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第06話 正式な国王






 噴水のある広場で私に道を尋ねた男性が、ゆっくりとした足取りで私とギルの横で立ち止まった。ギルに抱きついたままの私を見て、優しく微笑んだ彼は私とギルを見て言った。

「私が、許すよ。あの国王ともいえない男と結婚なんかしなくていい」

 そう言って右手で私の頭を優しく撫でた彼は何者なのか。ギルに抱きついたままの私は、ゆっくりと力を抜いてギルを見上げた。同じように腕から力を抜いたギルも私を見ていた。どうやら何者なのかはギルにもわからないようだった。

 私の頭から手を離すと、彼は国王を見てゆっくりとした足取りで近づいて行った。国王騎士達も黙って見ている。国王は何も言わないし、入室した彼は武器を所持してもいないからどうしたらいいのかわからないのだろう。

 階段の下までたどり着いた彼は、国王を見上げて笑みを浮かべた。その笑みを見て、国王は眉間に皺を寄せた。けれど、どこか驚いているようにも見えた。

「久しぶりだね、ルード」

「……どうして」

「え? 何? どうして生きてるのかって言いたいのかな?」

 その言葉に国王は目を見開いた。しかし、それは国王だけではなかった。室内にいる全員がその言葉に驚いていた。

 彼が何者なのかを知りたかったけれど、言葉の意味が気になった。国王は彼が死亡していると思っていたのか。そして、彼とはどのような関係なのか。

 国王と彼の様子から、知り合いだろうということがわかる。けれど、どのような関係なのかはわからなかった。

「私はね、大怪我はしたけど生きていたんだよ。ずっとね……」

 そう言って彼は振り返り私を見た。どうして私を見るのか。彼と会ったのは、あの広場が初めてのはず。私とは何も関係はないはずなのだ。

 国王へと視線を戻すと、彼は小さく笑った。

「あの事故はね……殺人だったんだよ。ルードなら、よく知ってるよね?」

「なにを……言ってるんだ」

 声が震えている国王の様子がおかしかった。彼の姿を見てからおかしいとは思っていたけれど、事故と聞いてから見てわかるほど体を震わせていた。寒さや怒りから来る震えではなかった。それなら、その震えは何なのか。

「私達は、普通の動物ではない。人族に近い動物と言ってもいい。獣人族、鳥人族という種族があるけどね。そんな私達にも、指紋ってものが存在しているんだよ」

 その言葉に室内がざわめいた。人族以外にも指紋が存在するのかと驚いたからだ。人族のような手であれば指紋があってもおかしくはない。けれど、鳥人族の中には手が翼の者もいる。

 そんな者達にも指紋が存在しているのだろうか。

「あの事故の原因にもなった馬車。あれにね、指紋が残ってたんだよ。本来はつくはずのない場所にね」

 彼の言葉を聞いて、顔色を悪くする国王に誰もが薄々気がついていた。いつの事故の話なのかはわからないけれど、原因をつくったのが国王であるということ。

 そして、その事故にあった馬車に彼も乗っていたであろうということ。きっと、生きていることがおかしいと思えるような事故だったのだろう。だから国王は驚いていたのだ。

「まあ、その話しは今はいいかな。それよりね……」

 そう言って彼は懐から丸められた紙を取り出した。紐で縛られたそれを国王へと投げ渡す。

 階段を上らずに渡したそれが開かれるのを待っているのか、彼はそれ以上何も言うことはなかった。

 震える手で国王は紐を解いた。床に落ちる紐を気にすることなく、広げた紙を見た国王は目を見開くとゆっくりと彼へと視線を向けた。

「そこに書いている通り、今から私が正式な国王だ」

 突然の言葉に、誰もが言葉を発することができなかった。











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