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04 複雑な俺とエンジェルスマイル、海苔は添えるだけ

一方の俺は、海苔が超好きとかいうレッテルを貼られているとは知りもしなかった。

あっという間に一週間が経った。



デートといえばなんだ?まずは服だろう。前世バーガーショップの店員だったときは、服を買いに行く服がないとかいう悩みがあったが、今の俺は超超超超金持ちの御曹司。

全てが指パッチンでなんとかなる世界だ。すげえ。


シャンデリアと天蓋付きベッド、クラシックが流れる赤絨毯の私室で目を覚ます。今日もいい朝だ。オーケストラのバイオリンがちょっとうるさいのを除けば。

今日は日曜日、デートの日当日。


俺は思い切り指を鳴らしてセバスチャンを呼びつけた。


ぱちん!


「一番デートにいい服を」

「はい坊っちゃま。ブランドもので固めますか?それともトーン統一で?坊ちゃん好みの成金ファッションにしますか?」

「成金ファッション」

「坊っちゃまの私服はいつも白スーツか白いフリルシャツじゃないですか」


前世庶民の感覚を思い出すとすげえセンスをしてる。まさしくバカゲーだ。やべえ。

でも俺にも俺の言い分があるんだ。


「それは成金じゃない、貴族ファッションだ。王子ファッションだから」

「傍目から見たらただのビックリ成金です」

「悪魔なのか?セバスチャン」

「執事です。田中です」


言い合いをしながらも、セバスチャンが選んだ服はちょっと上品めなモノクロトーンだった。しかも適度に、分からない程度にハイブランド。完璧だ。

ちゃんと相手の女子が同年代の女子なのを理解して、萎縮しない程度の服にとどめている。流石セバスチャン。


「ところで坊ちゃま、今日のお出かけ先ですが——もしもの時のために、最上階にお部屋を用意させていただいております」


デパートの最上階に。お部屋。


「関係者専用フロアでございます。何かありましたらご利用を」

「何の時にご利用するんだ……」


本当にデパートの最上階のお部屋とか何の時にご利用するんだよ。


俺はベンツで送っていうというセバスチャンをなんとか押し留め、白い春もののロングコートをひらつかせて家を出た。



ーーー



デートの定番といえば何か。それは。

ごめんね?待った?だ。


待つ男のところに女の子がやってきて声をかける。彼女はめちゃくちゃ可愛い、いつもとは違う服を着ていて男はどきどきする。逆でも可。

伊集院環はともかく、前世ではラノベを嗜んでいた俺はそういうシチュエーションを容易く想像できる。


「ごめんなさい……!伊集院くん、ま、待ちました……?」


ほら来た……!

デパートの入り口に、俺は敢えて背中を向けて待っていた。

なぜなら!そうした方が振り返った時の喜びがより大きくなるから!

推しの私服だぞ!?千春ルートは永遠に失われているから彼女は制服姿しか立ち絵とかなかったし!


ゆっくりと振り返る。


「ああ、いや、今来たと、こ………」


呼吸が止まった。


天使の、桜色の三つ編みはいつものままきっちりと結われている。


……が。真っ赤な地に『tougarasi love』と書かれた謎センスパーカー。膝丈までの制服みたいな紺色スカート。蛍光黄色スニーカー。謎のスポーツキャップ。あとなんかあれ。何故か目にカメレオンサングラス。


別の意味で動悸がした。ちょっと目眩がした。


やべえ………私服のセンスが……バカゲーだ……


「あっ、あのっ、い、伊集院くん……今日はお誘い、ありがとう。ところで私は焼き海苔が……好きかなあ……」


何の話?


ツッコミどころが多すぎて何も突っ込めない。いやでも、今はそれよりも重要な事実がある。

天使千春の私服。それを俺は今日、初めて拝めた。ゲームの中では分からなかった部分!実はクソダサセンスの持ち主だっていうのも割とギャップあって可愛い!!!かもしれない!!!


推しならなんでも可愛く見える。あばたもえくぼというやつだ。


「俺は味海苔が好きだよ。いつもと雰囲気が違っていていいね、天使さん。ところで……そのカメレオンサングラスは……何故……」

「あっ、こ、これは……あの。伊集院くんが、私なんかと一緒に……お出かけしてるってばれたら、恥ずかしいかなあって……」

「そんなことない!!」


俺が突然大声を出して彼女の手を握ったので、デパートの周りの人たちがびっくりしてみんなこっちを向いた。パーマふわふわのおばちゃんも、禿げたおじさんも、セレブな奥様も、風船配ってた着ぐるみも。

着ぐるみ仕事しろ。子供が困惑してるぞ。


「君と一緒にいて恥ずかしいことなんて一つもない!」

「ほ、ほ、本当に……?わ、わたしなんて、だって……クラスでも、地味だし……」


真っ赤な『tougarasi love』を着てる今は色合いめちゃくちゃ派手だよ。


「地味でも、俺は天使さんのいいところを沢山知ってるんだ……!君が真面目で頑張りやなところも、一途なところも!」

「い、伊集院くん……!……えっと、い、一途……?」


しまった、喋りすぎた。


「わ、私の……好きな人……知ってるの……?」

「…………」


俺は黙り込んだ。もちろん知ってる。君がすべきみ第一弾で、主人公を祝福する役回りだったことを知っている。決して勝つルートがなく、そして続編の正規ルートも開発中止された、永遠の負けヒロインなことも知っている。


「……そっかあ……伊集院くんは、すごいね」

「そうでもないさ。君の事を見ていたらわかることだ」

「……ううん、すごいよ。私が、凡仁くんのこと……気にしてるの、知ってるんだ」


彼女の瞳は切なげだった。


「実は、凡仁くんは……」

「買い物に行こう!」

「えっ」


何か言おうとした彼女の腕を取って、俺は歩き出す。

俺は知ってたはずだ。天使千春が『主人公』に、ゲームの中で恋をしていたことを。でも何故か、推しが他の男を普通に好きみたいな空気を出されると一瞬もどかしいような気がしてしまった。くそっ、推しの幸せを考える男としてこれは失格では!?


まあ……手放しで愛情かけた娘が、お父さん好きな人がいるのって言われた時の気分みたいな……多分それだ。絶対それ。推しの幸せを束縛する厄介オタクになりたくない。


「伊集院……くん?あの……」

「資金の心配なら問題ない!」


俺は精一杯格好をつけて、胸元からブラックカードを取り出した。金髪碧眼の利点を生かし、精一杯の王子様スマイルを浮かべて見せる。


「天使さん。今日は悲しい顔はやめてくれ、君の欲しいものを、なんでも言ってみてくれ」

「えっ。……あの……伊集院くんと、仲良くお話しする時間……とか?こんな風に仲良くお出かけするのって、本当に……SSRレアイベント……だから、嬉しくて」


彼女はちょっとはにかんだ。エンジェルか?

照れ臭そうに笑って、俺に握られた手を振り解きもしない。白くて、柔らかい指が、そっと俺の手の上から重ねられる。大きな瞳が、無防備に俺の事を見つめている……


彼女から、そっと手を握られた。


「本当に、誘ってくれてありがとう」

「……んんっ……」


照れて何も言えなくなってしまう。というか、そういう眼差しは好きなやつ相手に取っておけ!勘違いしちゃうだろ!


「あと、あの……その黒いの、海苔じゃなかったんだね。私は佃煮海苔も好き」


さっきから謎の海苔押しなんだけど、本当に何の話????


「え、ああ……俺は有明海苔が好きかな……」

「わあ、一番高いやつだ……伊集院くんって、お上品で……本当にファビュラスだよね……」


グッドルッキングガイ従えてそうな評価もらってるわ。

ブラックカード乱舞までいかなかった……!ところでお金持ちのキャラってなんでブラックカード常備なんでしょうね、デフォルト装備なの?

あと私は胡麻油で炙った海苔が好きです。

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[良い点] あ、ヤバい。好きな世界観だ… [一言] 初コメかい?やったぜ(´▽`) '`,、'`,、 ちなみに私は韓国海苔が好きです
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