現状確認
「あ゛あ゛~疲れた~」
「ふぅ。私もなんだかんだ堪えてたみたい。思ったより腕が重いわ」
宿に帰り自分たちの部屋に戻るなり慎は床にしかれた薄い毛布の上に倒れこむ。ディアーナも毛布の上に座ると両腕をマッサージし始める。
「魔物退治ってこんなに疲れんのかよ……」
「始めてだし仕方ないんじゃない?」
「でもよ、最下級の討伐依頼だぞ? もっと鍛えないと駄目だなぁ、こりゃ」
慎はごろんと仰向けに体勢を帰ると、天井を眺めながら呟く。怪我も無く初討伐依頼をこなした二人であったが何度も危ない場面があった。そのほとんどはディアーナの援護もあって事なきを得たのだが、最下級でこの体たらくでは先が思いやられるものだと慎は思う。
「協会で相談でもしてみるか……」
「相談て?」
「んー? まぁ冒険者が集まる組織だし、駆け出し向けの教習みたいなのあるかなぁって」
「そういうこと。そのうち相談してみたらいんじゃない?」
「そうしてみるかぁ」
そう言って、慎は薄っぺらい枕に顔を埋める。疲労感でうまいこと頭が働かないことも相まって、このあと慎は教習のことを先延ばしにしてしまう。この時の気の緩みが後々大きな失敗となって二人に降りかかるのだが、今はまだそんなことは知る由も無い。
「そんなことより、慎。今お金いくらになったのよ?」
ディアーナは二人の間を仕切る布をめくってひょっこりと顔を出し、慎に問いかける。
「あ? 金? ちょっと待ってくれよっと」
問われた慎は、ぼーっとする頭を振って顔を上げる。そして枕元に置いていた硬貨入れを手元に引き寄せ、中の硬貨を数え始めた。ちゃりんと硬貨同士がぶつかる高い音が響く。
「一の二の三の……あー、2万1千ウェルズだな」
現在の財布事情を再確認したディアーナはがっくりと肩を落とし、ため息をつく。
「はぁ。まだ借金の3分の1しか集まってないのね……」
「こっから部屋代と生活費引くから3分の1もいってないけどな」
「余計なことは言わなくて良いのよ。あぁ、神だった頃が懐かしいわ……」
ディアーナは遠い目をして虚空を見つめる。
「まぁ、コツコツやっていくしかねぇよ」
憂いを帯びたディアーナは女神と呼ぶに相応しい様子だったが、日ごろの姿を知っている慎からすれば今さら特に何かを感じるわけでもなかった。
「そうね……明日からは魔物狩りの日々なわけね」
「そういうこったな。もうちょい稼げば今月に2万くらいは返せるんじゃないか?」
「まだまだ先は長いわね」
「そうだな。とりあえず、今日は飯でも食ってもう寝ようぜ」
そう言って慎は上半身を起こす。全身に鉛をつけたような重さを感じるが、冒険者の資本は身体だ。食べれるときに食べて体力をつけておく必要がある。
「昇級祝いね!」
食事と聞いてディアーナの顔にパッと華が咲く。
「金無いって……ちょっとくらいならいいか」
せっかく昇級したのだ。多少の贅沢は許されるだろう。二人は連れ立って宿を出ると食事に向かうのだった。