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~第6節 疑念~

 セレナ・ナツミ・カエデ・カケルの4人は大学研究室でのアキラとのやり取り

の後、鎌倉駅へ向かって電車で向かっていた。そこそこ混んでる揺れる車内で会

話は自然と先ほど特定した魔力特性の話で持ち切りになっている。しかし、一人

セレナはぼぉーと窓の外を流れる景色を眺めていた。


(アキラさん・・・心配していてくれたの・・・嬉しいなぁ・・・)


「ねぇ、セレナはどう思う?・・・って聞いてる?」


「えっ?あぁ~ゴメンゴメン(汗)ちょっとぼぉーとしちゃってて。え~と、何

だっけ??」


 ナツミは話をセレナへ振るが聞いていなかったセレナは弁明する。


「セレナちゃん大丈夫?まだ体調戻ってないとか?」


「だ、大丈夫、大丈夫。ちょっと考え事をしてただけなのっ」

 

 心配してカケルも声を掛けるが、セレナは両手を出し左右に振りその心配をか

わす。


 ★ ★ ★


 ー--その1時間前、アキラから一通りの話が終わり、4人は大学研究室を後

にしようと準備していた。


「カエデさん、防具屋に着いたら彼に渡して欲しい物が1つあるんだけど、いい

かな?」


「はい、何でしょう?」


 そして自室の机の上に用意していた透明なケース入りのDVD-Rを手渡した。


「これは彼から頼まれた訳じゃないんだけど、情報共有って感じだね」


「分かりました、ちゃんとアギト先輩に渡しておきますね」


 しっかりと両手で受け取り、カエデは背中のリュックへ収めた。出掛ける4人

を見送るアキラ。


「それじゃぁ~みんな気を付けて行ってくるんだよ」


「アキラさん、今日はありがとうございましたっ!」


「またお手伝い出来ることがあったら、遠慮なく言ってくださいっ」


 先にナツミとカケルが部屋を出て、カエデもそれに続く。最後にセレナは研究

室を出ようとした時、昨日聞きたかった事をアキラに問いかける。


「あ、そういえば一つ聞いていいですか?」


「ん?あぁ、何だい?」


「アキラさんがこの前助けてくれた時、どうして私がそこにいるって判ったんで

すか?あの時は気が動転していて聞けなかったので・・・」


 改めてアキラに向き直ったセレナに、アキラは眼鏡を中指で直して答える。


「あの時は・・・どうにも胸騒ぎがしてね。心配だから外にいる3人にチャット

で確認して追いかけて行ったら、まだ駅前だったというタイミングで、1人でま

た買い物に戻ったと聞いてね。そうしたら例の状況だった訳だよ」


「そうだったんですね、ありがとうございます。ぇと、それだけです。それじゃ

失礼しますっ」


「あ、うん、くれぐれも無理しないでね」


 ペコリとお辞儀をしてセレナはそそくさと研究室を出た3人に追いつこうとし

た。


 ★ ★ ★


 ---そして時間は電車で向かう車内に戻る。良く晴れた日の光が窓から光条

を余すところなく射し、時折建物の影で点滅するように見える。


 ガタンガタガタガタン・・・


「それにしても魔力特性が判っても、実際の魔術はアキラさんに教えてもらえな

かったんだよね」


「それはまぁ、仕方がないんじゃないかな?おいそれと教えてもらえるものでも

ないようだし」


 少し不満そうに言うナツミをカケルはなだめる。


「でもさっきのアキラさんのお話だと、ひょっとして来るべき時が来たら教えて

もらえるかもしれないですよ?」


「来るべき時・・・って、どういう時?」


 自信あり気に人差し指を立てて話すカエデに、セレナはすかさず突っ込みを入

れる。


「それは、やっぱり襲われた時じゃないですか?」


「ちょっと怖い事言わないでよっ・・・」


 カエデのその一言に青ざめるセレナは少しだけ縮こまる。そしてセレナが言い

終わる語尾に被るようにして車内アナウンスが流れる。


≪ー--えぇーまもなく鎌倉、鎌倉でございます。お出口は右側が開きます、ご

注意くださいー--≫


「うん、そろそろ着くわね。空手の道着屋とは違って、剣道の防具屋なんて初め

て行くから楽しみだなぁ」


 何となくウキウキしながらナツミは到着間近の鎌倉の街並みを窓越しに眺める。


「私も鎌倉来るのは久し振りだなぁ・・・いつ振りかな?神社にお参りに来て以

来かなぁ?」


 斜め上を見るとはなしに昔の記憶を辿り、セレナは思い出す。


「その神社の割と近くに防具屋兼武器屋はありますよ?」


「えっ?防具は判るけど、武器屋って何?何?」


 あっさりとしたカエデの一言にカケルは目を輝かせて喰いついた。


「武器屋っていうのは通称で、別に違法な物を売ってる訳じゃないですよ。全部

模造品レプリカですからね」


 プププと含み笑いをしながらカエデは口に手を当てる。


「へぇ~模造品レプリカなんだ?でも凄い興味を惹かれる!」


 興味を俄然沸かせたカケルは電車のドアが開くと同時に駆け降りた。あとの3

人もゆっくりと電車を降り、駅の改札を通過したところで一旦みんな立ち止まる。


「ところでその防具屋は歩いて行けるの?」


「歩いて行けますよ、こっちです」


 ナツミの問いかけにカエデは店の方向を指刺し、先に先導する。それにつられ

てぞろぞろと残り3人もついて行く。通りには千差万別な店が立ち並び、観光客

らしき人々もあちらこちらに見られる。


「ねぇ、そういえば聞いたことが無かったけど、カエデはその防具屋の主人の人

と知り合いなの??」


「そうですね、アギト先輩はうちの剣道部の元主将でアキラさんと同級生なんで

すよ」


 前を行くカエデの背中越しにセレナは防具屋の主人との関係を問い掛け、歩き

ながらカエデは首だけ少し後ろに振り返る。


「へぇ~アキラさんと同級生の先輩なんだね?!知らなかった」


 そうこうして話しながら歩いているうちに、一行は目的の防具屋へ到着した。

和風の間口の広い店であり、ここにも多くの観光客で賑わいを見せている。


「ここです、到着しましたよ」


「わぁ~♪何これっゲームの中の武器みたい、マジ凄い!?」


 カエデの案内を待つことなく、カケルは店の中へ飛び込むように入って行った。

それに対してナツミは溜息交じりに呟く。


「全く落ち着きがないんだから・・・へぇ~雰囲気の有る良いお店だねぇ~これ

模造品レプリカだなんて言われても直ぐには思えないけど」


 店内には数多くの武器の模造品レプリカが展示してあるが、片隅に剣道用の防具や竹刀

も防具屋らしく置いてある。そしてカウンターには日に焼けた浅黒い肌の一人の

屈強なスキンヘッドの男が店番を務めている。


「こんにちはアギト先輩、今日も賑わってますね。友達のみんなも連れて来まし

たよ」


「おっ?カエデかぁ、お疲れさん。ダチも一緒かぁ。まぁ、待ってる間ゆっくり

店内でも見て行ってくれ」


 軽くアギトと挨拶すると、カエデは3人の方へ向き直り、片手を差し出して紹

介を始めた。


「こちらがここの店主の『黒鉄くろがねアギト』先輩です」


おおとりナツミです」


御宮寺おんぐうじカケルです」


火神かがみセレナです」


 カエデの友人側各々の紹介が終わったところで、アギトは最後に紹介されたセ

レナに向き直り、返答する。


「おぅ、よろしくな。そっちの嬢ちゃんがセレナちゃんか。アキラから話は聞い

てるぜ。色々と大変だったみたいだな。体調は大丈夫なのかい?」


「あ、はい!今は何ともないです。ご心配頂きありがとうございます」


 アキラから話が通じており、意外な人物より心配されていたことにセレナは感

謝の言葉を返した。


「それじゃ、カエデは防具の新調だったな。胴だけで良いのか?みんなには申し

訳ないが時間がかかるから、ちょっと待っててくれ」


「あ、先にこれを渡しておきます。アキラさんからです」


 スキンヘッドの後頭部をペチペチと叩きながら、アギトは4人に店内で時間を

潰してもらえるように声を掛ける。その返答代わりにカエデはリュックから1枚

のDVD-Rをアギトへ手渡した。一瞬疑問に思ったが、すぐにアギトは内容を

理解した。


「アキラから?あぁ、以前に俺が言っていた件か。思ってたより早くデータが揃

ったようだな、助かるよ」


 そしてアギトとカエデは胴防具の検討のため、店の奥の方へ一時姿を消した。

手近な日本刀を持って、カケルはぽつりと呟く。


「それにしてもどれを見てもリアルで僕も欲しくなっちゃうなぁ・・・」


「あんたに手の届く金額なのぉ?」


 どれもこれも実物と見まがうものばかりだが、値段も万単位で簡単に大学生で

手の届く金額ではない。


「はぁ・・・それは・・・まぁねぇ・・・バイトでもするかなぁ」


「そうそう、欲しいなら自力で稼がないとね?」


「でもバイトしてもそれが買えるくらいって、いつになるんだろうね?」


 自分の手に持つ日本刀の模造品レプリカを羨ましそうに見ながら、カケルはガックリ肩

を落とす。それに対してナツミ・セレナは失笑の上ダメ押しをする。そこで3人

はあれだけいた観光客が一人も店内にいないことに気が付く。また外は真っ昼間

の時間にも関わらず、いつの間にか薄暗くなっている。


「えっ?ちょっと待って・・・何かお店静かじゃない?」


「外もやけに暗いけど、急に天気悪くなった?」


 まずその異変にセレナが気付き、ナツミも外の異状に気付く。


「たまたまじゃないかな?お客さんの波って有るでしょ?」


 と独り能天気な返答をするカケル。次の瞬間、聞いたこともないような何かが

弾ける音が外から響く。


 ー--バイィィィィィィン!!


「キャッ?!」


「何っ?!」


「うわわっ?!」


 店内の3人はその異様な音に一瞬身体が浮くくらいに驚く。その内カケルは持

っていた日本刀を落としそうになり、余計に慌てふためく。そこへ異様な音に気

付いたアギトが店の奥から、またそれを追うようにカエデも走って姿を現す。


「何?どうした?!外か?」


「何の音ですかっ!?」


 少なくとも音の出所は店内ではないことはアギトはすぐに察した。


「外から聞こえました!って、えぇ!?」


 アギトへ答え、外へ確認しに行ったところでカケルは驚愕の光景を見る。


「なっ?!これはっ!」


 全員が外に出ると、そこには光る白色の障壁が店全体を覆っており、その更に

外周を取り囲むように黒い霧が取り囲んで辺りを薄暗くしていた。そしてその黒

い霧からはわらわらと小鬼ゴブリン豚人オーク狼獣人コボルドが現れ、白色の障壁を手持ちの武器で

ガシガシと攻撃をしていた。その時の衝撃が先ほどの音を発していたようだ。


「くっ、一旦店の奥へ戻るぞ!」


「はいっ!」


 アキラからある程度は聞かされていたが、こんなに早くその状況になるとはと

セレナ以外の3人は思っていた。セレナ自身は一度身を持って体験しており、ラ

イムやアキラの忠告を聞いていたため、ある程度の免疫は出来ていたようにも見

える。


「あの光は?」


「あれはこの店に張っている結界だ、簡単には破られはしない。が、このままじ

ゃいつ破られるか分からねぇ。だから応戦の準備をするのさ」


 店の奥へ走りながらナツミはアギトへ謎の光る白い障壁について尋ねた。続い

てカケルもアギトへ喰いつく。


「準備って僕たち何も装備持ってないですよっ(汗)警察や機動隊に連絡した方

がいいんじゃないですか?」


 一番奥の店頭と同じような武器が掛けられた部屋まで走り、壁の一部に掛けら

れた剣を取り外したところで、アギトは少し驚いたようにカケルへ答える。


「あぁん?アキラから聞いてねぇのか?やつら魔物モンスターには通常の物理攻撃が通用し

ないのさ。それに人払いで標的を見つける前に帰っちまうぜ」


「えぇっ?!通常の物理攻撃が通用しないって・・・銃や普通の刃物なんかが効

かない相手にどうすればいいんですかっ?!」


 アギトが剣を取り外したラックに斧を掛け替えると、カチッと音がしてゴゴゴ

と重い隠し扉が開き、奥に新たな通路が現れた。


「その為に奴らに対抗出来る武器、暗黒結石ダークストーンで磨いた武器でなら問題ない。それ

がこの奥にあるのさ」


 店頭に並んでいるものとは一目でその輝きや鋭利さの違う武器や身に着ける防

具等がそこにはずらりと並んでいた。その内のケブラー素材の胸当てや脛当てを

装着し、アギトは他の4人に伝令する。


「これは機動隊などが使ってるケブラー素材のボディアーマーだ。軽くて動きや

すいからお前らには丁度いいだろう」


 4人は黙々と着たことのないボディアーマーを装着し、着心地を確認する。そ

こでセレナがポツリと呟く。


「やっぱり・・・私がいるからですよね、多分・・・」


「それは言わない約束ですよ」


 不安に駆られ自分に責任があると認識しているセレナの手を取り、カエデはジ

ッとセレナの顔を見つめる。


「その為にあたし達がいるんだ、気にしない気にしない。ところでおっさん、手

甲みたいのは無いの?」


「おいっ!俺はおっさんじゃねぇよ!これでも27だぞっ。ったく、そこに鋼鉄

製のが幾つかあるからどれでも好きなのを持ってきなっ!」


 明らかな失言をナツミはアギトへ浴びせる。それに不服なアギトは反論するが、

的確に指示はする。


「御宮寺、お前はこれを持って行け」


 言いながらアギトはジュラルミンの大盾をドスンと音を立ててカケルへ渡す。


「ちょ、ちょっと!これってタワーシールドじゃないですか!?こんなのゲーム

の中でしか持ったことないですよ!」


「お前も男だろ?前衛でこれを持って俺以外を守るんだ」


 大盾を渡されヨロヨロと少しバランスを崩しながらカケルは体勢を持ち直す。


「俺以外って、アギトさんは大丈夫なんですか?」


「まぁ、俺の事は気にするな。それとみんなこれを持って行ってくれ」


 各々へ一人ずつアギトは薄い手帳を渡していく。


「これは、何ですか??」


 中を開く前にセレナはアギトへ確認をする。


「これは初級の魔術が書かれたアキラのノートのコピーだ。各属性毎にページが

分かれている。書かれている通りに読み上げないと発動しないから注意しろよ。

まぁ、でも嬢ちゃんは無理しないことだな」


「あ、はいっ!」


 初級魔術の書かれたノートをササっとめくりながら、カケルは毒を吐く。


「魔術もぶっつけ本番じゃないですかぁ・・・」


「大丈夫だ、俺がフォローするから」


 ポンポンとカケルを抱えるように肩を叩くと、アギトは近くの大きな斧に手を

伸ばす。カエデは目に入った薙刀なぎなたを持ち、セレナは短杖ライトスタッフを選んだ。ナツミは手甲

のみで得物は持っていない。空手と手甲が武器と考えているようだ。


「よしっ!みんな準備はOKか?行くぞっ!」


 目視で準備完了を確認してアギトは先頭を走って店の出口へ向かう。それに4

人が続いて行く。店の外へ出ると見た目の状況はあまり変わっていないが、光る

白い障壁の色は薄くなり、魔物モンスターの数も先程の倍程度まで増えているように見え

る。そして防具屋を守ってきたその結界は限界を迎え、ガラスが割れる様に粉々

に砕け、地面に落ちる前に光の粒子へと変わってしまった。


「ようやく邪魔な結界が砕けたようだなっ!」


 魔物モンスターの集団の向こうから一人の黒フードに黒マントで黒ずくめの男、恒河沙ごうがしゃカズヤが姿を現した。


「やはりお前かっ!カズヤ!何しに来やがった?!」


 予想を裏切らない仇敵の出現にアギトは動じない。


「久しぶりだなっ!アギト。元同胞であり、そして裏切り者のなっ!」


 そして予想だにしないカズヤの返答に、アギトの後方で構えていたセレナ・ナ

ツミ・カエデ・カケルの4人はその驚きを隠せなかった。


「えっ?!元同胞で裏切り者・・・って、ど、どういうことですか??」


 アギトの背中に向かってカケルは冷や汗と共に疑念の問い掛けをした。


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