エリックはよく確認しましょう
「では続きまして冒険者協会の説明を行いたいと思います」
称号の説明についてもやもやしたものを抱えつつも、今はどうすることも出来ないことを悟った慎は続く冒険者協会自体の説明を受ける。
「冒険者は、指定の植物などの採集や魔物討伐といった様々な依頼をこなし、報酬を得て生計を立てる職業になります。目安として、駆け出し冒険者の月平均収入は大体2万ウェルズ弱、Cクラスで20万から30万ウェルズといったところでしょうか。先ほどお話ししたとおり七つのクラスに分けられ、基本的にはご自身のクラス以下の依頼を受けることが出来ます」
「基本的に?」
「例外として、同行者に高ランクの冒険者が居ればそのランクに合わせて依頼を受けることが可能です。命にかかわることも多いのであまり上位依頼を受けられる方は居ませんけれど。Sクラスの依頼に限っては、Sクラスの冒険者のみが受けることが出来ます」
「そうなんですね。クラスが上がることのメリットはあるんですか?」
「当然ですが、クラスが上の依頼ほど報酬が多くなります。その分危険度も増しますが、それに見合った報酬だと思われます。あとはBクラス以上の冒険者は街や国への貢献度も高いとみなされますので、一部税金や冒険者協会施設の割引、一部の街での入市税が免除されます」
当然の話だ。クラスがあがればその分命の危険も増すのだから、破格の報酬が出てもらわなければ困るというものだ。そして、クラスが上がれば様々な面で優遇が受けられるようだ。
「クラスはどうやったら上がるのでしょうか?」
「規定の数の依頼を達成すること、および冒険者協会の行う試験に合格する必要があります」
「わかりました。依頼を受けたいときはどうしたら?」
「あちらに掲示板があるのがお見えになりますか?」
そう言ってエニスは左手で慎達の視線を誘導する。そこには巨大な掲示板が設置されており、いくつ者張り紙がピンで留められていた。今も冒険者達がその張り紙を手に取り、受付に持っていって協会職員に渡したりしている。
「あれは依頼掲示板といって、依頼が張り出されているものになります。あれに留めてある張り紙を受付までお持ちください。後は署名していただき、ゲッシュを結んだら依頼開始となります。なお、依頼が失敗した場合はゲッシュ破棄になりますので、違約金が発生します」
「なるほど。わかりました」
「以上が大まかな説明となります。あとは実地で慣れていかれるのがよろしいかと思います。ご不明な点はございますか?」
これで協会証と冒険者協会についての説明が終わりのようだ。この世界での生活について一応の手段は得た。後は雨風をしのぐための拠点が必要だった。
「あー、えっと、僕ら宿がなくて。どこか格安で寝泊りできそうなところってご存じないですか?」
「宿、ですか……よろしければ協会の新人冒険者向けの施設がありますが、いかがでしょう?」
エニスは少し考えるような仕草をしたあと、そんな提案をする。渡りに船とはこのことだ
「私はそんなの嫌! 高級な――もがっ!」
「本当ですか!? ぜひそこで!」
ディアーナがまたわがままを言い出そうとしたが、強引に口を押さえて黙らせる慎であった。
「部屋代は一月5000ウェルズとなります。なお、本当に部屋だけですのでご了承ください」
「部屋があるだけで十分です!」
ここでも慎は内容をよく読まずにすぐさまゲッシュを結んでしまう。部屋についてからとんでもない事態が発覚するのだが、今はまだそのことを知る由も無い。
「ゲッシュ成立ですね。それでは、以上で終わりですね。最後に全てのゲッシュとエリックの確認をしたいと思います」
ようやく今日の目的が全て果たされ、慎は肩の荷が下りた思いだった。あとはエニスの最終確認を聞いたら今後について考えようなどと暢気に考えていた。
「貸付金額は手数料込みで6万3千ウェルズ。返済期限は一年以内。部屋代は月5000ウェルズ。返済は分割でも一括でも構いません。部屋代を滞納されますとエリックによって次の月の部屋代が10%引き上げられます。ご注意ください。そして、まず無いと思われますが、借金を返済出来なかった場合――」
ここまでは、ほぼ慎が考えていた通りの金額とエリック内容だった。だが、次にエニスが口にする言葉に二人は衝撃を受けることとなる。
「最悪の場合、男性は労働奴隷、女性は性奴隷へと落とされる可能性がございますのでご注意ください」
「「……はい?」」
慎とディアーナはしばらく沈黙した後、恐ろしく間抜けな顔で、恐ろしく間抜けな声を上げた。エニスは軽い頭痛を感じながら、こめかみを押さえて確認する。
「……エリック、きちんと読まれました?」
そう言われて、慎はすぐさま借金のエリック内容を確認する。そこには、
ゲッシュが破られた場合、本協会は借り入れ主の一切を所有する権限を持つ。
と、しっかりと明記されていた。慎とディアーナは青ざめる。
「ディアーナ! おま、強制労働って!」
「知らないわよ! そんな程度かなって思ったんだもん! よく読まない慎が悪いんでしょ!」
責任のなすり付けあいを始める二人。エニスはふたたび肩を竦め、うんざりした様にため息をつくのだった。
「まぁ、奴隷落ちは相当目に余る場合……って、聞いてませんね」
エニスは何かを言いかけるが、喧嘩を始めた二人の耳には届かない。
「今後はエリックをよく読まれることをオススメいたします」
聞こえていないとわかりながらも、エニスは呆れたように言い捨て、二人に冷ややかな視線を送るのだった。




