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~第17節 新たなる大地~

「おいっ!詳しいことはあとだっ!これでトラックから武器と防具を取ってこい!」


 そう言ってアギトは表面に黒のカラスがデザインされた、カードキーをカケルに向かって投げつける。急に投げられたそれを慌てて両手で受け取り、カケルはすぐにトラックに向かおうとする。


「は、はいっ!」


 それにつられるようにしてナツミとカエデもカケルの後を追って駆け出した。トラックへ着くと荷台のキーロックを受け取ったカードキーで開ける。狭くバリエーションが少ないながらも、自分に合う武器と防具を各々身に着けた。そして3人は急ぎ現場へ戻った。


 ―――ズズズズズズ…


 四神獣の玄武ことガントは真上に向けて魔獣の咆哮のあと、口を大きく開けて重苦しい濃い紫色の球体を生み出す。それはこの場にいる誰しもの動きを封じ込め、重力を強化する。その玉からは禍々しく重苦しい暗黒波動を解き放っている。


「こっ、これは…重力波かっ!?かっ身体が…重くて動かない!」


 自分の体自体が重くなったのか、重力が強いからかは分からず、アキラは跪きながら両手で長杖(ロング・スタッフ)にしがみつき、全体重を預ける。そんな中でもマリナは腰は低くなったものの、刀にかける手はそのままに耐えている。尋常ではない胆力と体幹力である。


「ヤツは自分の動きが遅いことを補うため、相手の動きを封じるってことなのかよ」


 大斧の先を下にした状態で、アギトもその柄にしがみつき、倒れるのを必死に耐えている。


「そうだ黒鉄(くろがね)。この俺はこの状態では動きが鈍い。そのためにこの重力波で相手を動けなくすれば、俺の攻撃は当たる。そしてこの重力波は動きを封じるだけではない」


「チッ、聞いてやがったか…動きを封じるだけではない?どういうこと…だよ」


 アギトのつぶやきはガントの耳に届いていた。普段の人間の時以上にくぐもった低い岩を擦らせたような声を響かせる。またそれに呼応するかのようにガントを中心にして、同心円状に闇の壁のようなものが広がっていく。同時にその足元には巨大な濃い紫色の魔法陣が光る。


「力の根源たるマナよ!闇の精霊ダークマターよ集え闇の波動、我が暗黒にかかるもの全てを彼の地へ送り出したまえ!『暗黒転送ダーク・テレポーテーション』!」


 ガントの闇魔術の詠唱の終わりと共に、魔法陣が一層光り輝く。と同時に周囲の闇もより一層濃くなる。それを見て恐怖のあまりカケルが叫ぶ。


「何かの魔術が発動する?!」


「大規模な儀式魔術かっ!」


 それに答える形でアキラは推測するが、確証はない。そして魔法陣の光が限界まで達した時、ガント以外の全員が意識を失い、その場から姿形が消えて無くなった。


 ―――ブウゥゥゥゥゥゥン…


 ★ ★ ★


 どれくらいの時間が経ったのだろうか。1分…1時間…1日。ほんの一瞬のような気もするし、永い悠久の時の中にいるような錯覚にも陥る。そのどちらも今の状態では判断はできないが…


「う…こ、ここは?」


 さすがのマリナも意識を失い倒れていたが、まもなく身体を起こし、意識を取り戻した。周囲は今までいた大学内とは一変し、今いるここは深い森を前にした心地よい風が吹く大草原が遠くまで見て取れる。


「どうなった…いったいなんで俺らはこんなとこにいるんだ。ここは日本なのか?」


 アギトも身を起こし禿頭の頭に手を当てて、軽く頭を振る。日本だとすればこれだけの広さの規模の大草原はそうそうない。あるとすれば北海道くらいだろうか。近くに近代的な建物や送電線などは一切見当たらない。


「ここは…日本ではない?海外のどこかか?」


 いつの間にか目を覚ましていたアキラは、かけていたメガネを直して周囲の環境を見渡す。アギトのつぶやきに反応した形だが、日本でないことが色濃く確認できる。確か大学内では昼だったはずだが、今は煌々と光る月とキレイな星空の見える夜となっていた。ただ人の住む明かりというものが見えない。


「あ…う~ん。海外のどこか…でもないような気が…」


 3人の会話で目を覚ましたカケルは、どこにも飛行機やヘリの飛ぶ機影が見えず、人工的な音が一切聞こえないことに違和感を覚えた。それが気になり背中のリュックを降ろし、中からあるものをゴソゴソと探す。


「アキラさん、これで今いる場所を特定してみますか?」


 リュックの中から小型のヘリ型のラジコン、もといドローンと液晶画面付きのコントローラをカケルは取り出した。


「ドローンを持ってきていたのか、それで解るか?」


「大丈夫、壊れてなさそう。どこまで調べられるか分かりませんが、何かに使えるかと思って部室から持ってきていました」


 そしてドローンとコントローラの電源を入れ、起動するかの確認をする。ドローンは電源が入ると四隅が赤と緑のLEDの光がゆっくりと点灯を始めた。そしてカケルがコントローラを操作すると、勢いよく四隅の小型のプロペラが回転を始めて上昇を開始する。そこで、ナツミが身を起こし辺りの状況を素早く確認する。


「どうなったの…夜?ここは…」


 草原の草を撫でた少し冷たい夜風がナツミの頬を撫で、橙色のショートカットの髪を揺らす。


「今はカケルくんがここがどこであるかの、調査をしてくれているよ」


 ナツミの後ろ側からアキラが暗い空を見上げながら現状を伝えた。それに倣ってナツミも同じ方向を見上げる。すると上空高くには4つの遠ざかる光を灯らせたドローンが対空飛行を行い、さらに上昇をして高度を高めている。辺りには風がサーッと草を薙ぐ音と、遠く上空からプロペラの機械的で小さな音しか聞こえてはこない。


「そうなんですね。ところで、あの巨大な亀は…」


「幸い、ヤツは一緒にここには来ていないらしいよ」


 上を見上げていたアキラは視線をナツミの方へ下す。そこでカエデとセレナも意識が戻り、慌てて身を起こす。


「あっ、なにここ?みんなは大丈夫?」


「私達、どうなっちゃったの…大草原??」


 辺りが暗いなか月と星の明かりの元で、ナツミが2人に近づく。


「まだここがどこだかわからないけど、とりあえず危険は無さそう。今はカケルが調べてくれてるみたいよ」


 そしてドローンのコントローラ画面を見ながら一生懸命に操作をしている、カケルの方をナツミが見る。そこに周囲を確認して回っていたアギトが、森の方から姿を現す。暗くて良く判らなかったが、目が慣れてきてアギトの声と思われる方向から、フサフサと髭を蓄えた人よりも背の低いドワーフが、アギトの大斧を持って現れた。


「えっ?!…誰??」


 思わずナツミ・カエデ・セレナの3人は同時に驚いて声を揃えた。明らかにアギトの声ではあるのだが、容姿が浅黒い肌のドワーフのそれでしかない。肩にかついだ大斧が人の姿の時よりも妙に似合っているようにも見える。


「おぃおぃ、何をそんなに驚いてるんだ?お、嬢ちゃん達も無事だったか」


 近づいてきてもやはり背の低いドワーフ・アギトに正視する3人はやはり現状をすぐに受け入れられていない。その状況を知らず、アキラは上空から地形を調べているカケルに現状をたずねる。


「どうだい、何かわかったかい?」


「それが…GPSは全く使えないのですが、緯度と経度は僕らのいた日本と全く同じで、富士山も確認できました。ただ…」


「ただ?」


 コントローラの画面から目を離さずに操作に集中するカケルに、アキラは片方の眉を上げて怪訝な顔をする。


「人工的な建造物やその光が…一切見られないんです」


「まさか…いや、なるほど、可能性はある」


「可能性、ですか?」


 アキラの意外な反応に、一瞬だけ顔を向けてカケルは確認する。


「みんな、聞いてくれ。僕らのいる場所がまだ予想の域だが、大体判明した」


 そしてそこにいる全員がアキラに注目し、次の言葉をかたずを飲んで待つ。


「今僕らがいるのは、緯度と経度からまぎれもなく我々の地球の日本で、確かに大学のあった場所だ。ただGPSが一切使えず、建造物が一切無いなど不自然なことから、ここは元の世界とよく似た平行世界(パラレル・ワールド)、つまりは異世界の可能性が非常に高い。我々は異世界に転移させられたと考える。」

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