スライム討伐とアーツ習得
「あっはははははははは! なーにやってるのよ慎!」
威勢よく攻撃した割りに、かすり傷さえ負わせることの出来ない慎をディアーナが腹を抱え盛大に笑う。
「う、うっせーな!」
「『その核いただくぜ!』 だって! あははは! 掠りもしてないじゃない! かっこわるー!」
「やかましいわ! じゃお前がやってみろよ!」
「ふふん! ま、見てなさいよ! 女神は違うってこと、見せてあげるわ!」
慎は起き上がるとディアーナと立ち位置を代える。ディアーナは弓に矢を番え、スライムに狙いを定めた。
「剣の突きに弱いっていうのなら、矢の貫通力にだって弱いはずよね。見てなさい! 私がその核いただくわ!」
ぎりぎりと弦を引き絞り、極限まで力を溜めたディアーナはスライム目掛け、その矢を放つ。矢は宙を滑り、スライム目掛け一直線に飛んでいく。
そして、矢がスライムにあたろうかというその瞬間、草を食べつくしたのかスライムが僅かに横に転がった。
ぶるん、と矢の当たったスライムの身体が僅かに揺れる。が、ディアーナの放った矢は慎の剣同様スライムの身体の表面を滑り、あらぬ方向へと飛んでいってしまった。
「え!? ちょっ!? なんでぇ!? 嘘でしょ!?」
ディアーナは間抜けな声を上げ、矢が飛んでいった方向を呆然と見つめる。そんなディアーナの様子をみて、にじり寄る人影が一つ。
「『その核いただくわ!』だっけ? ねぇ今どんな気持ち? 散々人のこと馬鹿にしておいて、出来なかった女神様? ねぇ? ねぇ?」
実に歪んだ笑顔を浮かべた慎が、ディアーナに耳打ちしていた。
「-----ーっ!」
ディアーナは顔を真っ赤に染めながら、言葉にならない叫びを上げ地団駄を踏む。
「うっさいわね! あんたはそこで座って見てなさい! 今度こそ仕留めてやるわよ!」
「へいへい、期待してるぜ」
慎は適当に見つけた岩の上にどかっと座り、頬杖をつきながらディアーナを見守る。ディアーナは歯軋りをしながら矢を引き絞りスライムを狙う。
スライム目掛け、ディアーナの矢が乱れ飛ぶ。だが冷静さを失ったディアーナの矢は僅かに狙いが狂っているのか、一向に当たる気配が無くスライムの表面を撫でるだけだった。
「はぁ、はぁっ、はぁはぁ、あーもう! なんで当たんないのよ! あいつホントに雑魚なわけ!?」
我関せずと草を食べ続けるスライムを目の前にして、遂にディアーナはへたり込んでしまう。肩で息をし、額には大粒の汗が浮かんでいる。
「よっ、と。んじゃ次は俺の番だな」
慎は岩から飛び降り、ディアーナの横に立つ。
「ふん……ちょっと、疲れたから、任せるわ。はぁ、はぁ」
「はいよ。そっちで休んでろよ」
今度はディアーナがのそのそと岩の上に座り、慎は再びスライムと対峙すると腰の剣を抜き、構える。
「もっと速く、鋭く……」
慎は深く息を吸い込み、ぶつぶつと学んだことを反芻しながら剣を引き、全ての動作に渾身の力を込め、突きを放つ。
「おら!」
が、やはりスライムに当たったと思った瞬間、剣は滑り受け流されてしまう。
「くそっ! こりゃ時間かかるわけだ。コツわかってても全然できねぇ」
その後も慎は何度も突きを繰り出すが、一向にスライムに通じる気配がない。
「とりゃ! そら! くそぉ! まだまだぁ!」
慎が突き、スライムが跳ねる。スライムが跳ねた方向に慎が走り、再び突き、再びスライムが跳ねる。
「ふぁぁぁぁあ」
ディアーナは岩の上からその光景を眺め、欠伸をしていた。昼下がりの穏やかな時間。日差しは暖かく、風は優しく頬を撫でる。眠気を誘う気候だった。
「っはあ、はぁ、はっ、くそ、駄目だ……こんなことあるかよ」
慎は剣地面に突き刺し、支えにしながらどうにか立っている。長時間剣を振り続け、腕に力が入らず、足にも疲労が蓄積しているようだ。
「ねぇ、スライム押さえ込んで突き刺してみたらいいんじゃない?」
岩の上でスライムを観察していたディアーナが何気なく言葉を掛ける。
確かに、スライムは球状であり少しでも狙いがずれると剣も弓も突き刺さらない。であれば動かないように固定してから突き刺してみればいい。
「あ? あー、そんな簡単な方法で上手くいくか? まぁいいや、やってみるか」
慎は大きく深呼吸をすると、再び剣を持ち直す。今度はスライムが動かないように固定するため、スライムの元へと近づき左手でしっかりと押さえる。
ぶるぶるとした触感とひんやりとした冷気が手に伝わる。なんとなく心地よい感触だった。
「意外といい感触してるんだな、スライム」
スライムを掴んだ手を何気なく動かしてみると、もにもにとえもいわれぬ感触が伝わってくる。
「なにスライム揉んでんのよ。溜まってんの?」
ディアーナが膝の上に肘を置き、両手で顔を支えながら呆れたように慎に声を掛けた。
「は!? 溜まってって、何言って……って、熱っつ!」
スライムを触っていた左手に灼熱感を感じ、慎は咄嗟に手を離す。見ると、慎の左手は真っ赤になっており、軽い火傷をしているようだ。
「ちょ、大丈夫?」
「あ、あぁ……これ、押さえんのきついな。触れてるもん食べ物と認識して溶かそうとしたのか?」
「雑食にもほどがあるでしょうに。やっぱり素直に倒すしかないのかしらね」
ディアーナもすとっと岩の上から飛び降り、背中の矢筒から矢を取りだし射る準備をする。
「とことんやってみるしかねぇか」
慎も剣を構え、どうにかスライムを倒すべく攻撃を開始するのだった。
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「ぜぇ、ぜぇ、は、はぁはぁ、ぜ、全然倒せ、ねぇ」
「はっ、はぁ、あぁ、はっ、な、なんなのよ、もう」
二人は汗だくになって膝を着いていた。陽が傾き始め、僅かに空が赤らんでいる。帰りの時間を考えるとだんだんスライムを倒さなければならない状況だった。
「こ、こいつほんとにEクラスが倒す魔物なの?」
「Eクラスで受けれるんだから、そのはずだろ……実際、危険性自体はほとんどないし」
スライムは相変わらずころころとあちこちを転がったり、草を食べたりしている。度重なる二人の攻撃で表面は傷が着いてはいるが、決め手となる一撃は入っていない。
「ねぇ、そろそろ仕留めないとホントにやばくない?」
「そうだな。いい加減仕留めないと……」
そう言いながら、慎は剣を構える。剣の重さがずしりと腕に響く。だが、いつまでも倒せないでは済まされない。慎は剣を引き、深呼吸を数回したあとスライムに狙いを定める。
「ええい! やけくそだ!」
なんども突きを放ち、こめる力がほとんど残っていない慎は破れかぶれに突きを繰り出す。最初から全力など出せる状況ではないため、当たる瞬間に意識を集中する。
慎の放った突きは初速は緩やかであったが、剣を突き出す瞬間から急速に勢いを増し、スライムに襲い掛かる。そしてスライムに当たった瞬間、慎は剣を捻り回転を加える。
今までとは違う手応え。慎は無意識に叫ぶ。
「ペネト、レイトォ!」
ずぶり、と今までと違った感触が剣を通して慎の手に伝わり、遂にスライムの身体を貫く。
一度剣が通れば、あとはなんということはなかった。そのまま剣はスライムの身体を貫き、核に到達、核を貫いていた。
核を貫かれたスライムは自身の身体を維持出来なくなり、ばしゃんと弾け小さな水溜りを大地に作る。
慎が持つ剣の切っ先には真紅の丸い核だけだ突き刺さっていた。
「や、やった……?」
荒い息をしながら、ポツリと呟く。長く続いたスライムとの戦いは、ここに終着した。慎は剣を突き出したまま呆然と立ちすくんでいた。未だに倒した実感がわかなかったからだ。
「慎!」
ディアーナが感極まり、走って慎に飛びつく。
「やったー! やったやった! やるじゃない!」
ぴょんぴょんと跳ねるディアーナの動きに合わせて、銀色の髪と紅いコートが揺れる。
「やった……やったぜ! よっしゃー!」
遅れて、ようやくスライムを倒した実感を感じた慎は、無邪気に喜ぶディアーナに可愛らしさを感じつつも、拳を握り締め喜びを噛み締める。
「速さと、威力、キレ……それに今のは……」
慎は自身の協会証を握り、ステータスプレートを呼び出す。
名前;シン・イチジョウ
レベル:4
年齢:18
種族:人間
ジョブ:冒険者
冒険者クラス:E
アーツ:ペネトレイト
補正スキル:剣術(微)
スキル適性:騎乗
称号;女神を名乗るイタい女の保護者
「やっぱり! アーツが増えてる!」
そこにはまぎれも無くペネトレイトのアーツが記載されていた。スライム相手にひたすら突きを繰り返したおかげで、アーツとして昇華されたのだ。リムリックのアーツとは威力が天と地ほども差があるが、習得したばかりのアーツではこの程度が関の山、ということだろう。
「やったわね! さ、早いとこ核もって帰りましょ!」
「そうだな。遅れるわけにはいかないしな」
二人は剣に突き刺さった核を荷物袋に入れると、納品期限に遅れまいと夕暮れに染まる平原を走って後にするのだった。




