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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第41話 怨敵‐壱

 暗闇に包まれていた病室が、薄っすらと明るくなる。空には雲が広がり、太陽光を反射させ満遍なく薄明るくなる。

 雲の反射光で、ベットに寝ている2人が見えるようになった。お互いに向き合って、手を握って寝ている。やはりそういう関係なんだろう。


 俺はそんな2人を起こさないように、静かにバックパックを開けて中身を確認する。

 89式、P220が1丁。残りの弾薬は5.56㎜弾が79発、9㎜が9発となっている。

 近接武器はマチェーテが1つ。金属バットと打ち合ったが、刃こぼれも無さそう。随分な業物をくれたな、あのじいさん。

 食料は残り缶詰が4つ。水はこの病院で補給し十分な量ある。


 俺は荷物をしまい、病室を出た。廊下はまだかなり薄暗いが、構わず階段へと向かい1階に降りる。

 そして少し歩き、医院長室と書かれている扉をノックする。


「入りなさい」


 少しして安部医院長の声が聞こえたため、俺は扉を開けて中へと入った。


「あら、向井さんだったのね。部下が何か報告に来たのかと」

「あぁ、すいません」

「いいわ。ちょうど起きたところだったし。コーヒーはいかが?」

「頂きます」


 テーブルに置かれたグラスにコーヒーが注がれる。


「水出しコーヒーですか」

「ええ、電気もガスも勿体無いもの」


 俺はそのグラスを受け取り、ごくごくと喉を鳴らす。うまい。しばらく水しか飲んでいなかったからか、コーヒーの美味さは格別だった。


「それで、何か話でもあって?」

「今日から、探索を始めようと思いまして。まずは横瀬町に新しくできた宅地を目指します」

「そう…」

「それとも、食料探しの方が良いですか?」


 安部医院長は自分の分のコーヒーをごくごくと飲みながら、俺を見る。


「…いいえ、食料は我々で何とかするわ。若い衆と警官たちで近くの食料品店に向かってもらうわ」

「そう、ですか。では、俺は行きます」

「ええ、気を付けて。道中で食料品を見つけたら持って帰って来てくれると助かるわ」


 俺はコーヒーをご馳走になった礼を言って、退室した。

 そのまま病院の表口から出て、門の前で立ち番している青年に声を掛け、門を開けてもらった。朝早くから申し訳ないなと思いつつ、俺は病院を後にした。




 東へと歩き出し、線路を越える。感染者の姿がチラホラ見えるが、音を立てずに視界に入らないように気を付けていれば問題はない。

 しかし、なぜこの近辺の感染者はアクティブに動かないのだろうか。都内の感染者はもう少し動き回っていた気がするが、単純に個体差の問題だろうか。

 ん?そう言えば、あの時の感染者もアクティブじゃなかったな。アウトブレイク初日、俺が東京駅で郊外に向かう電車に乗ろうとした時、感染者が開いた扉からこちらを見ていたが、俺の隣にいた女が叫び出すまで動かなかった。

 なんだ。感染者がアクティブになる条件が何かあるのか…?




 そんなことを考えながらも、曇天の空の下、歩き続けること数分で横瀬町と描かれた看板を通り過ぎる。

 市街地から離れ、少し風景は長閑になって来た。こっちの方はかなり感染者が少ないようで、シンと静かな道路を歩く。

 しばらく歩き、町役場前交差点にやって来た。右手には町役場、左手には小学校がある。

 小学校の方を見る。あ、人がいた。校門の中からこっちを窺っているようだ。

 目が合ってしまっては無視はできない。俺は手に持ったライフルを肩に掛け、両手を相手に見える位置に置きながら近づいて行った。


「おはようございます」

「お、おはようございます」


 校門の向こうにいたのは如何にも体育教師ですというジャージを着た男性だった。俺の挨拶には戸惑いながらも答えてくれた。


「あ、あの、自衛隊…の方ですか?」

「え?あぁ。いえ、違います」


 俺が肩に掛けている89式を見て自衛官だと思うのは正常な判断だ。だが、残念ながら俺は自衛官ではないのだ。


「安部総合病院から来たんですけど、ここは避難所ですか?」

「あー、市街地の方の。はい、ここには周辺住民の方が避難して来ています」

「そうですか、丁寧にありがとうございます。それでは。あ、道をお尋ねしてもいいですか?」


 俺はついでとばかりに、地図を取り出して校門の向こうにいる体育教師に見せて、新しくできたという少し不自然な宅地について尋ねた。


「あ~。あそこですか。行ったことはないんですが、確かに変なんですよ」

「変?というと?」

「あのあたりもこの学校の学区なんですけど、いないんですよ。児童が」

「それは確かに…少し変ですね」


 新しい宅地で、実際に住宅も建っているのに小学生のいる家庭がない。それはあまりに不自然だ。数十件規模の住宅地に小学生がいない…一発目から当たりを引いたか?


「あそこに何か御用でもあるんですか?」

「いえ、まあ。あ、そうだ、何か大きな音がしても、絶対に様子を見に行ったりしないでください」

「え?」

「それでは」


 俺は不思議そうな顔をして固まっている体育教師を校門の向こう側に残し、そのくだんの宅地へと向かって歩き出す。




 またしばらく歩き、いよいよ山道に入るなというところまでやって来た。そこでようやく国道から横に伸びている道へと入る。

 民家と畑が入り混じる程度の場所だが、道路は少し綺麗になっている。ここ数年のうちに整備されているようだ。そんな一本道を進んで行く。


 それからまた数分で整備された宅地が見えて来た。住宅は綺麗な新築、道路の幅も十分あり舗装状態も良好。だが、その宅地に続く道には門が設置されていた。さらに2メートルはあるフェンスで囲まれている。


「ビンゴ…」


 俺はそう呟いた。





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