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ゴブリン討伐依頼

 小鳥の囀り、柔らかな陽の光、穏やかな風。アヴァグトゥの街の朝は穏やかだった。


 スライム討伐をしてから数日。街の依頼(クエスト)をこなしたり、ビッグマウスを討伐したり。慎とディアーナは変わらない日々を送り、そして今日、初めての部屋代支払期日を迎えていた。


「……確かに、2万と5千ウェルズお預かりいたしました」


「ふぅ」


 支払った額は2万5千ウェルズ。借金の一部と部屋代だ。慎は一文無しのときはどうなることかと思ったが、冒険者として活動してみると、想像よりは余裕のある生活だった。とは言え贅沢が出来るほどではないが。


「借金は残り4万3千ウェルズですね。頑張ってください」


「ありがとうございます」


 エニスはいつもと変わらない笑みで二人を激励する。エニスの言葉に礼を告げ、二人は依頼版(クエストボード)へと向かう。


「まだまだ先は長いわね……」


 ディアーナがはぁ、と軽いため息をついて頬に手を当てる。2万ウェルズの返済はディアーナの服が高く売れたからこそ出来たものであり、ここから先はさらに依頼をこなしていく必要があった。


「ひとまずは前進できたことを喜ぼうぜ。さて……今日はどうするか、ってなんだこれ」


 目の前に張り出された数々の依頼。内容としては今までに見てきたものと大差はないが、その数に異変が生じていた。


「いやにゴブリン討伐、調査系が多いわね……」


 そう、ゴブリンに関する依頼が他の依頼より圧倒的に多いのだ。通常であればどの依頼にもあまり偏りはないはずだが、一つの魔物に関する依頼がこれだけ偏るというのはどう考えても不自然だった。


「じゃあ俺らもゴブリン討伐受けるか。こないだ倒した奴みたいな感じなら余裕だろ」


「まぁ、アイツみたいなのだけならね」


 依頼版からべりっと依頼をはがしてエニスの元へと持って行く。


「エニスさん、この依頼を受けたいんですが……」


「わかりました。今、受注処理をいたしますね」


 エニスは慎から依頼書を受け取ると、慣れた手つきで事務処理を始める。書類になにやら書きながらエニスが口を開いた。


「ゴブリン5匹の討伐ですか……お二人で討伐されるご予定ですか?」


「はい、その予定ですが……5匹ぐらいなら大丈夫ですよ!」


 能天気に答える慎。先日、街道でゴブリンスカウトを討伐した経験があるせいか、どうやらやや楽観視しているようだ。


 僅かに眉をひそめ、エニスは二人に忠告する。


「お二人とも、絶対にパーティーよりも多い数のゴブリンと同時に戦わないようにしてください」


「数が多いと面倒ですもんね」


「そうではなくてですね……ゴブリンは弱い魔物とは言え、スライムなどとは違い知性があります。武器に毒を塗ったり、手錬れの冒険者でも油断してると足元を掬われることがあり危険なんです」


「そうんなんですね。気をつけます」


 口では気をつけると言う慎だが、どうにもエニスの言葉が響いていないようだ。エニスはこめかみを押さえ頭を振る。


「はぁ……受注処理、完了しました。とにかく、十分注意してくださいね! 慣れてきたEクラスの方が最も命を落とすことが多いんですよ!? それに北の平原近くのオウルベアの森には毒草も生えているんです! ゴブリンが使うこともあるんですよ?」


「分かってますって! パーティーより多い相手とは戦わない、ですよね? 大丈夫ですよ!」


 慎は笑って答える。依頼にも慣れてきて油断が出ているのがエニスには見て取れる。胸騒ぎが収まらないエニスだった。


「それじゃ、行ってきます!」


「行ってくるわね」


 二人はいつも通りエニスに挨拶して冒険者協会(ギルド)を後にする。エニスはその背を複雑な思いで見えなくなるまで見送った。


 やがて協会の扉が軋みながら閉まると、隣のカウンターで別の冒険者に対応していた女性がエニスに声を掛けてきた。


「エニス……あの二人、大丈夫なの?」


「レアリー。わからない……大丈夫……とは言い難いかも……」


 レアリー・ダン。エニスとは同期の冒険者協会職員だ。受付で多くの冒険者を相手に事務処理を行っている。レアリーはその深い碧色の長髪を手で梳きながら、心配そうに呟く。


「確かに、あの感じはちょっと……慣れた頃が一番危ないのよね……なんにも無いと良いけど」


 二人は顔を見合わせ、はぁと一つため息をついた。冒険者達が命を落とす直接の原因は言うまでも無く魔物だ。どのクラスの冒険者でも依頼失敗による落命報告はあるのだが、中でもEクラスからDクラスがその報告が圧倒的に多い。


 その理由の一つが慣れや油断、調査不足といった冒険者としての心構えを欠いたり基本を疎かにしたためだと言われている。上位の冒険者はそんなことはとうに通り過ぎた道だが、クラスアップしたばかりの下級冒険者は調子に乗って足元を掬われることが多いのだ。


 エニスもレアリーも駆け出しの若者が出て行ったきり帰ってこないということを何度も経験している。二人はその相貌を、慎とディアーナが出て行った扉の奥に向け続けていた。

 



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