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「私は元の国に戻れるのでしょうか?」
回答は、沈黙。
皆一様に目を伏せて一文字に口を結ぶ突然下りた重苦しい空気を消したのは、先程交渉人と呼ばれていた妖精だった。
『ワタシの知る古き新しき知恵を持つ者は、最後まで異なる理の世界で過ごした。ワタシの知る者たちは、みな異なる理の世界で最期をとげた。』
「やっぱり…」
予測していた通りの言葉に、目頭が痛くなる。異世界ものなんてほとんどが現実世界に帰れないのだ、私が必ず帰れるという保証なんて、初めからないのだ。
「……大変カオル様には申し訳ないことをしました。」
「申し訳ない、で、済まされる話なんですね。」
背中の存在が大きくなる。が、エックハルト皇子が片手で制する。皇子付きの近衛兵隊長には看過できない物言いだったのだろう。しかし、私には私の人生がある。それを突然、異世界にある国に全て奪われたのだ。これを唯々諾々と受け入れる事なんて、私には到底無理なことだった。
家族どころか、親戚も友人も、知人さえいない、全く文化の異なる世界に一人で放り出された。しかも、もう二度と帰ることさえ叶わない。この世界で一人ぼっちになってしまった。その事実に押し潰されてしまいそうだ。
ぎしり、と軋むほどに自分の肩を抱く。こめかみは冷えた汗がつたい、首筋へと流れていく。
いやだ。
いやだ。
いやだ。
「そんなのいやだ、うそだ。」
認めたくない一心でそう言葉にする。でも、その言葉を拾う者はいない。
「…突然こんなに話されては混乱されますよね。何か飲み物を用意させましょう。」
エックハルト皇子が明るい声でそう言うと、ほどなくしてメイドのような格好の女性がワゴンを押してやってくる。と、手際よくポットからカップにお茶を注ぐ。香ばしい何とも言えない香りが広がっていく。それを配膳し終えると、ティーセットのワゴンはテーブルの脇に置き、メイドは一礼して退室していった。
「どうぞ、この茶には気つけの効果があると言われ、少し気分が軽くなりますよ。」
そう言ってエックハルト皇子がカップを手にすると、ヘリベルト局長も倣ってカップを手にする。出してもらってそのままにするわけにはいかない。お茶には罪はない、温かいうちに飲んでやろうと私もカップに口をつけた。
そして、後悔した。
とにかく、まずいのだ。