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~第25節 牛頭の魔物~

 朝の陽は少し角度が上がって、森の隅々まで明るく照らす光を放っている。野鳥や小動物も朝の活動を既に始めている時間だ。出発の準備をそれぞれ終えるべく7人は、ドライアード達から渡された各々食料と水ボトルを、背負いリュックに詰めていく。


「おいカケル、女性陣の食料を持ってやれよ」


 男性陣はさておき、女性陣も同量の重めの食料と水ボトルを背負う姿を見たアギトは、カケルのその肩代わりをするように指示する。しかし、女性陣4人分の食料全て背負うには、かなり重いに違いない。


「えぇ~っ!そんな量、持てるわけないですよ…ドワーフ族になったアギトさんなら、人の3倍くらいの荷物も、軽々と持てるんじゃないですか?」


 思わず弱音を吐くカケルだが、それも無理はない。普通の人が背負うには重いだろう。ましてやこれから強敵の魔物と一戦交えようとするなら、なおさらのことである。


「そうだな、俺の斧の重さは変わっていないはずだが、かなり軽く感じるぜ。大体俺が運ぶのはいいが、前線に立って戦うんだぜ?その俺に持てっていうのか、お前の方は後衛だろ?」


 ブンブンと風切り音を鳴らしながら、軽々と重いはずの両刃斧を振り回し、自分の筋力が増加していることを確認した。


「そんなぁ!パワハラですよ…戦闘が始まったら、その辺に置けばいいんですよ…ここが異世界なら、ストレージとかアイテムボックスとかってないんですかね…」


 げんなりと肩を落として、カケルは悪態をつく。そこにすかさず突っ込みをアギトは入れる。


「あぁ?異世界とはいえ、そんな物理法則を無視した便利なものが、あるわきゃないだろ」


「ですよねぇ…」


「僕も後衛で申し訳ないが、あまり戦力は期待できないので、半分持とう」


 カケルをフォローするため、アキラはアギトとの会話に割って入った。


「アキラさん、ありがとうございます。ホントに助かります。それにしても、クエストを初受注して出発だなんて、ホントにRPGの世界に入ったみたいですね!」


 フォローしてくれたアキラに感謝し、目をキラキラさせながら、カケルは木漏れ日を浴びながら、晴れ渡った空を見上げる。そこには数羽の鳥が魚の隊列のように組み、ゆっくりと飛んで行くのが見える。


「これからミノタウロスを討伐するっていうのに、あんたは悠長ねぇ」


 準備し終えたナツミは、腕を組んではぁ…とため息交じりにつぶやく。


「よし、そろそろ頃合いか。出発しよう!ライアさん、案内お願いします」


「わかりました、それでは参りましょう」


 ライアが先導する形で、一行は岩山方面の森の出口を目指すことにした。


 ★ ★ ★


 一行は森を街道添いに西へ20分ほど隊列を組みながら歩みを進め、まもなく視界の端にゴツゴツとした岩山が、木々の間から見える景色を確認できるまでに近づいてきた。そしてすぐにこの森の違和感に気が付く。それは本来あるはずの木々が、短い切り株だけを残して、ほぼ一帯が切り倒されていたのだ。岩山の前にいるはずのミノタウロスは丘の向こう側になるので、直接は目視できないようだ。森の出口付近へ近づいてきた時、おもむろにドライアードの女王ライアは歩みを止め、クルリと踵を返し一行の方へ振り向いた。


「わたくしがご案内できるのは、ここまでです。この丘の向こう側に、例のミノタウロスはいるはずです。どうかご武運を」


「わかりました、ここまでありがとうございます。全力を尽くします」


 ライアに一礼をして、アキラは森の出口までの道案内の感謝をライアに伝える。そしてメンバーに向き直ると、決戦の決意の言葉を告げる。


「とうとうここまできた。まず僕が交渉を試みるので、みんなは慎重に行動してほしい」


 アキラ以外の全員が黙ってうなずき返した。ライアはそれを確認すると、光の粒子をまといながら木々の間に消える様に姿を消して行った。ライアと別れてからは、再び隊列を組んで岩山へ続く街道を一歩一歩進む。するとより一層岩山は眼前にそそり立ち、威圧感を増していく。岩肌もくっきりと見えるくらいまで近づいた。岩山の門とおぼしき前には、牛の頭をして革の胸鎧を着た、身長が3mに届くかのような巨人が鼻息荒く、人の背丈ほどもある超大型の両刃斧の素振りをしていた。一行が近づいてくるのが見えると、ズシリとその両刃斧を置き、物珍しそうに眺めてくる。


「ブルルルルゥ…ヒト、ボウケンシャカ?コンナトコロニ、メズラシイナ」


 ミノタウロスは片言の人語で、野太く低い声で未知の来訪者に問いかける。一行はアキラを先頭にして、念のためミノタウロスの攻撃範囲外に立ち止まり、様子をうかがう。


「この岩山の先に、町はあるか?ここを通して欲しいんだが」


 黒目だけの片方の目を大きくして、ミノタウロスはアキラの方へ顔を近づける。勢いのある鼻息が顔をかかり、その臭さに思わずウップとアキラは息を殺す。


「オレハココノバンニン。マチカ、アルゾ。タダシ、ヤミノシルシヲモッタモノダケヲ、トオシテイイト『ガント』サマカライワレテル。ヤミノシルシヲ、ソコヘカザセ」


 アキラの問いに対して、ミノタウロスはアゴで岩山の右側を指し示す。そこには人の手が届く高さで、暗黒結晶(ダークストーン)が埋まっているのが見てとれた。


「闇の印…?」


「ヤミノシルシ、モッテナイノカ?」


(やはりガントの息がかかっている者か。くっ、闇の印だと?そんなものは持ってないぞ…どうする…?)


 言い淀んでいるアキラに不信感を覚えたミノタウロスは、かがんでいた背を持ち上げ、傍らに置いていた超大型の両刃斧に手を伸ばす。


「オマエラ、ガントサマノシラナイヤツラ。ヤミノシルシヲモタヌモノハ、スベテコロス!」


「くっ、交渉は失敗だ!みんな、散開しろっ!」


 黒い殺気と黒目から変わった赤目を帯びて、ミノタウロスは胸を張り上空へ向けて咆哮を放つ。アキラの一声で一斉に散開する。


「この森の木を無差別に切り倒していると森の精霊達に聞いている!なぜそんなことをする?!」


 長杖(ロング・スタッフ)を構え、後退しながらアキラは木々伐採の理由をミノタウロスへ問い詰める。


「ナゼダト?ソンナコトハカンタンダ、オレノウサバラシニスギン。ドライアードタチニ、タノマレタノカ?オマエラハチョウドイイ、ヒマツブシダ!」


 更に鼻息を荒くし、ミノタウロスは両刃斧を両手で上段に構える。その瞬間を狙い、アキラはセレナへ声を掛ける。


「セレナくん、頼むっ!」


「はいっ!」


 アキラから魔術発動のタイミングの掛け声を受け、短杖(ライト・スタッフ)をミノタウロスへかざし、呪文の詠唱に入る。


「力の根源たるマナよ!光の精霊ルミナスよ、そのまばゆき光にて目標を照らし出したまえ!光の閃光(ルミナス・フラッシュ)!」


 白く輝く魔法陣がセレナの足元に現れ、手に持つ短杖(ライト・スタッフ)の先から放射状に、目もくらむような閃光がミノタウロスの目を正面からもろに受け、視界を奪う。同時に他のメンバー全員、発動の瞬間に目を伏せる。


「ブオォォォォォォ!メガ、メガ!ナニヲシタ!」


 突然の閃光で目を焼かれ、思わずミノタウロスは武器を背中から落とす。腕で何度も見えない目をこするが、視界はすぐには治らない。


「よし、今だっ!みんな、補助を頼む!」


 アキラの合図により、各々は同時に補助魔術などサポート行動に入った。


「ラララァ…ラララ、ラァーララァ…恐れなき…心をもて!」


 マリナはソルフェジオ・ファンクションの歌声にて、全員の恐れを退け士気を高める。それと共に全員の身体の表面が淡い黄緑色の光に包まれる。


「力の根源たるマナよ!光の精霊ルミナスよ、光の保護をもたらし彼の者の攻撃を防ぎたまえ!光の庇護(ライト・アサイラム)!」


 カエデの足元に白く輝く魔法陣が出現し、光属性の援護魔術で全員の防御力を強化する。呪文発動後は全員の身体が白く光り出し、包み込む。


「力の根源たるマナよ!火の精霊サラマンダーよ、炎の衣にて我が武器に力を与えたまえ!強化武器・炎エンハンスド・ウェポン・フレイム!」


 ナツミの足元には緋色に輝く魔法陣が現われ、火属性の武器強化付与の魔術で自らの手甲を強化する。さながら腕全体が炎に包まれているように見える。魔術の発動を確認すると、そのまますぐにミノタウロスの背後に回り込む。そして、魔術の立て続けとなるが、セレナがアギトの元に駆け寄り、次の呪文の詠唱に入る。


「力の根源たるマナよ!火の精霊サラマンダーよ、炎の衣にて彼の武器に力を与えたまえ!強化武器・炎エンハンスド・ウェポン・フレイム!」


 セレナの火属性の付与魔術により、アギトの大型の両刃斧が立ちどころに炎に包まれる。


「おぅ!なるほど、熱くねぇな。ありがとよ、嬢ちゃん!」


 そう言いながらアギトは両刃斧を一振りし、ミノタウロスの前面に立ち向かう。多量の魔力消費をともなう2連続の魔術使用により、セレナは肩で息をして一瞬ふらつきを覚える。そこでサッと後ろからアキラは腕で支えに入る。


「大丈夫?」


「は、はい…なんとか。少し休めば多分」


「あとは彼らに、一旦任せよう」


 ミノタウロスは相変わらずなんとかして視界の回復を図っているが、いかんせんすぐには戻らない。そこで目が見えるようになってからの対策として、カケルは弓に矢をつがえながら補助魔術を唱える。


「力の根源たるマナよ!地の精霊ノームよ、大地の衣にて我が武器に力を与えたまえ!強化武器・鋼エンハンスド・ウェポン・スティール!」


 カケルの土属性の付与魔術により、みるみるつがえた矢全体がさながら鍛えられた一本の鋼のように、光り輝く銀色へと硬化していく。付与が確認できると、ギューッと弓の弦を引き、次の打ち出すタイミングに備える。


「これで、いつでもOKですよ!」


「あぁ、ここまでは手筈どおりだ。あとはヤツがどう動くかだ」


 そこでソルフェジオ・ファンクションの歌唱を終えたマリナも、自らの刀を抜刀しアギトの斜め後方から、いつでも切り込める体制を整えた。


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