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カチャカチャと用意される食器類。キラリとよく磨かれたカトラリーが陽光を跳ね返す。
待ちに待った食事に、空腹に苛まれた胃が痛みを訴える。支度が終わったあたりでいそいそとソファから食事用のテーブルに異動する。
置かれた皿は二枚。
大きな皿にはよく焼かれた肉に、マッシュポテトのようなものと煮崩れた豆のようなものが添えられている。一回り小さい皿にはトルティーヤのようなものが数枚乗せられている。おそらく、これにナイフとフォークで巻きながら食べるのだろう。
記念すべき、初めての異世界の味。しかも、貴族の食事だ。元の世界ではそんな食事にお目にかかることなんて一生の一度もあり得ない。
幾ばくかの興奮とともにナイフとフォークを持つ。その興奮のままにまずは肉に取り掛かる。が、かなりの手ごたえ。ギコギコとのこぎりのように何往復もさせ、切るというよりも千切り取る様に取られた肉を満を持して口に含む。
硬い。
そして、臭い。
牛肉でおそらく間違いはないと思う。が、とても臭い。
しかも、胡椒はおろか、塩さえも振られていない。
『ひどい顔だな、古き新しき知恵を持つ者よ。』
突然響いた声に、いったいどこにいたのか、突然妖精が皿のわきに現れる。テーブルに寝そべって皿の上で頬杖を突くさまは、何やら楽しそうだ。
その妖精の相手をせずに付け合わせのマッシュポテトと煮豆を食べる。マッシュポテトにも味付けがされていなかったが、煮豆がとてもしょっぱい。今度はトルティーヤのようなものを少し千切って食べてみる。どうやら小麦粉で作られたもののようで、卵を抜いたクレープのような風味で、味はない。
「いかがです?」
「いや、普段私が食べているものと違うので、少し面を食らいました。この小麦の焼いたもの?で包みながら食べるんですか?」
「はい、それはシートと呼びます。基本的な食事はそれに巻いていただきます。」
「やはりそうでしたか、似たものはあるので何となくは分かっていました。」
今度はシートを一枚とり、その上にマッシュポテトと肉、煮豆を置いて軽く巻き、零れないようにナイフで切り分けてから口に運ぶ。先程は塩角の立っていた豆も、ジャガイモのでんぷんや肉汁で幾分かマシになる。マシになるだけで、おいしいわけではない。しかしながら、昼食がすでに終わっている時間で、今出されているのはそれらの残りなのだろう。食べさせてもらえるだけで十分にありがたいのだ。
そう思いながら私はカイさんと妖精に見守られながら食事を進めた。