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急な遭遇

 街へと伸びる街道を慎とディアーナはひた走る。夕暮れに空は染まり、もうしばらくすると夜の帳が降りてくる。今日中にスライムの核を冒険者協会(ギルド)に納品しなければならない。残された時間はさほど多くない。


「これならなんとか間に合いそうね!」


「そうだな! スライムの倒し方もなんとなくわかったし……ディアーナ! 止まれ!」


 先行して走っていた慎が急に立ち止まりディアーナを静止し、腰の剣に手を掛ける。


「ちょ、急にどうしたのよ?」


「しっ! ……あそこ、なんかいる」


 そう言いながら声を潜め、街道横の茂みを指差す慎。ディアーナは慎の肩越しに目を凝らす。二人から数メートル離れた茂みが不自然に揺れている。


「またスライム?」


「わかんね……様子見て近づくから、ディアーナは合図をしたら矢を撃ってくれ」


「オーケー! 気をつけなさいよ」


「わかってる」


 慎は剣を引き抜き、物音を立てないように揺れる茂みに近づく。ディアーナは慎を見守りながら、茂みから何が飛び出してきても対応できるよう、弓に矢を番えいつでも射ることが出来るよう準備をしている。


 慎が近づくにつれ、茂みの揺れが激しくなる。そして、茂みまであと数歩というところで慎は一旦足を止め、ディアーナを見て合図を出す。ディアーナはこくりと無言で頷くと、弓を引き絞り矢を放った。


「ギギッ!?」


 濁った鳴き声のようなものが響き、茂みの中から何かが飛び出してきた。


 緑の肌に、子供ほどの身長、とがった耳に鼻、醜い容姿――飛び出してきたのはゴブリンだった。ディアーナの矢はゴブリンの腕をかすめ、それに驚いて飛び出してきたようだ。


「ゴブリンか!」


 急に現れたゴブリンに一瞬気後れする慎だったが、急に矢を射られてゴブリンのほうも狼狽しているようだ。慎はすぐに体勢を立て直すと、握り締めた剣を大上段から一気に振り下ろす。


「ギッ!」


 ゴブリンも慎の動きに気づき、咄嗟に手に持つ短剣で受け止めようと頭上に構える。しかし、所詮はゴブリンの持つ粗悪な短剣。いたるところは刃こぼれし、手入れもされておらずぼろぼろ。


「グギャァ!」


 そんなものでガラドの作った剣を受け止められるはずも無く、ゴブリンは一刀の元に切り伏せられていた。


「はぁはぁ、うぇっ!」


 慎は荒い息をしながらえずく。初めて人型の魔物を斬った。今まで戦ってきたのは動物や無形の魔物だった。姿形が人に近いというだけでこれほどまでに嫌悪を感じるものなのかと、気づかされる。


「だ、大丈夫?」


 ディアーナが駆け寄り、慎の背中をさする。


「あ、ああ……」


 慎はその場で深呼吸を何度か繰り返し、息を落ち着ける。これからは人型の魔物や、場合によっては人と戦わなければならないこともあるだろう。人を傷つける、殺すことに自分の中で折り合いをつけなければいけないと、そう思った慎であった。


「もう、大丈夫だ。ありがとうディアーナ」


「いいわよ……ところで、こいつゴブリンよね? この辺てゴブリンもいるの?」


「どうだろう。エニスさんはそんなこと言ってなかったけど……」


「うーん、考えても分からないわね。とりあえず討伐証明部位もってけば報酬出るわよね?」


 冒険者協会では、依頼として受けていなくても魔物の討伐証明部位を持っていけば報酬が出る。依頼として受ければ討伐報酬に加えて依頼報酬も支払われるため、基本的には依頼として受ける場合が大半だ。

 

 だが、今回のように突発的に依頼外の魔物に遭遇し、交戦することなど冒険者にとっては日常茶飯事だ。


 そのため、討伐証明部位を持っていけばそれに応じて、依頼でなくとも報酬が支払われるという仕組みになっている。


「そうだな。依頼としては受けてないけど、証明があれば報酬は出るんじゃないか?」


「ならモノはついでね」


 ディアーナはそう言うとすたすたとゴブリンの元へ歩いて行き、腰に差してある短剣を抜く。


「あ、おい! 部位の剥ぎ取りなら俺が……」


「あんたはそこにいなさいよ。人型斬るのに慣れてないんでしょ? 私がやるわよ。女神にとっちゃどうってことないわ」


 そしてそのまま、流れるような手つきでゴブリンの両耳を短剣で躊躇なく切り落とす。ディアーナにとって人型だろうと人だろうと、躊躇するようなことではないようだ。


 元女神として人は庇護する対象ではあっても、それが同族を傷つけることへの嫌悪に繋がるかというと、それは別の問題だった。


「終わったわよ。さ、帰りましょ」


 こともなげにディアーナは告げる。


「お、おう……頼もしいこって」


 慎は苦笑いを浮かべていた。陽はさらに傾き、いよいよ期限の時間まで猶予がなくなってきていた。アヴァグトゥの街に向けて二人は再び走り出すのだった。

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