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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第一章 東京編
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第15話 食料Ⅱ

「この先、事務所のようですが数体の感染者がいるようです。念のため、目視確認を行ってから排除します」

「わかりました」


 俺は頷いて村雨さんについて行く。どうやら事務所の電気は付いているようで明るく、やはりそちらから感染者の呻き声が聞こえてくる。

 事務所の薄い扉を村雨さんがゆっくりと開く。小さな音が出るが感染者たちは気が付く様子はない。


「生存者なし。撃ちます」


 中を素早く確認した村雨さんはすっと事務所の中に入って小銃を構えた。俺も彼女に続いて事務所の中へと進んだ。

 89式は他国のフルサイズの小銃と比べるとやや短小で、カービンライフルほどではないが取り回しが良い。


 中にいた感染者は8体ほど。彼らはほとんどがこちらとは反対側を向いていたため、未だにこちらに気が付いている個体はほぼいない。

 村雨さんが撃ち始めたが、俺は先に入った扉の左右をしっかりと確認してから小銃を構えた。

 ただ、俺が撃つ必要もなかったか。俺が1体、2体と頭を撃ちぬいた時には殲滅が終わっていた。あの短時間で6体を瞬殺とは…末恐ろしい女性だ。


「クリア。ここで少し資料を見てから行きましょう。どこに何があるかわかるかもしれません」


 動くものがいなくなった部屋を見渡して、村雨さんはそう言って近くのデスクへと向かっていく。

 俺は了解して、近くの棚へと向かう途中に壁に倉庫内の簡素な地図が貼ってあることに気が付いた。どうやら内部はいくつかの階層に別れているようで、食品系は1階に多く集められているようだ。


「何か見つけましたか?」

「ええ、食料は1階倉庫の奥に多い様子です。たぶん」

「ではさっそく確認に行きます。倉庫内は死角が多いので、向井さんは後方警戒をお願いします」

「了解です」


 倉庫へは事務所から直通の扉があった。だいぶ重厚な扉で、村雨さんはそんな扉を軽々とゆっくりと開けて、その向こう側を確認してから倉庫へと入っていく。

 俺もそれに続いて倉庫へと入る。倉庫は照明が所々消えていて、明るい場所と暗い場所が存在している。明るい場所があるだけまだましだが、そのせいで暗い場所はより深い闇に包まれている。

 そんな場所を村雨さんが前方を俺が後方を警戒しながら進んでいく。


 ん?何か気配がしたような。気のせい、か?ちょうど暗い場所を通っているせいで周囲はほとんど闇に包まれている。村雨さんはライトを持っていたようでそれで照らしながら進んでいるが、俺はそんなもん持っていなかった。


「ん?やっぱり、何かいます」


 俺が小声で前を進む村雨さんに伝える。


「感染者ですか?」


 やはり村雨さんも小声で聞き返してくる。


「わかりません。ですが、割と近くに何かがいます」


 俺がそう言うと、村雨さんはすっと立ち止まった。どうやら耳を澄ましているらしい。


 そして数秒ののち。


「自衛隊です!!どなたかいらっしゃるんですか?」


 そう声を上げた。倉庫内に彼女の凛とした声が響き渡る。


「じ、自衛隊!?よかったぁ!じゃない、そんなに大きな声を出したら!」


 荷物の隙間から声が聞こえて来た。その声は安堵と焦りが混じっている。生存者か?

 数秒すると3人ほどの生存者と見られる男性が荷物の隙間から現れた。作業員っぽい服装をしている。


「静かにしてください。奴らに気が付かれます」


 その中の1人が近づきながら人差し指を口に当てながら小声で警告してくる。


「事務所の方にいた感染者でしたら、既に排除していますが」

「いえ、倉庫内にも何人かいるんですよ、そのぉ感染者?ですか」

「わかりました。では近くにいてくだされば私たちがお守りします」

「そ、それは頼もしいです。あ、そうだ、ここで働いている井上です、我々の救助に来てくださったんですか?」


 40代後半の頭頂部の後退した男性は井上と名乗った。やはりここの従業員らしい。しかし、別にあなたたちを助けに来たわけではないのだ。とは俺も村雨さんも言えない。


「え、ああ、はい。それと避難所のために食料の調達を」


 建前と本音の使い分けは日本人の基本技能だな。


「そうですか、食料ですしたら大量にあります。ご案内しますよ」

「ええではお願いします」


 こうして俺と村雨さんは井上というおっさんと他の従業員2人に案内されて倉庫の奥へと向かう。


「ところで、そちらの彼は…?自衛隊の方ぁですか?」

「え、ああ、いえ俺は自衛官ではないですが、自衛隊に協力している向井という者です」

「へ、へえ、警察の方かなんかかと思いましたが、まさか一般の方とは…」


 そんな会話をしているうちに、どうやら食料品が保管されている場所へとやって来たらしい。照明が付いている場所でよかった。

 村雨さんはナイフを取り出して、段ボールを開けて中身をチェックする。中に入っているのは缶詰だった。缶詰の種類は鯖の水煮缶だ。日本で一番売れてる缶詰と言ったらやっぱりこれだよなぁ。

 他にもスパム缶やトマト缶、フルーツ缶もある。あとは焼き鳥などの缶詰が数種セットの物もあった。こういうのもあるんだなぁ、知らなかった。バリエーションがあるのは良いことだ、味的にも栄養的にも。


「確認しました。これを可能なだけ運び出しますので、ご協力をお願いできますか?」


 村雨さんは缶詰の入っている段ボールを確認し終えると、井上さんたちに協力をお願いした。まあ、俺と村雨さんの2人でやるよりは本職の彼らがやってくれる方がかなり効率的だ。倉庫内に感染者がいるのならばその護衛も必要になるだろうし。


「わかりました。運送する車両はあるんですか?」

「自衛隊の輸送車両が1台あります」

「避難所はどこです?避難者の数はどれくらいですか」

「場所は皇居です。避難している人は2000人を超えると思われます」

「そう、ですか。少ないと驚くべきか多いと驚くべきか…」

「何とも言えませんね」


 少しの沈黙ののち、井上さんが提案する。


「2000人を超えるとなると相応の食料が必要です。自衛隊の輸送車両については詳しくないですが、私のトラックも使って大量に運びましょうか?」


 確かに相応の量が必要だろう。乗って来たトラックも中型の物、大型トラックの積載量には及ばないだろう。


「なるほど、大型トラックがあるんでしたらご協力頂けますか?」

「ええ、喜んで。では避難所までお守りいただけますか?」

「もちろん。それが我々の任務です」


 ということで、それから話し合いの結果、2手に別れることになった。村雨さんと井上さんはトラックを取りに向かい、俺と2人の従業員は荷物の運び出しとその護衛ということになった。


「では、お気をつけて」

「はい。村雨さんも」


 村雨さんは井上さんを連れて、倉庫の搬出入口に向かって行った。さて、こっちはどうするか。


「では、まずはお名前を聞いてもいいですか」


 とりあえず2人の従業員の名前を聞いておこう。


「私は荒田です」

「自分は澤です」


 荒田さんは30代中盤の中肉中背の男性だ。おっさんに片足を突っ込み始めた感じと言って思い付く至って普通な人だ。

 澤さんは20代後半かな。髪色がやや茶けてるっぽいが地毛か?染めてるっぽく見えないのは、顔は真面目っぽいからか。あまり人を見た目で判断しない方が良いか…


「改めて、向井です。お2人をお守りします。ところで、搬出口まで距離があるようですけど、荷物はどうやって運んでいるんですか?」


 たぶん100メートルはあるかな。そこを人力で何度も往復ってのは現実的じゃない。


「キャリアカーっていう運搬車があります。それで運んでからフォークリフトで積み込みです」

「あー、あの市場の中走ってるみたいな」

「ええ、まあちょっと違いますが、ほとんど同じような物です」


 ああ、俺が思ってるのと違うタイプらしい。倉庫の中は初めてで勝手がわからん。


「それはどこに?」

「向こうです」


 荒田さんが指さした方向を見るが、真っ暗で何も見えやしない。村雨さんからライトを貸してもらっておいてよかった。

 俺はライトを点灯させて、その暗闇へと進んでいった。




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