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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第二章 東京脱出編
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第25話 Air Base

 墜落現場から歩くこと30分、線路を跨ぐ高架道路までやって来た。ここまで4車線道路の1車線は必ず道を開けてあった。放置されていた車両を強引に動かした形跡があったことから、おそらく自衛隊か米軍によって動かされた物だろう。


 感染者を警戒しつつ高架道路を進んでいったところで目の前が放置されたトラックとライトバンで塞がれていることに気が付いた。

 明らかに作為的に塞がれていると感じ、背負っていたライフルを構えながら近付いて行く。


「Show me your hands!!」


 そう叫びながら何人かの人影がトラックの上から飛び出して来てこちらへと銃を向けて来た。

 反射的に銃口を向けそうになったのを堪え、ゆっくりと銃から手を放し、両手を見える位置で止めた。


 すると目出帽バラクラバを被った5人の兵士がこちらへと銃口を向けながら近付いて来る。

 そして一言も喋ることなく彼らは俺を拘束すると、こそこそと何か相談し始めた。そして何かを合図したかと思うと、道を塞いでいたライトバンのエンジンが掛かり、その場から動き道を開けた。

 俺は兵士に背中を押されて、封鎖されていた道の奥へと連れていかれる。


 そこにはさらに何人かの兵士がおり、自衛隊員もいた。

 俺はその自衛隊員の前まで連れていかれ、89式とP220とバックパックを取られた後に拘束を解かれた。


「ええっと、まず私は横田基地所属の下妻3等空尉です。あなたは、自衛官ではないようですけど…?」


 下妻と名乗った自衛官は40代前半くらいの男性隊員で中肉中背短髪やや色黒という俺が持つ想像の自衛官像そのままの人だ。俺が持っていた89式を見て不審な人物として捉えたようで、怪訝な表情を隠さずに訪ねて来た。


「向井、です。お察しの通り自衛官でも何でもない一般人です」

「向井さん、なんで銃なんて、しかも89式を持っているんですか?」


 ここで俺は何と言おうか迷った。包み隠さず全てを話すか、それとなく納得できる話で誤魔化すか…

 とりあえず銃を持っている理由については本当の話をすることにした。


「俺は皇居の避難所で自衛隊に協力してたんです。その時に多田野2等陸尉から供与された物です」

「多田野さん、ですか。確かにあの人ならやりそうなことですね…」

「お知合いですか」

「ええ、まあ、遠い親戚といったところですか。皇居の避難所に向かったのは知っていました。ふぅむ、そうですね、とりあえずあなたが銃を持っていた理由は納得しました。それで、なぜここへ?」


 公安から元凶の組織の拠点を襲撃しろと頼まれた、と言っても信じて貰えなさそうだな。そこで、俺は左手首に巻かれた包帯を取って、その傷口を彼に見せる。

 それを見ていた周りの米兵と思われる兵士たちが銃口を俺へと向け、警戒しつつ少し距離を取った。下妻と名乗った自衛官も同じように1歩下がった。


「皇居付近で行動中に噛まれました。すぐに抗生物質を使ったので発症はしませんでしたが、数日寝込む破目に陥りまして。皇居での避難行動は終わっていると推測し、移動していたんですが、旅客機が1機墜落したのを目撃し、その機体が横田基地に向かっていたようなので、こちらへとやって来たんです」

「墜落!?やっぱり…それはどこですか?生存者は?」

「ちょうど中央自動車道の料金所のところでした。生存者は…」


 俺がそう言って力なく首を振ると、彼は落胆し、周囲の兵士に英語で話し始めた。流暢な英語で、俺にはほとんど聞き取れなかった。


「我々はその旅客機を捜索するために移動中だったんです。そこへ丁度あなたがやって来た。位置がわかったので一度基地へと戻ります、あなたもご一緒願えますか?向井さん」

「ええ。それで、荷物は返してもらえますか」

「それは基地に帰ってから上官に報告してからです」


 どうやら俺に拒否権はないようだしな。どちらにしろ向かっていた場所だ。

 俺が頷くのを確認した下妻空尉は、少し移動した先にあったハンヴィーに俺を乗せ、基地へと走り出した。やっぱり道路を片付けていたのは彼らで間違いなさそうだ。

 そしてすぐに基地の入り口へと辿り着き、普段は設置されていないであろう有刺鉄線付きの門が開き、俺は横田基地の中へと入ることとなった。


「失礼します」


 俺がその光景を見ていると、いきなり隣にいた下妻空尉が俺の頭に頭陀袋を被せた。俺は抵抗する暇もなく視界を奪われた。


「少し我慢してください。手荒な真似はしませんので」


 そう言われ、俺は頭陀袋を被せられた頭を大きく縦に振って頷いて見せた。

 そして乗っていたハンヴィーが停まり、俺は左右の肩を抱えられて移動させられた。すぐに建物の中に入れられたとわかり、そして廊下を歩き、どこかの部屋へと連れてこられたらしい。

 そこでようやく頭陀袋が外され、下妻空尉と他の人間が周囲を囲んでいるのがわかった。その中でも壮年の厳ついアメリカ人と思われる男性が口を開いた。


「手荒な真似をして、申し訳ない。見られて困る物があるわけではないが、非常事態ということもあってね」


 悠長な日本語を話す壮年の男性に、俺は首を振りながら答える。


「いえ、お構いなく。視界を遮られただけですから」

「ええ。それで、墜落した機体の場所をもう一度聞かせて貰えるかい?」

「あ、はい。八王子料金所のすぐ隣です。かなりの火災が発生してたんですが、こっちからは見えませんでしたか?」

「こっちからだと山があってね。それに消息を絶ってすぐに大雨が降って来たからね、視界がかなり悪かったんだ」

「確かに、墜落してから15分くらいで降って来てましたね」

「15分。なるほど、ちょうど我々のレーダーからかの機体の機影が消えたのが雨の降る15分前でした。なるほど、なるほど、あなたの言っていることは信用できるようです」


 そう言って壮年の男性は英語で周りの部下に指示を出し始めた。何言ってるか本当にわからん。あ、でも地図でどこかを示してるから、俺が言った地点を指してるのだろうか。


「ミスター向井、情報の提供感謝します。かの機体には我々の同胞が乗っていたのですよ。生存者はいなかったということでしたがね、今、私の部下たちが確認に向かいました。それで、何かお礼をしようと思うが、何か必要な物資などあるだろうか?」

「とりあえず、俺の装備を返して頂ければ、それで構いません」

「なるほど。あなたは民間人のようですが、我々の庇護を受けるつもりがなさそうなのは、なぜです?」


 壮年の男性は心底不思議そうな顔をして、俺にずいッと近付いて来て、左手首にある傷を見た。

 俺は本当のことを話す決心をつけて、全てを話すことにした。


「長くなるんですけど…




…それで俺はその元凶の組織の拠点を襲撃するために移動中だったんです」


 俺は元凶の組織に人質を取られ協力させられていたこと、恋人がゾンビになったショックで記憶を一時的に失っていたこと、記憶が戻り復讐の旅を始めたこと、全てを話した。


「話はわかりました。信じられないことですが、嘘だとも思えない。我々米軍としては協力はできませんが、あなたのすることを止めるつもりもない、ということにしましょう。持ち物は全てお返しします」


 壮年の男性は複雑そうな顔をしてそう言うと、俺が持っていた装備を部下に持ってこさせた。


「我々はまだしばらくはここ横田基地にいるつもりです。あなたに兵士を貸したりはできませんが、物資については融通できるかもしれません。生きていれば、またお会いしましょう」


 そう言って壮年の男性は部屋から出て行った。

 残ったのは俺と下妻空尉だけだ。


「司令が仰ったことですから、口出しはしませんでしたが、もしもあなたが敵となれば容赦はしません。早く荷物を持ってください。外まで案内します」


 下妻空尉も複雑そうな顔をしながら棘のある口調で俺にそう言って急かす。何が彼の琴線に触れたのかはわからないが、憎しみのような、悲しみのような感情が滲んでいた。

 俺はまた頭陀袋を被せられ、何か乗り物に乗せられて基地の外へと連れていかれた。


「では、お気をつけて。もしもまたここに来ることがあるなら、銃器から弾倉を抜いて良く見えるようにしながら近付いて来てください」


 頭陀袋を取り払いながら下妻空尉はそう言って、俺をハンヴィーから降ろした。

 ハンヴィーはすぐに基地の中へと戻って行き、有刺鉄線付きの門が閉じられた。

 俺はマガジンが抜かれていたライフルにバックパックの中から取り出したマガジンを付け、北へと向かって歩き始めた。


 日は既に落ち始め、周囲は暗くなって来ている。街灯が明かりを灯すことなく、夕闇だけが迫りつつあった。





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