オフィスビルの資料室
「コツ、コツ、コツ…」
薄暗い階段をそっと下っていく3人....
時間は…そろそろ12時過ぎってところだろうか
山田と田中と瞳
何故こんな暗い階段をこんな時間におりているのか
正解は昼休憩の時にまでさかのぼる
※
「あの部長、マジ嫌なんだけど…」
ポツンと同僚が洩らす。
と同時に
「だよね」
「自分何もしないくせに、いっつも仕事押し付けてきてさ」
「ジロジロ見てくんのも耐えられないよ〜」
「え〜わたしなんかこの前お尻触られたよ」
「ウッソーマジ有り得ない」
と日頃の井上部長の態度に耐えかねた女性社員達の怨みが爆発する
「そんなのまだ良い方だよ……」佐藤瞳だ
「えっ何?瞳、部長にセクハラでも受けてんの」
小さく頷き、キョロキョロ周りを見渡してから、瞳が答える
「そんなの毎日だよ……
先週なんか帰りに私だけ残らせて、みんな帰ってから襲われそうになった」
「えっ!どうなったの」
「田中君達が助けてくれた。ちょうど通りかかって、部長から引き離してくれたの。田中君と山田君がいなかったらどうなってたか……考えるのも恐いよ」
瞳は田中君、田中君と言うたび、顔がほころびやしないかと少し不安になった
密かに社内一の人気を誇る彼に、以前から好意を抱いていたのだ
「瞳、だから最近田中君達と仲良かったんだぁ」
悪戯っぽく笑う同僚に顔を真っ赤にさせ、仲良くなんかないよっと必死に手を振り
溜め息をつく
「お〜い佐藤君」
井上が呼んだからだ
同僚と目配せし、「何ですか」と井上のデスクに急ぐ
「ごめんね〜いつも君にばかり」
「いえ、そんなこと
それよりご用件は」
冷たく言い放ち、井上を見る。すると
「何だ、冷たいなあ
地下に資料室があるだろう、知っているか?」
「えぇ、B1の」
「今から明日の会議の資料、取ってきてくれないかなぁ」
「…わかりました」
部長のデスクを急いで離れ、B1へエレベーターで降りる
(ここ嫌なんだよね…)
資料室へ続く廊下を歩いて、そう呟く
なんか、寒い………
「本当部長のせいで…」
ギィィィ…
資料室のドアを開いて、すぐに目的の物を探す
「あった」
明日の日付入りのファイルを手に取り、急いで立ち去ろうとした
その時
部屋の空気が…変わった?
そして
ガタッ……
「何?」
後ろを振り返ると、棚の上にあったダンボールが落ちている
「脅かさないでよ…」
箱を棚の上に戻し、急いで引き返そうとすると…
「また…?」
さっきのダンボールが落ちてきたのだ…
(嫌だなぁ…さっきより寒くなってるし)
泣きそうになりながら、「早く戻ろっ」
と腰を屈めてダンボールを掴み、顔を上げると…
※
「本当なんだって!」
今、瞳は必死になって田中達に説明している。
山田は、「んなわけないでしょ。寝ぼけてたんじゃねーの」と、はなから取り合ってくれない。
「ピアス落としちゃったし、どうしよう…」
瞳が嘆いていると、
「おい、お前ら!何サボってるんだ!」井上が怒り出す
「すいません」
田中は、井上に言い、瞳にこう告げた
「今日仕事終わったら3人で見に行こう」
そして仕事が終わり、部長に見つからないよう、みんなが帰ったのを確認してから再び、非常階段を使ってあの資料室に向かう事になったのである
※
「で、嘘でしょ」
「本当なんだって……」
山田にそう返して、瞳は田中の袖をしっかり掴みながら、薄暗い階段を降りてゆく
非常扉を開けると、とても夏とは思えないほど、寒い…
「何だよこれ。冷房ききすぎじゃねぇの」そういう山田に
「いや、それはねえよ
いっつもこの時間には冷暖房の電源落としてるだろ」サラッと田中が言う
「ねぇ…やっぱ嫌だよ…
帰ろうよぉ」
瞳が言うと山田が怒り出す
「お前が変なの見たって言い出すからだろ!ピアスいらねぇのかよ」
ついていくしかないよね…
ついに資料室のドアの前に着いた
「開けるよ」
田中が声と共に扉を開く
「ひえ〜中はもっと寒いじゃん」
「おいちょっと黙れ」
愚痴る山田に田中がそう言う
また口を開こうとする山田に「いいから黙れって」と牽制し、瞳に訪ねる
「何か音しねぇか?」
3人はじっと耳を澄ますすると
カツン....カツン.....カツン..
確かに足音がする
「まさか部長じゃねぇだろうな」と山田が顔を青ざめる
「違う。これヒールの音だよ…」
「瞳…一つ聞いていい?
さっきここで見たのって……女?」
「やだ…」
まさか…
さっきの光景がフラッシュバックする
紫色の顔をして、眼球がなく、バサバサの髪が膝まで伸び、ニタァと笑っていた、あの女の顔が…
「近づいてくるよ……どうしよう…」
「取り敢えずバレちゃまずい…隠れよう」
一番奥の棚に3人で身を隠す
すると
ギィィィィ…
ドアが開く音がする
その人は、ゆ〜っくりと部屋を徘徊しているようだ…
そして─
見てしまった…
棚の隙間から長い髪を垂らした女が歩いている!
「キャッ!」
思わず声を出してしまった…
カツン...カツン...と響いていた足音がピタ…と止まる
そして
カツン...カツン...という足音はゆっくりとこちらに向かってきた!
「…いいか、1、2の3で右から逃げよう。瞳は靴脱いで……行くよ…1、2の3!」
田中の号令で3人が一気に走り出す
すると、それに気付いた女が追いかけてくる
四つん這いで……早い!
「急ごう!」
階段を登りきり、急いで鍵を開け…ようとするが…
「山田君!早く…」
「わかってるよ!!」
なかなか鍵が差し込めない
「来た…」田中が悲痛な声で呟く
「おっしゃ、開いた!!」
「急いで!みんな俺の車に!」田中が瞳の手を取り走り出す
その間も、女は気持ち悪い動きでやってくる
「これだよ!
さぁ乗って!早く!!」
※
「何だったんだよ今の…」田中の運転で海沿いを走っているとき、山田が半泣きで言う
瞳に関しては、号泣している
腰が抜けたみたいだ…
「聞いたことあるんだ」
ポツリと田中が洩らす
「何を!?あの女のこと、お前何か知ってんのか?」
しばらく黙っていた田中は、小さく口を開く
「何十年も前の話だけど」
田中の話はこうだ
「職場である女性社員が上司に迫られたんだけど、職場に好きな人がいた彼女は、勿論断った
すると、今度はその上司から執拗な虐めを受けるようになった…
その虐めは他の上司や同僚にまで広がっていった…
ついに、その好きだった彼にまで……
で、その女性社員は、あの地下資料室で首をくくって亡くなった
それから、あそこには良くない噂が立つようになったんだ…そしてその上司が、あの…井上部長だよ…」
それからは誰も話さず、静かに車だけが進む
その静寂を裂くように、瞳の携帯が突然オルゴールを奏でる
「焦らすなよ!!」
怒る山田に、
「えっ…あたしこんな着信音にしてないのに…
非通知?」
……
「もしもし………」
ピーージーと雑音が流れている
怖くなって切ろうとするが、切れない!!
『ジー……し……』
「えっ何!??」
『ジー…………』
「…………」
『ジー………し…ね…』
「何なのよ!!!」
『……しねぇ!!!!!』
ギィィッ!!!
※
数時間後、岩肌に正面から衝突し、炎上した車が発見され、3人が遺体で見つかった
今あの資料室には、4束の花が供えられている
カツン……カツン……カツン………
最後まで読んで頂き、有り難うございます
アドバイス等よろしくお願いいたします。