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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第二章 東京脱出編
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第26話 Soldiers & Teachers & Mysterious

 基地から北北西へと向かい、住宅街を抜けて工場地帯へと入った。

 その時点で既に陽は落ちていたため、俺は人気のなさそうな工場の管理棟へと入り、安全を確認してから眠りについた。


 翌朝、日が昇り始めた頃、おそらく5時頃に起床し、建物を出て歩き始める。

 この辺りは感染者が少ないようで、何度か遠くに見えた程度、道を迂回したりすることなく進むことができた。

 そして工場地帯を抜けて、住宅街へと入った頃に俺の耳がヘリのローターの音を捉えた。見上げると高度を下げつつある自衛隊機と思われるCH-47が見えた。

 ここの辺りはまだ自衛隊がいるのか、と思って目で追っていると、どうやら着陸するようで、ぐんぐんと高度を下げて行っている。

 俺はヘリが降りようとしている場所がかなり近いと思い、着陸地点へ向かおうと走り出そうとした瞬間に、ヘリの向かった方向から大きな音が聞こえ、黒煙が上がっているのを見た。


「ま、まさか不時着?」


 俺はさらに一段階走る速度を上げて黒煙の上がる地点へと急いだ。

 道に放置されている車を飛び越え、歩道を走っていく。いくつか交差点を曲がり、黒煙が上がっている場所が学校の校庭だとわかった。

 走りながら背負ったライフルを手に持ち、チャンバーをチェックして装填されているのを確認し、学校の敷地を囲んでいるフェンスの前で立ち止まる。


「…」


 校庭の中央付近に墜落した機体は出火し黒煙を上げている。生存者は…!?

 迷彩服を着た数人が火の手から逃れるようにヘリから出て来た。1、2、3、4人か。

 黒煙が一瞬弱まったと思った瞬間、一気に炎が上がるが、4人は操縦席の扉を開けようとしている。まさか、まだ中に?


 バックパックをフェンスの向こうに放り投げ、ライフルを背負い、フェンスに向かって走り、飛びついて足を掛け乗り越える。

 バックパックを拾い上げ、そのまま校庭の真ん中で炎上しているチヌークへと走った。


 だが、俺が到着する前に爆炎を上げ、救出作業中の4人は退避せざるを得なかったようだ。

 炎上するチヌークを見ながら下がって来た4人はこちらの接近に気が付いていないようで、なんと声を掛けようか迷いながら近付く。


「っ!え…?向井さん?」


 4人の中の1人が気配を感じ取ったのか振り返り、驚きの声を上げた。そして名前を呼ばれ一瞬戸惑った。

 だが、名前を呼んだ人物の顔を改めて見ると、見覚えがあった。顔に煤が付いていてすぐには気付けなかったが…


「村雨さん…?」


 その人物は皇居避難所で行動を共にしていた女性自衛官の村雨さんだった。


「誰だ?民間人か?」


 村雨さんがこちらに声を掛けたことで、残りの3人もこちらに振り返り少し警戒した様子だ。その中でもベテランっぽい人が問い掛けて来た。


「彼は向井さん、皇居避難所でご協力頂いた民間人です。装備は多田野陸尉が…」

「はぁ、多田野がね…」


 村雨さんの説明に、何とも言えない顔で納得した男性はため息を一つ。


「向井さん、だったか。今はちょっと説明してる暇はない。とりあえず校舎まで移動する」

「わかりました」


 男性は焦る様子を見せながら、すぐに校庭から校舎へと移動を始めた。とりあえず、素直に頷いてついて行くことにする。

 やや早足で移動し始めると、俺の隣に村雨さんがやって来て話し始める。


「あれから5日以上経ってますが、ご無事で良かったです」

「ええ、なんとか生き残れました。皇居の方はどうなったんですか?」


 村雨さんは民間人の避難のために皇居の避難所に残っていたはずだ。あそこがどうなったのか気になっていた。


「近辺の避難所から来た避難民を含めて、民間人の被害はほぼ無く下総まで送り届けました。ただ、何人かの自衛官が…」

「そうですか…」

「北海道の方でも感染者が確認されていますが、人口密集地以外は比較的安全だそうです。そのため千歳までピストン輸送しています」

「千歳は大丈夫なんですか」

「今のところは、ですが。感染者が増える前により多くの民間人を輸送するそうです」

「なるほど。ところで、村雨さん、たちは何を?」


 避難の話が終わり、俺は本題を切り出す。なぜここに彼女らがやって来てたのかを尋ねる。


「それはもちろん、民間人の保護、避難のためです。が、チヌークがあれでは…」


 そう言って村雨さんは振り返って、炎上する機体を見る。


「そう言えば、操縦席の扉を開けようとしてましたが…」

「操縦士、副操縦士、ともに墜落の衝撃で意識を失っていたようで、内部の隔壁も扉も、歪んで開けることが出来ず…」


 そう言って村雨さんは唇を嚙んだ。


「…」


 何も言えずにいると、すぐに校舎に到着した。そして体育館に続く外廊下に向かう。


 指揮を執っている男性隊員が体育館の扉をリズム良く3回叩く、それを3回繰り返す。

 すると内部で何かを動かす音と鍵を外すような音が聞こえ、ゆっくりと扉が開かれる。


 中から出て来たのは3人の男性と2人の女性だった。おそらく教師か、学校関係者だろう。


「良かった、言った通りの時間です。凄い音が聞こえましたが大丈、夫…」


 体育館から出て来た男性がそう言って外へと出て来て校庭を見て、言葉を失った。

 それに続いて出て来た他の人たちも炎上する機体を見て絶句している。


「とりあえず、中に入りましょう」


 そう言って隊員は体育館の中へと入っていく。




「まず、皆さんを乗せるはずの輸送機が大破、炎上したことはご理解頂いたと思います」

「えぇ、まあ、はい」


 教師の男性は取り乱したりせずに冷静に対応している。

 俺は気になって村雨さんに問う。


「ここにいる人たちは?」

「先日、ここにいた近所の避難者たちを下総まで輸送しました。ですが、途中で日が落ちてしまいました。夜間の校庭での離発着はハイリスクですので、避難は中断してしまいました。彼らは最後まで残っていた教師の方々です。今日は彼らを避難させるためにやって来たのですが…」

「なるほど…」


 他の者を優先して避難させた勇気ある行動。なかなか肝が据わっている人たちのようだ。自分たちが乗るはずだった機体が墜落しても取り乱さないだけの理性があるようだ。


「えっと、それで次のヘリコプターはいつ来るんですか?」


 そう男性教師が尋ねると、隊員は口を噤む。そして少し間を置いて。


「ここには救助のためのヘリコプターは来ません」

「…っ?!」


 流石にこれには俺も、そして教師たちも驚きを隠せなかった。


「ど、どうして…?」


 ようやく気を取り直した女性教師が尋ねる。


「輸送ヘリは関東各地で救助活動を行っています。とにかく数が足りないので、ここへ来られる余裕のある輸送ヘリはありません」

「…」

「じゃあ、どうするつもりですか?」


 教師たちが絶望の顔で黙ってしまったため、代わりと言ってはなんだが俺が尋ねた。


「他の避難所に来る輸送ヘリに便乗することなら可能です。明後日までに奥多摩湖まで移動する必要があります」

「奥多摩湖、30キロくらいですね」

「ええ。地元警察の避難誘導でそちらに多くの民間人が移動しましたので、明日から明後日まで輸送ヘリでのピストン輸送が行われます」

「なるほど。休まず歩き続ければ6、7時間くらいですから、余裕ですね?」

「まあ、あなたはそうかもしれませんが、5人の民間人がいますから」


 そう言って5人の教師に視線を向ける。

 改めて見ると、5人はやや衰弱傾向にあるようだ。学校なら災害用備蓄があると思うのだが…


「あの、備蓄の食料とかなかったんですか?」

「いや、ええ、もちろんありましたけど…」

「お年寄りの方や子どもたちに優先して食べさせたので、2日前からほとんど何も…」


 お人好し、と言いそうになりつつも何とか堪える。流石、最後の最後まで残った人たち、自己犠牲をも厭わない人格者たちだ。


「とりあえず、これ食べてください」


 俺はバックパックを降ろして、中に入っていた缶詰を取り出して体育館の床に並べていく。

 まあ、他人のこと言えないくらい俺もお人好しだったってことだな。


「っ!?ありがとうございます!」

「…ところでこの人は何者なんですか?」




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