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~第16節 四神獣~

 あとから来たマリナと合流した3人は周囲に溢れかえるように取り囲んだ、魔物全体を攻撃するかのような刀技によって助けられた。辺りに増援がいないことを確認すると、マリナは刃に乗ったよごれをヒュッと一振りで凪捨て、ゆっくりと刀を左脇の鞘に納めた。


「あぶなかったぁ…マリナちゃん、助かりました。刀…使えるんですね?びっくりしました」


 凛としたたたずまいに目を閉じて納刀するマリナに、カケルは走り寄った。


「あぁ…私は新陽流刀術の使い手でね」


 自分の愛刀の収まる鞘をさすりながら、マリナはカケルの問いに答える。


「歌で浄化ができて、更に刀も使えるなんて…私も薙刀(なぎなた)を使えるんですが、全然それ以上ですごいです!」


 カエデもその華麗な刀技や体裁きに見惚れている。


「あ、あのぉ…あ…握手を…していただけますか?」


 照れながらナツミがモジモジと右手を差し出す。その顔はマリナをまともに正視できないほどだ。


「あー、いつも歌を聴いてくれてありがとう」


 マリナは差し出された手をやさしく両手で包み込む。その時はいつもの歌姫の微笑みを見せている。そして無事に握手をされたナツミはこの上ない喜びと同時に恍惚とした顔でマリナを見つめた。


「もう、死んでもいい…」


 その言葉を聞いてマリナは我に返り、凛々しい真顔を取り戻す。


「ダメよ、こんなところでやられていられないわ!研究施設…多分そこにあいつらの目的のものがあるんでしょう」


 ハッと正気を取り戻したナツミもおうようにうなずく。その問いかけにカケルとカエデもうなずき、研究棟の方へ急ぐ。


 ★ ★ ★


 マリナ含め4人が合流し研究棟へ向かおうとしていた頃、アキラ含め3人も着々と準備を進めていた。


「俺も来たからにはちゃんと手を貸すぜ」


 自分なりの装備を整え、アギトはトラックの荷台を降りる。そして昇降式リフトを畳んだあと、後部ドアを閉めロックする。


「いつもアギトさんのトラックには、こういう武器がいつも積んであるんですか?」


 以前と同じような部分鎧を付けたアギトに、セレナは疑問を感じる。


「まぁ、いつも武器があるわけじゃないからな。こういう移動式の武器・防具屋は必要なんだな。ただ、ちゃんと特別な許可はとってあるんだぜ」


 相変わらず研究棟の近くでは様々な魔物のうめく声や叫ぶ声が聞こえてくる。


「ウゥゥゥゥゥ…」


「よし、準備が出来たなら、裏門から研究棟へ向かおう」


 先を急ぐようにアキラは先導する。それに続いてセレナ、アギトがしんがりを務める。校外は住宅地とはいえ驚くほど人の姿が見られず、校内も先ほどまでの楽しい学園祭のイベントが行われていたとは思えないほど不穏な空気が漂っている。そこへ再び旧知の仲の2人と1人の少女が潜入しようとしている。


「おい、さっきのホブ3体はいないが、研究棟の入口付近にガタイのいいのが控えているぜ」


 物陰から盗み見るアギトの指し示す方向には、確かに岩のようにガタイの良い、ゴツゴツした男が中へ入ろうと模索している。しかしそれは見えない結界のせいで、剛腕な拳で叩こうが蹴ろうがそれは破られていない。


「なんであの結界は破られないんですか?あのあたりは普通に、私達はいつも出入り出来ていますけど…」


 セレナがそう思うのも当然である。普段ごく普通の生徒や教授は、何の不自由もなく出入りできている。


「あの結界は極端にネガティブや(カルマ)が高いものや、魔属性を持つものをすべて遮断して通さないようにできているんだ。ダークスフィアの連中はそのどれもに当てはまるのさ」


 するとおもむろにその岩のような男が振り向き、3人の隠れている場所をその岩で隠れたような小さな目でにらむ。


「いい加減、出てきたらどうだ?そこにいるのは判っているんだぞ」


 それを合図に3人はアイコンタクトで植え込みから、仕方なく姿を現す。そしてその3人の中で面識があるのはアギトだけだ。


「久しいな、『阿僧祇(あそうぎ)ガント』。相変わらず不愛想なシケた面してるな。珍しくいつもいる威勢のいい弟子がいないんじゃないか?」


「あぁ、今日はあいつは別件で野暮用に出ていてな。そんなことより、その女が火神(かがみ)セレナか?」


 若干アキラとアギトの後ろに隠れる形で、セレナは様子をうかがう。


「答える必要はあるか?」


 片方の眉毛を上げてガントの要求を間接的に否定する。


「答えないのであれば、それならそれで強硬手段に出るまでだ。それからもう一つ…あのデータも渡してもらおうか?」


 ガントはそのゴツイ剛腕を差し出し、また別のものを要求する。


「何度も言うが、お前らに渡すデータなんぞはビタ一つもないんだよ。とっとここから去りやがれ!」


 さらなる要求に対して拳をにぎる動作をして、アギトは憤慨する。


「それでは、やはり強硬手段に出るしかないようだな…グオォォォォォ!」


 ガントは空気を振動させるような魔獣のようなひと吠えのあと、身体が二倍ていどに膨張し背中に甲羅があらわれた。そして皮膚は正に岩のように灰色となり、顔は亀そのものとなる。そして最後は蛇の顔を持った尻尾があらわれた。それは四神獣の『玄武』そのものの姿となった。その周囲には禍々しい暗黒のオーラが漂っている。


「この俺の二つ名は『玄武のガント』…この姿になった以上、生半可な武器では傷一つ付けられんぞ。命乞いをするならば今のうちだ…」


 そしてすぐ脇の生垣をバキバキと前足で踏みつぶした。そこでアギトとアキラそれからセレナは武器を構える。


「神獣形態の姿を見るのは初めてだ。こいつはヤベェやつが相手になったな…やつは普段から硬い皮膚を持っていやがったが、俺たちの武器が通るかどうかいささか疑問になってきたぜ」


 自慢の大斧をギュッと握りしめ、アギトは額に汗する。


「神獣形態…って?」


 普段見せないような焦りを見せているアギトに、セレナは言葉の意味をたずねる。


「やつらは四神獣という魔獣と契約を交わし、その形態に変化することができる能力を得たと聞いてるが。こいつがそのうちの一つということみたいだぜ。さながら四天王といったところか」


「四天王…」


 そこでホブゴブリンの3体を上手く巻いてナツミ・カケル・カエデ・マリナが玄武のガントと対峙している3人と合流した。


「なに…あの化け物…?!」


 合流した3人はマリナ以外全員が見たこともない巨体の魔獣を前に、呆気に取られていた。


「無事にマリナさんも合流できたか。まさか…刀を使うのか?」


 ドレス衣装に左の脇に差した見事な刀を見て、アキラもまた驚くひとりに数えられた。左手を刀の鞘をおさえ、右手は刀の柄をにぎって視線は対峙する敵を捕らえたままだ。すぐにでも斬りかかれるように注意を怠らない。


「えぇ、詳しい話はあとで。あの者は人間ですか?」


「あぁ…元々は人であったはずだが、神獣と契約を交わした今は…もはや人ならざる者のようだ」


 それを聞いて少し安心したような表情で、マリナはチャキッと刀の柄をより強くにぎる。


「できれば人を斬りたくはないので。それが人でないのであれば…」


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