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拳に決意を

 次の日、慎は変わらず薬草摘みをしていた。


 朝、冒険者協会に赴いたがディアーナは目を覚ましておらず、引き続き補充用の薬草採取の依頼を受けていた。


 ただ黙々と薬草を摘み続けると、陽は頭の上を通り越し、朝見た方角とは反対側の方角へと沈んでいく。


 あたりが茜色に染まり、空は菫色に染まる頃に薬草を入れる袋は一杯になり、街へと引き返す。


 依頼達成の報告をエニスにしようと受付へ向かうと、なにやら慌しい様子でエニスの方から声を掛けてきた。


「あぁ! シン様! ディアーナ様が目を覚まされましたよ!」


「っっっ! これっ、お願いします!」


 その言葉を聞いた慎は目を見開き、採取してきた薬草を荒々しく受付カウンターに置くと猛スピードで医務室へと走っていく。


 医務室の扉を勢い良く開け、ざっと中を見回すと奥のベッドの上に起き上がっているディアーナの姿を見つけた。


「お腹すいた! なんか食べ物無いの? 肉とか!」


「ディアーナ様、病み上がりなんですから、ご飯は消化にいいおかゆですよ」


「えーーーっ!? そんなんじゃ力つかないじゃない!」


「えーーーっ、じゃありません! お腹壊しますよ!?」


 なにやら食事のことで騒ぎ立てているようだ。看病している治癒師が困った顔をしている。


 元気そうなその姿を見てなんとも言えない喜びが胸に湧き上がってくる。たった2日その姿を見ていなかっただけなのに懐かしい感じがしてしまう。


 ディアーナの目が覚めたら何から話そうかと考えていたが、そんなことはもうどうでもよくなっていた。ただその元気な姿が戻ってきたことがこの上なく嬉しかった。


「もう! ちょっとくらい大丈夫よ。大げさなんだから……って、慎じゃない。なにそんなとこ突っ立ってんのよ」


「シン様! シン様からも言ってください!」


 ぎゃあぎゃあきゃいきゃいと姦しい状況だった。そんな様子にふっ、と僅かな笑みがこぼれてしまう。自分の愚かな判断でこの光景を失ってしまうところだった。そんなことはこりごりだった。


 慎はゆっくりとディアーナに歩み寄る。


「ご飯くらいなんでもいいわよね? って、なに真面目な顔してんのよ?」


「うるせぇよ。開口一番それかよ。俺だっていろいろと思うとこがあるんだよ」


「なによ、思うところって。もしかして心配してくれてたの?」


 小首をかしげ、そんなことをさらりと言うディアーナ。さらりと落ちる銀髪に、くりくりした黄金の瞳が慎を見上げていた。


 その可憐さにどぎまぎしてしまう慎。


「っ! ……そうだよ。今回のことは俺の判断ミスのせいだし、それでお前が大怪我して……もし万が一が起きてたらって考えたら、怖かったんだよ」


 ここで取り繕ってもどうにもならない。心配したのは事実だし、元気な姿を見れて嬉しいという思いがあるのも本当だ。


「そ、そうなんだ……ありがと」


 馬鹿正直に返されると思っていなかったディアーナは、頬を赤らめてそっぽを向く。


 そんな様子を見ていた治癒師は、やれやれと肩を竦めて、


「……こほん!」


 とわざとらしく咳払いをした。治癒師の視線に気づいた二人は我に帰る。


「ま、まぁ、心配かけちゃったわね」


「お、おう」


 ぎこちない会話を続ける二人だったが、そのうちディアーナが慎を真っ直ぐに見据え、真剣なトーンで言葉を紡ぎ始める。


「慎、あんたさっき私の怪我は自分のせいって言ってたけど、それは違うわよ」


「え? いやでもあの時、俺が無理に数で勝るゴブリンを倒そうって言わなければこんなことには……」


 慎はディアーナが言っていることがわからなかった。慢心し無謀な賭けに出る判断を下したのは間違いなく自分だし、その結果ディアーナに大怪我を負わせたのだから、やはり非は自分にあるはずだ。


 慎はそう思うのだが、ディアーナの考えは違っていた。


「それが違うっていうのよ。あんたと私はパーティーでしょうが。あんたを止める事だって出来たのに止めなかった。その結果がこれよ。だからこれは私のミスでもあるの。一人で背負ってんじゃないわよ」


 そう言ってディアーナは拳を慎の胸の辺りにポンと当て、優しく微笑む。


「そっか……そうだよな……」


 今まで慎は、全部自分が悪いのだと考えてきた。だが、ディアーナはそれは違うと言う。パーティーなのだから非はどちらにもあって、それは互いに背負い合えばいいのだとそう言ってくれたのだ。


 胸の奥にあった重い気持ちが軽くなるのを感じる慎。もちろんそれですべて綺麗さっぱり気が晴れるわけではないが、ディアーナの言葉で救われたのは事実だった。


「ま、一番の問題はお互い弱っちいってことなんだけどね」


「全くだな」


 慎とディアーナは顔を見合わせて、お互い呆れたように笑う。自分たちの驕りに気づいた。弱さに気づくことが出来た。また一から出直しだ。


「強く、なろうぜ」


「そうね! 雑魚相手に手間取ってらんないからね」


 二度と同じ過ちは繰り返さない。ここからがあらたなスタート地点。


 二人はお互いの拳を前に突き出す。ディアーナは小さく柔らかい、けれど頼もしい拳を。慎は大きくごつごつとした、それでいて暖かい拳を。


 その拳に込められた想いを感じ取るように、ふたりは拳をこつんと合わせるのだった。

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