第24話 Hard landing
航空機が墜落する描写が含まれています。苦手な方はご遠慮ください。
高速道路上を歩き続ける。防音壁のせいで周囲の景色は見えない。太陽がジンジンと光を降り注ぎ、陰のない道をひたすら歩く。陽炎が正面の視界をゆらゆらとさせる光景をぼんやりと眺めつつ歩く。
3時間後、航空機の音が聞こえて来た。少し低くなってきた防音壁の向こうに、随分と低空で飛んでいる航空機が視界に入って来た。ぱっと見はジェット機で、その特徴的なカラーリングは…
「旅客機…?」
B社製なのかA社製なのかなど知らないが、青いカラーリングの国内航空会社の機体だということだけはわかった。
その旅客機がどんどんこちらへと近付いて来る。
俺は料金所まで1キロと書かれた緑の看板に被るくらい低空飛行しているその機体が、ちょうど1キロ先の真正面へと墜ちて行くのを見た。
僅かに遅れて轟音が響き渡り、赤い炎が上がるのがハッキリと見えた。
「おい、嘘だろ…」
数秒の間を置いて俺はそう呟き、少しだけ緩んでいた気を引き締め直して進行方向に落ちた旅客機の下へと早足で進みだした。
近くまで来てから確認すると、ちょうど料金所を翼で薙ぎ払うように墜落したのか、料金所は粉々になっており、料金所脇にある事務所のような建物に機体からもげた片翼が突き刺さっている。そしてその先には墜落痕が100メートルほど続いており、一段下がった住宅街に墜落した機体の胴体があった。
機体胴体部は周囲の住宅を巻き込みながら轟々と燃え盛っていて、離れている俺の場所まで炎の熱が届いているくらいだった。
生存者がいないか確認するために近付こうとした瞬間、視界が覆い尽くされるほどの炎が爆発的に広がり俺の顔面を焼き焦がすかのような熱が襲った。
ダメだ、近付けない。
俺は轟々と燃え盛っているその場所に近付くことすらできず、傾き始めた日が照らすその惨状を見ていることしかできなかった。
それから15分後、まだまだ火の勢いが治まらない様子の機体を見ていると、雨粒が降って来たことに気が付いた。太陽が出ているために気が付かなかったが、どうやら真上に積乱雲が発生していたようだ。
1つ、2つと降って来た雨粒は、あっという間に豪雨へと変わっていく。夕立、か。
俺は建物の瓦礫で雨宿りをしながら、少しずつ少しずつ弱まっていく火の手を見続けた。
それからまた10分。バケツをひっくり返したような豪雨が止み、燃え盛っていた機体の火の手も弱まっていた。
俺は緩やかな崖を降りて近付いて行くが、その詳細な惨状を見て目を覆いたくなった。
結果的に生存者は見つからなかった。雨が一時的に弱めた火の手が再度強まってくるのを感じた俺は、すぐにその場を離れることにした。
しかしなぜこんなところに機体が堕ちたのかと、ふと不思議に思った俺は、十分に離れたことを確認して地図を開いた。そしてすぐに合点がいった。
「横田基地」
機体の進行方向に横田基地の滑走路があれば、その目的は明確だろう。ただ、何か問題が起こってその手前で墜落してしまったようだ。
旅客機が降りようとしたということは、おそらく横田基地の管制とコンタクトが取れたからだろう。滑走路の状況がわからない状態でそこに降りるとは思えない。ということは、横田基地は未だに機能しているということだろうか。
予定にはなかったが行ってみるか。
俺は高速道路から東京環状道路に下りて、進路を北に向けた。
そして異変に気が付いた。この東京環状道路は片側2車線の全4車線があるのだが、外回りの1車線だけが空いているのだ。おそらく、何者かが意図的に放置されている車両を移動させたのだろう。
俺はそのことで期待を膨らませ、陰の伸び始めた道路を急ぎ始めた。
短いですが、区切りのいいとこで切っておきます。




