はん点、どこにいったのかしら?
ナナホシテントウのナナは、七つの黒いはん点がじまんの、とてもかわいらしいテントウムシです。朝になると、いつも水辺で、水にうつった自分のはん点を見て、うっとりするのでした。ですが、ある日……。
「あれれっ、わたしのはん点、一つなくなってるわ!」
ナナは驚いて、思わずバタバタと羽を動かしてしまいました。水面がわずかにゆれて、ナナのすがたもゆらめきます。ナナは必死になってきのうあったことを思い出します。
「どうして、はん点がなくなったのかしら? えっと、きのうは、赤い実のなる木で、いつものようにアブラムシを食べてたんだわ。で、おともだちのちょうちょさんのところに行って、それから水辺の草につかまっておひるねして……」
いったいどこではん点をなくしたのでしょうか? ナナはしばらく考えていましたが、やがて羽を広げて飛び立ったのです。
「とにかく、きのう行ったところにもう一度行ってみましょう。もしかしたら、はん点が落ちてるかもしれないわ」
ナナはまず、赤い実がなる木に飛んでいきました。ここにはナナの大好物の、アブラムシたちがたくさんいるのです。ナナのすがたを見て、アブラムシたちが逃げていきます。
「もしかして、アブラムシたちがわたしのはん点を盗んだのかしら?」
ナナの言葉に、アブラムシたちはぶるぶる首をふります。
「おいらたちじゃないやい! テントウムシのはん点なんて、盗んだってなんにもなりゃしないよ! だいたい怖くて逃げてるのに、どうやって盗むんだよぉ!」
「じゃああんたたち、わたしのはん点知らないの?」
「知らないよぉ! 助けてくれぇ!」
逃げていくアブラムシたちを、ナナはうたがわしげに見ていましたが、やがて羽を広げて飛んでいきました。
「アブラムシたちのいうとおりかも。あいつら、わたしのことを見るとすぐに逃げていくから、多分違うわね。じゃあ、今度はちょうちょさんに聞いてみましょう」
ナナは花の近くでひらひら飛んでいる、ちょうちょに聞いてみたのです。
「ねぇ、ちょうちょさん、わたしのはん点知らないかしら?」
「あら、ナナちゃんじゃないの。あれ、ホントだわ、はん点なくなってるわね。どうしたの?」
「今日起きて、水辺で水にうつったすがたを見てたら、気づいたの。どうしよう、わたし、ナナホシテントウなのに、はん点がなかったら、ロクホシテントウになっちゃうわ」
泣きそうになるナナを、ちょうちょはかわいそうに思って見ていましたが、やがて、あっと声をあげたのです。
「そっかぁ、わかったわ。ナナちゃん、あのね、水辺に行ってごらんなさい。そこで、きれいに羽を洗ってごらん。そうすればわかるわ」
「えっ、羽を? でも、どうして?」
「いいから、ほら、行ってごらんなさい」
ちょうちょにいわれるままに、ナナは水辺へ飛んでいきました。
「ちょうちょさんはああいってたけど、でも怖いわ。だけど、はん点がないのはもっといやだし、よーし、それなら……」
ナナは勇気を出して、ごろんっとひっくり返り、水に羽をつけたのです。ひんやりと冷たい水が背中に広がっていきます。
「ひゃあっ! 冷たいよぉ、でも、羽をきれいに洗って……」
冷たくてびしょびしょになるのをがまんして、ナナは水でばちゃばちゃ羽を動かしました。しかし……。
「これくらいでいいかしら。早く水から出ないと……って、ダメだわ、羽が動かせない!」
水にぬれてしまったからでしょうか、ナナの羽は重くなって、羽ばたくことができません。と、そこに先ほどのちょうちょがひらひらと飛んできたのでした。
「ナナちゃん、つかまって!」
ちょうちょがナナを捕まえて、水から引っぱり上げてくれたのです。ようやく水から出ることができて、ナナはホッとして、ちょうちょにおれいをいいました。
「ありがとうちょうちょさん。でも、これでホントにはん点が見つかるの?」
「ええ。ほら、もう一度水にうつったすがたを見てごらんなさい」
ちょうちょにいわれるままに、ナナは水にうつる自分のすがたを見つめました。
「あっ、はん点がある! ちゃんと七つあるわ!」
「ね、あったでしょ」
「でも、どうして?」
「たぶんナナちゃん、アブラムシを食べるのに夢中で、気づかなかったのよ。ナナちゃんのはん点、赤い実の汁で染まってたわ。だから黒いはん点が、赤くなって見えなくなっちゃってたのよ」
ちょうちょの言葉に、ナナはなるほどとうなずきました。
「でもよかった。これでわたし、ロクホシテントウにならずにすむわ」
ナナの言葉に、ちょうちょは思わず笑ってしまいました。ナナもてれたように、きれいになった羽をパタパタと動かすのでした。