頑張るしかないから
ようやく休める
休みたいと言う希望は直ぐに受託され、通されたのはこれまた豪華な客間で落ち着かないのは変わらない。
「佳代さん、一緒に寝てくれませんか?」
ベッドは二つあるがどちらも大きく、いわゆるキングサイズに近い。2人で寝ても問題は無いし、正直お互いに不安しかない。
その上、疲れていても眠れる気がしない。
「そうね、ベッドは広いし一緒に寝ましょ」
「よかった」
用意されていた寝巻きはダッポリとした白い長めにワンピースみたいな感じだ。服よりは寝やすそう。
大きな窓から見えるのは暗い闇だけで、少なくとも夜なのは間違いない。
着替えてベッドに入っても眠れそうに無い。
「いろいろありすぎ」
「これからどうなるのかな?」
「やる事いっぱいあるわよ」
舞ちゃんはピンときてない。
「まずは安全な飲み水を確保。それと、食べ物もどんな物があるか確認しないといけない。食べられそうな物がある気がしないのよね」
塩っぱい煮物がメインの料理は高位な人のみの食事なのか、庶民の料理はどうなのか、わからない事が多すぎる。
「そうですね。水も飲めないし、食べ物もあれって」
「そもそも、どんな食べ物があるか確認しないとね」
気持ちを持ち上げるように奮い立たせる。
「ありがとうございます。佳代さんが居なかったら、私どうなっていたか」
お礼を言えるこの子は、ちゃんと教育されている。
だからまだ耐えられる。
「私も舞ちゃんでよかったわ」
そう言うと、照れたように下を向く。この年頃は不安定で難しい。
反発する子も多い中で、素直に話せる子は稀だ。
この状況で他人だからこそだろうけど、正直言って助かる。
「はい。ところで佳代さん、今、無理してます?」
「うん。今頑張っている」
舞ちゃん目が見開いた。
「大人なのに、佳代さんはどうして隠さないのですか?」
「舞ちゃんがしっかりしているから。それに、今は頑張るしかないじゃない」
そう、これから水の確保に食料の確保とやる事は満載だ。
「それに、トイレとお風呂はなんとかしたいじゃない」
「ええ、あれ、あり得ない」
壺のトイレに、冷めたお風呂。それも、目の前でお湯が運ばれる精神的苦痛は計りし得ない。
「あれじゃあ冷めているのに、文句も言えない」
「まさにそれ」
「でも、寒いし」
「そうなんですねよ!」
もう、ため息しか出ない。
悲観的になるのも絶望感に浸るのもその後でいくらでもできる。
「めっちゃ心残りばっかだけど、今はやる事いっぱいですね」
「うん。正直言うと、今どハマりしている『鬼切の刀』の最終回を読めていてよかった。そうでなかったらもっと暴れてる」
「あ、映画がすごい人気ですよね」
テレビアニメも良かったけど、映画は秀逸だった。
「映画は本当に良かった。三回見たけど、三回とも号泣しちゃった。次は4DXで見る予定だったからそれは無念」
「それ?」
「あと、なる系小説の続きが気になるし、何より洗濯物がどうなったか無茶苦茶気になる」
「そこ?」
若干引かれたみたい。
「あ、スマホの電源は切った?」
「え? 何故?」
「何か使えるかもしてないけど充電は出来ないから、なるべく温存したいかなって」
すると舞ちゃんはバッグから充電器を出した。
「これ使えます。太陽電池式充電器!」
「よくそんなの持っていたわね」
「震災の時大変だったからって、お父さんが用意してくれ……」
泣きそうになっている。
こう言う時はもう泣いた方がいい。
「思い出させて、ごめんね。泣いちゃていいからね」
すると舞ちゃんはいっぱい泣いて、泣きながら寝た。
それを見て私も泣きながら寝落ちした。
涙はなかなか枯れない