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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第二章 東京脱出編
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第29話 Operation Chastise

 奥多摩湖で迎える朝。地面に敷かれたブルーシートの上で寝ていたため、かなり身体が痛い。

 バックパックを枕に、ライフルは弾倉を抜き折り畳んでバックパックに入れていたため、荷物は大丈夫だ。

 起き掛けにペットボトルの水を1本飲み干して立ち上がった。


 日が昇ってすぐの時間に起きてしまったが、周りの人たちも起き出している。まあ、やることもないし、暗い夜中に起きている必要もないから早起きの人も多い。

 俺は置いてある水タンクからペットボトルに水を補給し、バックパックにしまう。軽くなったバックパックはまた少し重くなった。




 日が昇ってから数時間後、ヘリのローター音が聞こえて来た。今日と明日、2日間掛けてチヌークが10往復して民間人を下総まで避難させるそうだ。チヌークに乗れるのが50人前後、つまり500人ほどが奥多摩湖に避難してきているらしい。


「向井さん、これからどうするんですか?」


 最初のチヌークに民間人が乗り込み飛び立った後、それを見ていた俺に村雨さんが話しかけて来た。


「避難はしませんよ、どのみち長生きは出来なそうですし」

「…」


 自衛隊が北海道に避難場所を置いた理由は土地の広さに対して感染者が少ないからだ。大量の感染者が一斉に襲ってこなければ跳ね除けれるからだろう。

 ただしこれにはいくつか、いやいくつも問題がある。まずは食料だ。ある程度の保存食を集積し備蓄していたとしても数千から数万に達する見込みの避難者を飢えさせない期間は最悪数週間、良くて数カ月。その間に衣食住の全てを満たし、自活する必要があるのだ。

 次に気候の問題、北海道は11月の中旬で氷点下に達する。場所によってはもっと早く氷点下に達し、雪が降るだろう。そんな中で数多くの避難者の住居を用意し、暖房のための燃料を確保しなくてはならない。これは標高が高い山岳地域でも同じ問題が起こる。日本の平地のほとんどは人口密集地域のためそれらを避けるとなるとこの問題は常に付きまとうことになる。

 ともかく問題は山積みで、例え北海道に避難してもその全員が生存できるとは限らないだろう。


「私は…」


 村雨さんが何か言おうとするが、言葉を紡ぐ唇が突如止まる。

 それとほぼ同時に俺も異変に気が付いた。何か、何か近付いて来ている?

 蝉の声と穏やかな風の音に紛れて聞こえるのは、エンジン音とスキール音。大型車だな。


 目の前にいる村雨さんと目を合わせ、何を言うでもなく青梅街道へ続く道にあるバリケードの方へ駆け出していた。

 音はどんどん近付いて来ている。車輛音は複数だということもわかった。しかもかなり飛ばしている。


 バリケードの前まで来ると、警官の西野さんも異変に気が付いてバリケードの向こうを覗いていた。


「生存者、でしょうか」

「嫌な予感がする」

「うわぁあああああああああああ」


 ぐんぐん近付く車輛音、そろそろバリケードの向こうに見えて来るかと思った瞬間に、バリケードに近付いて向こう側を隙間から覘いていた西野さんが叫びながら走り出した。


 そして次の瞬間、20トンのダンプカーがバリケードに突っ込み、速度をほとんど変えずに突破して来た。

 ドガシャーンと音を立てながら吹き飛ぶバリケードの残骸を避ける。


「何!?」

「奴らだ」


 バリケードを突破したダンプは、次の救助ヘリを待っている避難者の列へとそのまま突っ走っていく。

 そう元凶の組織による生存者狩りだ。


 背中に背負っていたライフルを咄嗟に構え、チャージングハンドルを引いて安全装置を外す。周りに民間人が多い場所のため銃をセーフティーにしていたのが仇となった。

 射撃可能状態になったライフルの照準器を覗き、ダンプの左後輪に照準を合わせて引き金を引く。


 パァンパンパン、という乾いた射撃音とダンプの唸るエンジン音が奥多摩湖に響く。


 左後輪の後ろにあるタイヤの外側、内側はその場で裂け砕け飛散するが、ダンプはそのまま直進していく。

 ヘリを待つ待機列の人々は蜘蛛の子を散らすように逃げだすが、逃げ遅れた人々を次々に撥ねる。撥ねる。撥ねる。

 が、すぐに待機列の軌道から逸れ始める。タイヤを破壊したことによって既にコントロール不能に陥っているようで、そのまま横転し奥多摩湖へと突っ込んで行った。


 それを見た俺はすぐに振り返り、次に来るであろう奴らに銃口を向ける。

 次に突っ込んできたのはなんとトレーラーだった。上部に伸びた排煙筒とから黒い煙を吐き出しながら坂道を登って来る。

 トレーラー運転手の顔が見える。既に正気を失い、半狂乱の薬物乱用者のように頭をぶんぶんと縦に振っている。


「狂ってる」


 そう吐き捨てながら、トレーラーの運転手に向けて発砲。1、2、3発と撃って、その全てが運転手の頭部を撃ち抜いて破壊する。

 トレーラーはコントロールを失うが、そのまま直進していきダムの管理棟か何かへと突っ込んで行った。


「次も来ます!」


 村雨さんが警告しながら自分のライフルを射撃可能な状態にしていた。彼女は弾倉を外し、ストックを折り畳み、バックパックにしまっていたせいで即応できなかったようだ。つい先ほどまで避難者のヘリへの乗降を手助けしていたのだから仕方ない。

 そんな村雨さんの警告を聞いて、次の奴らを待つ。


「はっ!?」


 次に来たのは…最悪だ。

 タンクローリー。液化ガス輸送用大型トラックだ。

 自爆攻撃が来る。あれにヘリポートを吹っ飛ばされたらまずい。


「タイヤを!」


 咄嗟に村雨さんに指示し、突っ込んで来るタンクローリーの前輪に照準を向け引き金を引く。

 同時に左右のタイヤに銃弾が当たり、前輪が同時にパンクする。

 そのまま突っ込んで来るタンクローリーを避け、ライフルのセレクターをフルオートに切り替え、横を通り抜けるタンクローリーの左後輪に向けて撃ちまくる。

 既にコントロールを失いかけていたタンクローリーは左にハンドルを取られ、ダムの管理棟に突き刺さっているトレーラーの横を抜けて、天端(ダム上の道路)を突き進む。

 そして横転しながら天端の上のガードレールを突き破って奥多摩湖に落下した。


「次は?」

「来ない、ようです」


 次に突っ込んで来る奴らに備えてゲートがあった場所から続く道の先を見るが後続はおらず、エンジン音なども聞こえなかった。


「ふぅ、ふぅ」

「はー、はー」


 村雨さんの荒くなった息と、俺の荒くなった息が重なる。


「とりあえず、大丈夫、みたいですね」


 呼吸を整えながらそう言って、村雨さんを見る。


「ええ…」




 ズドォォォオオオオオオオオオオオオン


 呼吸を整えている俺たちの後ろで爆発が起き、咄嗟に伏せる。

 そして今まで、生きてきた中で聞いたことのないような、金属がゆっくりと裂けるような、グゥォオオオンという音が聞こえてくる。

 そして大瀑布でもあるかのような音が聞こえてくる。どうやら奥多摩湖に落下したタンクローリーが爆発し、ダムの水を堰き止めていたゲートを破壊したらしい。




 立ち上がり、隣で伏せていた村雨さんが手を貸して立たせ、一緒に被害の確認へ向かった。


タイトルはダムバスターズにするかチャスタイズ作戦にするかで迷いました()

いくつか捕捉ですが、奥多摩湖の小河内ダムって2つに別れてるんです。それで今話でぶっ飛んだのは左岸の方です。こっちは水位的にぶっ飛んでも水は流れ出さないんですが、まぁ、脚色ということでご容赦ください。

PCで読んでいる方はストリ〇トビュ〇とか航空写真で見て貰えればどんなもんなのか分かりやすいかもしれません(笑)

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