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七話担当:蜻蛉

アリスの腕の中で揺られながら、くぁせふじこと名付けられたスライムは昨日の記憶を遡っていた。

 昨日、スライムを持ち出した人物は福山であった。

 昨日は雨が降っていて人間たちには陰鬱な日だったが、少なくとも午前中はくぁせふじこにとっては喜ばしい日であった。くぁせふじこが地球にきてから数ヶ月ほど経過したが、やっと地球の重力に順応してきたのだ。地球にいる前は火星の研究所にいたくぁせふじこだが、地球の重力は火星の三倍のため最初は重力に抗えず動きが酷く鈍くなったものだ。ただまだ火星にいた頃ほどの速さではないが、それに近い速度を出すことができるようになっていた。


 昼休みに突入してすぐに福山がくぁせふじこの元に来て、開口一番くぁせふじこを別の場所に移すことを伝えた。福山はくぁせふじこが非常に賢く、人間の言葉を理解できることを知っており、くぁせふじこは自身が人間にとって価値のある存在であることを理解していた。だからこそくぁせふじこは自身が狙われていることを理解しており、それに捕まることは自身の生命が絶たれることになるかもしれないことを、くぁせふじこは理解していた。

 それにくぁせふじこは福山という人間に一定の信頼を置いていた。くぁせふじこを火星の研究所から逃してくれたのは福山の仲間であったし、地球にきてからくぁせふじこに場所を与えたのは福山だった。もちろん南野星小学校の小屋の中はくぁせふじこにとって最適な場所とは言えなかったが、火星の研究所で体を弄くり回されているよりかはましだった。

 そういう色々な背景があり、福山のここは危険になりつつあるから違う場所にくぁせふじこを移すという計画も大人しく呑んだ。

 

 そして午後、福山は予定通り小屋にきてくぁせふじこを小屋から持ち出してマイカーの助手席に乗せて学校から出発した。快適なドライブとなったのはほんの数分だけだった。

 福山の運転するマイカーの後ろに車がぴったりついていた。福山が急停止したら止まれずにぶつかるだろうというほどの距離。福山はすぐにそれがくぁせふじこを狙っている研究機関からの刺客だと気がつき、福山は刺客を振り切ろうとしたが、そこを待ち構えていた組織のスナイパーに狙われた。一発目で助手席の窓が割れ、二発目で左前方のタイヤが撃ち抜かれ、福山の車は大きく揺れ、その衝撃でくぁせふじこは窓から車道に投げ出された。

 車から投げ出されたくぁせふじこは車から出てきた刺客に捕まり、車が停止してしまった福山は刺客に殺されようとしていたが、そこに福山の仲間がトラックで応援に駆けつけ刺客に不意打ちの攻撃を食らわせた。刺客は自身の不利を感じてくぁせふじこを持って逃げようとしたが、福山の仲間の弾丸が刺客の左手を撃ち抜き、衝撃で刺客はくぁせふじこを投げ出した。

 くぁせふじこはまた車道に落ちたが、刺客は命第一だと逃亡のために車を発進させ——くぁせふじこは刺客の車に轢かれバラバラになった。

 福山はそれにいち早く処置を施そうとくぁせふじこに近づこうとしたが、スナイパーが狙っていたのでそれを仲間に止められ、福山は泣く泣くくぁせふじこをその場に放置し逃げることにした。

 逃げる過程で福山の車は応援のトラックの中に収納され、そこにはくぁせふじこだけが残った。


 研究所の刺客の車にくぁせふじこが轢かれてから数時間が経過し、そこでくぁせふじこを探していたスライム育成委員会のメンバー達に見つかり、死んだと勘違いされ小屋の裏に埋められた。

 小屋の裏に埋められ狭い空間に閉じ込められたというのは、くぁせふじこにとって幸運だった。

 その時点でくぁせふじこは死んでいなかったが、実際このまま放置されていたら死んでいた可能性が高かった。火星にいた時はバラバラになってもすぐに体を繋ぎ合わせることが可能だったのだが、地球の重力だとバラバラになった小さな肉片達を動かすのがとても大変だったのだ。くぁせふじこが地球の重力に順応してきたのは確かだったが、それは完璧ではなかった。

 アリスも温達に説明していたが、埋めてくれたおかげでバラバラになった肉片の距離が近くなり、体を一つに繋ぎ合わせることができた。


 くぁせふじこが深く思考をしている最中、アリスと温達の会話は進んでおり、くぁせふじこが死んでなかったことをとりあえず福山に伝えに職員室に行くことになった。

 職員室から出てきた福山はアリスに抱かれているくぁせふじこの方を見て心底安心したように顔を綻ばせ、視線を上に上げアリスを見てすぐに真顔に戻り、福山は放課後は空いている多目的室に話の場を移動させた。

「良かった、スライム生きてたんだね」

 福山は温と冷に暖かい視線を向けて安堵の言葉を漏らし、すぐにアリスのに視線を向ける。

「それでアリス君、どうして君がいるのかな?」

「そんなんスライムを保護するために決まってるでしょ。昨日の時点で小屋の裏にスライムを埋めていたことは確認できたから、もしかしたらと思ったらそれがビンゴだったってだけの話」

「勝手な行動は謹んでくれ、そんな命令はしてない」

 福山の静かな叱責に温と冷は驚く。福山は生徒を叱責するときも静かでそこにはどこか暖かさがあったが、アリスへの叱責は恐ろしく冷たいものだった。

「そんなこと言ってもそのスライムを別の場所に移動させるのは今が絶好の機会だろ? 研究所の奴らはスライムは車に轢かれて死んだと勘違いしてる。ここを逃したらまた昨日の二の舞だ」

「別の場所への移動ってなんですか!? あなたがくぁせふじこを誘拐したの!?」

 福山とアリスの会話に冷がヒステリックに割り込む。

「あー……そういえば説明してないんだったかリーダー。忘れてた」

 アリスがやってしまったと面倒臭そうな表情に変わる。

「冷君、それは私から説明させてもらうよ。ただ一つ分かって欲しいのが、スライムを連れ出したのはそれがスライムのためだからなんだ」

 そう前置きをして、福山はスライムを連れ出した理由を温と冷に必要な情報だけ抜き取って話す。

 そこに福山が実はスライムの権利保持のための組織のリーダーだとか、アリスはその組織の仲間だとか、そのスライムは火星の研究所で非人道的な実験に付き合わされていただとかそういう余計なことは話さず、小学生でも理解できるように要約した。

 スライムは悪い奴らに狙われていて、そいつらからスライムを隠すためにあえて公共の場である学校で連れてきて、けど悪い奴らに学校にいることがバレちゃったから違う場所に移動させようとした。ただその移動中に悪い奴らに襲われて、悪い奴らが車でスライムを轢いてしまった。

 何故悪い奴らにスライムが狙われているかも、福山は余計な情報だと温と冷に教えなかった。

「——ということなんだ」

「もしかして先生がここ最近疲れているように見えたのは、くぁせふじこの移動について忙しかったからですか?」

 冷が聞くと福山はうなずく。

「そういえば先生はなんでくぁせふじこを持ち出すときになんで南京錠を壊したのですか?」

「僕は壊してないけど、多分それは悪い奴らがスライムを持ち出すために壊したんだろうね。けど先に僕が連れ出していたから、それで悪い奴らは私を襲ってきたんだよ」

 南京錠の謎がわかったところで、謝罪の言葉を述べた。

「君たちスライム飼育委員のメンバーにそのことを黙っていたのは申し訳ない。だけど分かって欲しい。スライムはこのままだとスライムに酷いことをしようとする悪い奴らに掴まってしまう可能性が高かったんだ」

 福山は二人に向かって頭を下げる。

 温と冷、特に冷はまだ納得できていないようだったが福山という先生の立場にいるものが生徒に頭を下げるという行為に何も言えなくなっており、妙な沈黙が場に流れていた。

 そんな沈黙を破ったのは、福山のスマホから流れる着信音であった。

「ちょっと失礼」

 福山は温達に断りを入れて電話に出る。

 福山が電話に出てから十秒も経たないうちに、福山の顔は青ざめた。

 その連絡は福山の仲間からで、朝から行方不明となっていて寧依が死体として見つかったということだった。それも見るも無残な状態で。

 これが研究所からの警告であり、このまま学校の小屋に置いておくと被害が拡大していくのは明らかだった。

 福山は力なく電話を終え、一つ深呼吸をした。

「どうしたんですの?」

 温達からの心配そうな瞳、福山は一瞬このことを言うべきかと悩んだが言わないことにした。

「……いや、別件だったよ。話の途中に申し訳ない」

 福山は話を戻し、話の結末を言葉にした。

「——とにかく、スライムの居場所が悪い奴らにバレてしまった。だから移動させなくちゃならない。だからもう、スライム育成委員会は終わりだ。スライムとはお別れだ」

 その言葉は多目的室を静寂に包み込み、冷の体は酷く震えていた。

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