妃
私はとある国の第2妃でしたの。
この国の王は3妃まで持つ事が許されているけれど、それは子どもが3年以内に生まれなければ。
2妃である私が既に男児2人に女児1人を生んでいるから3妃を娶ることは法でできないわ。まぁ、王は3妃目を娶ることなんて少しも考えていなかったと思うけれど。
あ、第1妃には子はいないわ。
2妃の私がいるのだから予想はついたかしら?
王の渡りが無いわけではないのに、子が生まれないの。昔から第2妃の私よりも王の寵愛は受けているのよ。
面白いし不思議だし、とても可哀想だと思うわ。
そうね、私の事をもう少し話そうかしら。
私はこの国の筆頭公爵家の長女として生まれたわ。
生まれて間も無く足がうまく動かせない事が分かったの。生まれてこの方自分の足で歩いた事は無いわ。いつも車椅子か私の側仕えに抱えられて移動するの。
自分で言うのもなんですけど、私の身分はとても高いわ。だから当然、第1妃の候補だったの。足が悪いのにそんなものになれるのか、ですって?面白いこと仰るのね。当然なれるわ。
家格、民からの信頼、他の貴族達からも一目置かれている我が家をこの国の王家といえども無視できないもの。
だから、候補という名はついていたけれど、実質決定していたの。そこに私の意思なんて含まれませんわ。
けれど、王が誰の諫言も忠言も聞き入れず真実の愛を持って第1妃に迎え入れたのは、子爵の庶子だったわ。
可哀想に後ろ楯が無いに等しいこの王宮でじわじわと1妃は追い詰められて。子どもさえいれば、と考えていたらしいけれど、敵ばかりのこの王宮で無事に生めると思っていたのかしら。彼女は自分に仕えてくれている侍女も側仕えもどこから来ているか知らなかったのではないかしら。
でも、もっと可哀想なのは、王がそれを喜んでいる事かしら。頼るものが王しかいない1妃は王のお気に入りですのよ。王は彼女と過ごすと自尊心が満たされるみたいですの。趣味の悪いことに王が私の所へ通うのは彼女の嫉妬心を煽るためよ。することをすれば私は捨て置かれるの。朝まで王が私の寝所へいたことなんて無いわ。でも、皮肉よね。王の寵愛深い彼女に子はできず、私ばかりが3児に恵まれたのだから。
王は子さえいればそれが私の子だろうと構わないのよ。
王自身に1妃に子を持たせる気が無いんですもの。私が2妃になってからは、わざわざ1妃に美容薬と偽って子が出来にくくなる薬を飲ませていたのですもの。子ができたら1妃が自分に頼らなくなるかもしれない、という理由でよ?歪んでいると思うわ。
そんな感情を私に向けられたかと思うとぞっとしますの。
だから、私は1妃にとても感謝してますわ。面倒で歪んでいるあの王の寵愛を一身に受けてくれていたのですもの。
歩けない私も一歩間違えばあの歪んだ毒牙にかけられていたかもしれませんわね。けれど、私の後には穏やかな顔をしながらも有無を言わせない父がついていますもの。
王も馬鹿ではありませんからね。私に執着しても面倒だと知っていたのですわ。だから当て付けのように1妃に彼女を選んだのでしょう。面倒な後ろ楯も無く、難なく孤立させられますものね。子さえ彼女との間に作らなければ、彼女の後ろ楯を申し出る奇特な貴族も現れませんし、子は次の妃に生ませればいいとでも考えていたのだわ。
あら、王の思い通り。末恐ろしいわ。
そうね、今度は父の事でも少し話そうかしら。
父は外へ向ける顔はとても無害で民を思っているように装うのがとても上手なの。だから臣下から、いいえ、王ですら厚い信頼を寄せていたのよ。
けれどね、私は父の本当の顔を知っているの。父はとても野心家なのよ。今は宰相として王の右腕にまで上り詰めたけれど、それじゃ父は満足していないわ。自分の血を王家に入れて、その血を引く子が次代の王になる事を何よりも望んでいるの。そうね、もうそれはほぼ叶っているわね。
私が2妃に収まったのも当然だったのよ。
だって1妃に3年経っても子はできなかったのだもの。1妃ったら3年目は焦ってしまったのね、あろうことか王以外も寝所に招き入れたのよ。それでも1妃に子ができるわけなんて無いでしょう?
王もそんな裏切りは知らないふりしてましたけど、本当は知っていたのではないかしら?あの頃から執着がもっと強くなったように感じますし、そのお相手は地下牢深くで拷問を受けているという噂もありましたっけ。
1妃だってそんな後ろ暗い事を遠回しにつつかれれば王が2妃を娶る事を反対なんてできないでしょう?
私が2妃になるのは当然でしたの。
でも、王は私にそんな興味はないですわ。私は1妃の代わりに子を生めばいいだけの存在ですもの。後継さえ文句をつけられない人数いればあとは勝手にしていても私は何も言われませんの。そうね、1妃ができない公務はしますわ。沢山の貴族をお招きして大きなお茶会や夜会も主催しますの。私の方が1妃よりも国内での顔は広いですもの。当然ですわよね。
それに他国の方へ無礼があってはいけないですからそういった公務もしますわ。
1妃は寵愛を。2妃は公務を。
役割分担は完璧だと思いますの。私、公務も好きですもの。
愛されなくて辛くはなかったのですか、ですって?
ふふ。とても面白い質問だわ。
私、とても幸せですのよ?
あら?迎えに来ていただけたの?
冷えるからお部屋へ戻りましょう、ですって。
当たり前のように椅子から私を抱えあげてしまうわ。少しバラ園も見せてくれるの?嬉しいわ。今は見頃ですもの。
バラも見事に咲き誇っていてなんて綺麗なんでしょう。
私の方が綺麗、だなんて貴方もお上手ね。
ふふ、くすぐったいわ。だめよ、誰が見ているか分からないでしょう?
え、ここに私達を咎める者はいない、ですって?そうでしょうけど、慎みは必要よ?
そうね、準備は整ってきたのかしら?
あら、もう完璧なの?お父様ったら張り切ったのね。貴方も。
やっとこの屈辱から解放されたのですもの。当然ですわよね。
長かったもの。貴方が居てくれなければ私はとっくに潰れてしまっていたわ。
いつもありがとう。貴方には感謝してもしきれないわ。
でも、少し不安ですの。貴方が明日即位してしまったら、貴方は私の事をこうやって抱えて歩いてはくれなくなるわ。それはとても寂しいんですのよ?
え?許される限りはこうしていただけるの?本当に?
信じていないわけではないのよ。1妃にしていただけると言われただけでも信じられないのに。
え?子ども達もいるんだから当然ですって。もう、子ども達の方が先ですの?
冗談ですわ。あの子達は貴方の子ですもの。とても聡明で次代の王に心配は無いわ。
ふふ、なんだかとても楽しいですの。皆様とても驚いていたでしょう?
まさか貴方が前王の落とし子だなんて。あら?前々王の間違いね。
酷い話だと思っていましたけど、貴方が私の側にいてくれた事だけはとても感謝してますの。
そうね。お父様は貴方を手厚く保護していたものね。まさか貴方を私の側仕えとしてこの王宮に入れるだなんて思わなかったのよ。
その事も今は感謝してますけど…。
ええ?!貴方がお父様に頼み込んだんですの?知らなかったわ。
まさか、王があんなに早く崩御して、子ども達の前に貴方が本当の地位に戻れるなんて夢でも見ているようよ。しかも、私を1妃に迎えてくれるなんて。
嬉しいのよ。あんなモノに汚された私を貴方はいつも慈しんでくれたわ。子どもがあんなモノの子でなくて本当に良かった。
あぁ、そうね。あの王は子を成せなかったんですものね。あの王だって知らなかったんでしょうね。なのに彼女に薬なんて飲ませて…。そういえば彼女どうなったんですの?
そう、離宮へ移ったのね。そうね、その方が彼女の為だと思うわ。もう味方はいませんもの。
ふふ、心より貴方をお慕いしてますわ。私は誰よりも幸せですもの。




