僕のパパはサムンソ(千文字小説)
「聞いた? 3組に人力で育てられた人がいるんですって」
「うわっ、犯罪者予備軍じゃん」
◇ ◇ ◇ ◇
西暦2030年。不断の努力により、コロナ禍を終える事が出来た世界は新たな“問題”を探していた。
環境。 差別。 貧困。
前時代に流行したこれらはもう時代遅れ。手垢の付いた陳腐な問題として取り組む者は少ない。
そこで、それらの根本を担う部分として親による不適切な教育が問題提起された。
子供を親から引き離し、家事に加えて“育児”も可能となった多機能家事育児機械が子供を育てる事が議論された。
「女性が育児から解放される時が来た」
「全ての子に平等な教育を」
「差別を根絶しよう」
教育の分野で進んでいるとされているフィンランドで「人と違う個性を尊重し、多様性を認め合っていく」と言うフレーズを全面に押し出したノアキ製の多機能家事育児機械が発表されると、世界中で多機能家事育児機械の開発ラッシュが始まった。
多機能家事育児機械元年。
スマートフォンがガラケーを駆逐したように、
多機能機械が人間による子育てを駆逐したのだ。
アッルプ製の I−Parenting
アゾマンと提携して子育て用品が自動納品され、子供の食事、入浴、清掃、洗濯、家庭教育、通学を完全サポート。グローバルスタンダードの教育をあなたに。
サムンソ製の 銀河教育
韓国製の教育漫画やK-POPによるアーティスティックな教育内容とそのリーズナブルな値段設定が受けて発展途上国の保護世帯教育に厚遇される。
2120年。人力で子供を育てる事は罪となり、人同士の接触はハラスメントとして忌むべき行為となった。
しかし、世界はまだまだ人力で子供を育てる人間がいる。
彼らは犯罪者予備軍として差別される。
サムンソパパから教えられる事のない差別言語を使い。
アッルプママから与えられる幸せを拒絶する忌むべき存在。
それは父と母に育てられた子供。
前時代の残した悪魔。
差別主義者。
肉体労働を行い、肉体労働を強制する傲慢で合理的ではない者達。
苦痛から解放されない被虐主義者。
その者の名は。