ぎ。かもしれないな。


 俺は血痕がY字路を左に進んだのを確認して、左へと足を進める。

 感染者たちは道を間違えることなく、おそらくほぼ全員が追って来ている。俺を見失うことなく。




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