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~第3節 別離~

 炎が時折大きく燃え盛る車体前方に照らされた車内の二人を夢とも過去の記憶と

もつかないの中のセレナ本人は、割れた車のガラス越しに固唾を飲んで見守る。


「…私のSPが事故に気付いている筈だから…間もなく…助けが来る…」


 モトツネは懐からあるものを取り出し、震える手でセレナへ差し出す。それを

朦朧もうろうとした意識で受け取りセレナは目を凝らす。


「…これはっ…?」


「これを肌身離さず持っておいて欲しい…」


 橙色の明かりの中でセレナが受け取ったのは光輝く六芒星の中に地球のデザイン

がされたペンダントだった。


「…これって…」


「私は…この状態ではもうダメだ…」


「そんなっ…でもっ、もうすぐ救援が来るんでしょ?それならっ!」


 下半身に感覚が無い状態でも上体をモトツネの方へ乗り出し、セレナは震える声

で答え涙で霞む目を手で拭う。


「この炎の中ではいつ引火するか分からない…だから、聞いてほしい」


「うん…」


 セレナはモトツネの次の言葉を待ちながら唾を飲み込んだ。


「セレナ…お前には見えないものを見て感じる力がある…だからアセンションに力

を貸して欲しい」


「私に見えないものを見て感じる力…アセンションって…何の事か分かんない

よ!」


「今はまだ解らないかもしれないが…いずれ解る時が…ゴホッゴホッ」


「あっ!」


 モトツネはセレナの心配を手で制し、吐血と共に説明を続ける。


「…そして内なる魂の響きに声を傾け…波動を上げることだ。それから母さんを頼

む…」


 涙ぐむセレナの頬にそっと手を添えモトツネは優しく微笑む。程なく救助用のヘ

リがバラバラという風切り音と共にサーチライトを照らしながら事故現場の上空か

らゆっくりと降下を始めた。


「ようやくか…力の根源たるマナよ!光の精霊ルミナスよ彼の者のまぶたより光を奪い

安寧なる眠りをもたらしたまえ!昏睡魔術ディープ・スリープ!」


「いやぁぁぁっ!お父さんっ!」


 セレナの悲痛な叫びも空しく足元を中心に光る魔法陣が展開され、モトツネは力

強く眠りの魔術を唱える。そしてセレナは力なくうなだれ深い眠りに落ちた。


(…そう、ここで私は眠らされて…これがお父さんを見たのが最後…)


 傍らで事の成り行きをじっと見守る夢の主のセレナは、自分が車内から駆け付け

た救護班にストレッチャーで救助用ヘリへ運び出される光景を複雑な気持ちで見送

る。そしてモトツネはぐったりとしているセレナを救護班へ託す。


「…娘を頼む。腰と下半身をやられているようだ」


「分かりました、教授は?」


「私の方はこの状態だ…いつ引火してもおかしくない。さぁ早くヘリへ!」


「しかしっ…」


 救護班の問いにモトツネは首を横に振り、自分はもう助からないことを暗に告げ

る。そしてセレナが運び出された後にモトツネは独り呟いた。


「…セレナ、生まれてきてありがとう。私の誇りだ…」


(ぅっ…お父さん…最期の言葉を聞けたよ、本当にありがとう…)


 決してあの状況で聞くことの出来なかった父の言葉にセレナはとめどなく涙が溢

れ出る。そんなセレナの姿を見ることの出来ないモトツネはキリッと前方へ視界を

移し、恨むような視線を向ける。


「ハッハッハァッ!これでお役御免だなっ!」


 モトツネの視線の先には1人の黒い人影が見える。徐々に視覚が慣れ黒マントに

目深に被った黒フードからはみ出した銀髪と狂気に満ちた口元が見えた。セレナも

同じように視線を送り、黒フードの男が颯爽と踵を返し立ち去るのが見えた。


(あれは…誰?)


 セレナはその黒フードの男に面識は無かったが明らかに今回の事件を引き起こし

た当事者と思われた。そして救護班のヘリが上空高く上昇を始めた時に、火神親子

の乗っていた車は炎がガソリンタンクへ引火し、ゴゥンという轟音と背の高い火柱

と共に車は爆散した。


 ★ ★ ★


 ---車大破の瞬間と同時にセレナの意識は元の身体に戻っていた。ゆっくりと

目を開けるとそこには見覚えのある白い天井が目に入って来る。そして両頬には涙

の流れた跡がくっきりと残っていた。


「…ん…」


「…セレちゃん、意識が戻ったんだね、良かった!」


 病院の一室でベッドに横になっていたセレナの傍らには、藍色の髪に細めの眼鏡

を掛けたアキラが椅子に座り半ばうつらうつらと船を漕いでいた。


「ここは以前にセレちゃんの入院していた病院だよ。あの後セレちゃんが気を失っ

てしまって、また傷もあるかもしれなかったから、検査も兼ねて丁度近くだったこ

こへ駆け込んだんだよ…とにかく意識が戻って本当に安心したよ」


 セレナが上半身を起こそうとしてアキラは傍に寄り添い背中を支える。


「アキラさんごめんなさい。さっきは本当にありがとうございました。アキラさん

の方は怪我とかしてないですか?」


「うん、僕の方は幸い特にどこも怪我も無く大丈夫だよ。セレちゃんはどこか痛い

ところとかは無い?」


 そう言いながらアキラはベッドに横付けされた椅子に再び腰掛けた。


「う~ん…頭がちょっとクラクラする位で、あとは大丈夫そうです」


「そっかぁ、それなら良かった…それから、何か悲しい夢でも見た?」


 セレナの涙で濡れた頬に手を添えてアキラは心配そうに顔色を伺う。そこでセレ

ナは大きくなる心臓の鼓動と既視感デジャヴと身体の震えを覚え、途端に再び目が涙で潤

む。


「私…夢の中だと思うのですが、父に会いました」


「火神教授に…お父さんに会えたんだね…」


「…あの事故当時のとても夢とは思えない光景が記憶通りに…そして私の聞くこと

の出来なかった父の最期の言葉を聞くことが出来ました…」


 嗚咽と再び涙で溢れる目を手で拭いセレナはアキラに向き直る。


「最期の言葉を聞けたんだね…それはお父さんからの伝え忘れたメッセージだった

のかもしれないね。僕も偉大な功績を残して頂いた火神教授の助手として本当に誇

りに思うよ」


 アキラはセレナの頭を自分の胸に引き寄せるようにして優しく抱え込む。


「僕は以前に火神教授から何かあった時のためにその後を任されるように聞いてる

よ。その意志も受け継いで行かないといけないと思ってる。そしてそれは研究の事

だけじゃなくて君の事もだ。だから幼馴染という理由だけじゃなくて、どうしても

君を守りたいんだ!」


 セレナは唐突な展開に自分でも顔が激しく紅潮するのが分かった。


「ア、アキラさん…ありがとうございます。そ、それと、あれだけの魔物に取り囲

まれた時…あまり覚えていないんですが突然凄い炎が噴き出して倒れていった様に

見えたのですが、あれはアキラさん…が?」


「あ…うぅん」


 少し咳ばらいをしてセレナと距離を取ると、おもむろに立ち上がりアキラは説明

を続ける。


「…あれは、端的に言えば道具アイテムを使った魔術の1つなんだ」


「えっ…魔術?魔法ってホントにあるんですか?」


 あまりに現実離れした回答にセレナは目を丸くする。


「そう…これは一応他言禁止ということで。火神教授の研究では考古学と神秘学が

あることはお父さんから聞いていたかと思うんだけど、研究対象の中には古代や中

世の魔術も含まれるんだ。そしてそのうちの1つの呪文を魔力の込めた紙に書き込

んで使う…その道具の1つが『呪符』と言われるものでね」


 後頭部に片手を添えながらゆっくりとアキラは窓側に向かって歩きセレナの問い

に答える。


「『呪符』…なんか聞いたことがある名前ですけど…それって何度も使える魔法な

んですか?」


「う~ん…これは残念ながら、一度使うと消えてしまうんだ。消耗品だね。あとそ

れから僕らはその魔法を『魔術』と呼んでいるのさ。魔法っていうと何だかおとぎ

話のような感じがするでしょ?でもこれらはそうじゃなくて、現代に蘇った立派な

技術であり学術でもあるから、そのように呼んでるよ」


「なるほどぉ…魔術…私にも使えたりするのかなぁ…」


 窓の外を眺めて答えていたアキラは首を傾げて納得するセレナに向き直る。


「そうだね…僕が呪符を使っていたのは実は自身の魔力総量が少なくて、道具アイテムを使

うことで能力を補っていたんだ。でもセレちゃんがもし魔力総量が十分な量を持っ

ているなら、道具アイテムを使わずとも使えるかもしれないね」


「魔力総量…ですか?」


「うん、うちの研究室にまだ試作段階だけど測定装置があるから、今度時間がある

時にでも来てもらえれば調べられるよ。今日は遅いから詳しい話の続きはまた今度

にしよっか?」


 窓から離れ再びセレナの傍に寄り、アキラはスマホに撮った測定装置の写真をセ

レナに見せる。


「あっはい。でも私これからだとちょっと…」


「大丈夫、今日はここに泊まってゆっくり身体を休めるといいよ。担当の先生には

もう伝えてあるから。明日の朝にまた迎えに来るよ」


「色々とありがとうございます」


 セレナに見送られてアキラは個室の出口を出ようとした時、ふと思い出して再度

セレナの傍らへ歩み寄る。


「あっと忘れてた。そういえば1つ気になることが有ったんだけれども…」


「気になること?」


「うん…セレちゃんを襲った魔物を追い払った後、ビルの屋上から逃げる黒マント

に黒フードの男を見たんだ。何か心当たりは有ったりする?」


「えっ、その見た目の人…夢の中で見た風貌の人にそっくりです!」


 それを聞きセレナの休むベッドの端にアキラは険しい顔をしてゆっくりと腰を掛

ける。


「その夢の中の人物が仮に同じだとすると…僕の推測が正しければ奴は恐らく『

恒河沙ごうがしゃカズヤ』…闇の犯罪組織『ダークスフィア』の一人だ」


 聞き覚えの無い名前だが、セレナは背中にいわれのない悪寒を感じてアキラの答

えをオウム返しに呟いた。


恒河沙ごうがしゃ…カズヤ?」


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