第43話 怨敵‐参
1つ1つ家を回って行くのも面倒だ。俺は最初の家を出たところで、ライフルを上空に向けて1発撃つ。
破裂音が山に囲まれた宅地に響き渡る。
少しすると様子を確認しに家々から元凶の組織の者たちがノコノコ歩いて出て来る。まさか自分たちが強襲されるとは思っていなかったのだろう、警戒心が薄い。
道路に出て来た白い服を着た者たちを銃撃する。1人、2人、と倒れ伏すと流石に事態に気が付いたのか、連中は家の敷地内へと引っ込んで行く。
俺は地面に倒れているが未だに生きている者が這いずって自分の家の敷地へと逃げて行くのを見て、追いかけて行った。住宅の玄関前で足の付け根辺りを押さえながら血塗れになっている女が、玄関を開けようと必死にドアノブに手を伸ばしている。
女か。他の信者と同じ服を着てるしこいつも組織の者だろう。俺はマチェーテを引き抜いて、後方から勢いをつけて首を切り裂いた。
ライフルを構え直し、道路へと出る。
バチュンッ――
道路に出た瞬間、俺の真横にあった表札とメールボックスが爆ぜた。いや、違う。
向かいの住宅の2階ベランダからショットガンをこちらに向けている白い服を着た男と目が合う。外れたことを理解し、次を撃とうとフォアエンドを引いて再度こちらへと銃を向ける。
咄嗟に片膝をついて姿勢を低くし、照準を覗きベランダからこちらを狙っている男を狙う。
相手の銃口が光るのが見えた。が、散弾は俺の頭の上を越えて飛び地面に落ちる。ベランダの壁越しに撃っているため、下方への射角を十分に取れていないようだ。
俺は男がこちらを確認して下がる前にトリガーを引く。額に銃弾が当たり、男はそのままベランダへと倒れた。
ふう。しかし、クソッ、こいつら銃も持ってんのか!?
道路の左右から気配を感じ、視界を巡らせる。白服の者たちが何人もやって来て、こちらを囲もうと動いている。その手には銃器はなく、斧などの刃物とハンマーなどの鈍器を持っている。ショットガンを持ってたのはたまたまか?
俺は囲まれて身動きが取れなくなる前に、先頭を歩いて近付いて来る男を撃った。弾丸は首元に当たり、持っていたデカい鎌を地面に落として地面に倒れ込んだ。大鎌って、死神かよ…
1人が撃たれると周りの者たちは駆け足になった。一気に距離を詰めて来るっ。ラリった半グレたちよりも連携が取れてるな。
セレクターをフルオートに切り替え、迫り来る白服たちに弾をばら撒く。すぐに振り返って、また弾をばら撒く。
最初のマガジンを使い切った。あと残り1マグと半マグ。銃に装着されたマガジンを地面に落とし、腰の横につけたマガジンポーチからフル装填されたマガジンを取り出そうとする。が、間に合わない。
咄嗟にライフルから手を放しマチェーテを引き抜いて、襲い掛かって来る白服の女を見る。女は走る勢いのまま大きな斧を持ち上げて俺に向かって振り下ろそうとしている。
俺は後方へ下がるわけでも、左右に避けるわけでもなく、前と出た。
大きな斧は振り下ろされ始めているが、重いため速度が乗るのに時間が掛かる。振り下ろされる斧を持ち上げている腕に向かって、すれ違いざまに切り付ける。
お互いに速度の乗ったすれ違い、刃は女の肘から先を切り落とした。腕と共に落ちた斧が速度をそのままに地面を転がっていく。
「アギャァアアアアアアアアあああああああ」
叫ぶ声を無視し、マチェーテを左手に移して右手でP220を抜いた。
俺を囲む敵の数は残り4人。接近戦に敗れ腕を失い倒れた女を見て、戦意を喪失しつつあるようだ。
俺は片手で拳銃を構えて残りの1人に向ける。すると、武器を捨ててそのまま逃げだした。が、俺はその背中に向かって発砲。銃弾を受けて走る勢いを失い、よろよろと道路の端まで歩き、倒れた。
残り3人。
「お前…一体なんなんだよぉっ!」
「わ、私たちが何したっていうの!?」
「お、俺たちはただの宗教法人だぞ!」
残った者たちはそんなことを言い出すが、既に一般人を拉致監禁の上に性的暴行を加えている。さらに他にも被害者がいることを知っている。
俺はマチェーテをベルトに付けたカバーに戻し、拳銃をホルスターに戻す。
その様子を見てほっと肩を降ろす残りの3人。だが…
俺はマガジンを左手で取り、右手でライフルを持って装填。
「お、おい」
許してもらえたと油断していた3人は焦り出す。
チャージングハンドルを引いてチャンバー内に弾薬を送り込み、パァンパンパンッ。と3発、ボケっと突っ立っている3人に撃ち込んだ。
倒れ込んだ3人にそれぞれもう1発撃ち込んでトドメを刺す。
「銃を降ろせぇ!!」
最後の1人にトドメを刺したところで、後方から声が聞こえた。
振り向いて見ると、大柄な女が小学生くらいの男の子を羽交い絞めにして、注射器のような物を首に当てていた。人質か…。
「銃を!地面に!置け!こいつを殺すぞぉっゴガッ」
女の大きく開かれた口の少し上、鼻の付けねに5.56㎜弾が直撃。
大柄な女と男の子の身長差は大きく、男の子の頭が女の胸の辺りだったため、顔面はがら空きだった。
25メートル程度の距離であれば、迷わず照準通りに撃てば良い。
大柄な女は男の子を押し潰すように倒れた。ピクリとも動かずに。弾丸が脳幹を吹き飛ばし0.1秒の隙も与えず即死させたんだろう。
俺は急いで駆け寄って、大柄な女の死体をどけて男の子を救出した。衰弱している様子だったが、外傷は無さそうだ。
「マサト…真人ぉ!」
俺は周りに人の気配が無いのを確認し、救出した男の子を連れ、最初に助け出した女性の元へと戻った。てっきり女性が拉致されたと思っていたが、この女性の息子だったとはな。
「パッと見た感じでは外傷はありません。心拍も呼吸も安定しているので、衰弱していて意識が朦朧としているだけみたいです」
「ありがとうございます…ありがとうございます…っ!」
「とりあえず、ここを出ましょう。安全なところまでお連れします」
「は、はい、ありがとうございます…」
俺は女性と意識が薄い少年を連れて、死体が大量に転がっている道路へと出て来た。
「…全員、殺したんですか…?」
「…ええ、まあ」
「そう、ですか…」
「あ、30秒ほど待っててください」
俺はとある住宅に入って2階に上り、ベランダに出た。
お、いたいた。死んでるな。死体を確認し、握られているショットガンを拾い上げる。レミントンのM870か、な。一般的な猟銃タイプでウッドストック、ウッドフォアエンドのモデルだ。
ショットガンを拾い、ベランダから室内に戻ると本が何冊か置かれていた。狩猟関係の書籍だ。それにちゃんとしたガンロッカーが設置されている。猟銃所持の許可持ち…か?それなら、こいつだけが銃を持っていた理由も頷けるな。
ガンロッカーには実包が箱に入った状態で残されていた。40発ほどある。思わぬ収穫をバックパックにしまい、俺は建物を出た。
「お待たせしました。行きましょう」
死体が散乱している道路で待たせてしまったな。俺は急いで歩き出した。




