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第03話 見つけました







 夜7時。

 私は城にいた。ドレスを着て、1人壁に背中を預けてグラスに注がれたジュースを飲んでいた。

 父様と母様は他の参加者に挨拶をしている。私も最初は一緒にいたが、相手があまりいい顔をしなかったため自らここへと移動してきた。

 城へ来るときの馬車内で会話はなく、何も言われることはなかった。恥をかかせるなと言っていた父様も相手の顔色を窺って話しているのだ。私がいない方が良いのだおる。だから私が離れることに文句も言わなかったのだ。

 1人でいる私に声をかけようとする者は誰1人としていない。誰もが私のことを『悪役令嬢』だと知っているからだ。それに、声をかけられないのは楽でいい。知らない人と話をするのは疲れるから。

「あいつ、パーティーなんて興味あったんだな」

「あの子、誰?」

「お前知らないのかよ!? 『悪役令嬢』だよ」

「あの子が……」

 わざと聞こえるように話しているのか、それとも聞こえないと思っているのか。別に話しかけてこないのならどちらでも構わないけれど、私のほうを見ながら話すのなら気づかれないようにしたらどうなのか。

 私を見て話す彼らへと視線を向けると、慌てて離れて行く。睨みつけたわけでもないのに、睨みつけられたと言いながら離れる彼らを見ながら「疾しいことをしているからそう思うんでしょう」と呟いてジュースを一口飲んだ。

 小さく息を吐いて会場内を見回す。人族は両手で数えることができる程度しか見当たらないけれど、獣人族と鳥人族は数えることができないほどの人数がいる。

 そんな彼らにも挨拶をする父様の心境はどうなっているのだろう。本当は人族にしか挨拶をしたくはないのだろうけれど、付き合いというものがある。それに、父様が人族以外が嫌いだと知っている者も少ないのだ。人族の中に父様と同じような者はいる。もちろんそれは、獣人族と鳥人族にも言えることだろう。

 1人1人を観察しているとわかる。人族以外には笑顔でいるにも関わらず、人族には睨みつけるような目つきをするのだ。人族が近づいてくると離れる者もいる。

 自分達より弱い種族である人族が嫌いなのだろう。他にも理由はあるかもしれないが、本人でもないのだから理由はわかるはずもない。獣人族も鳥人族もお互いに笑顔を見せていても、人族だけは嫌いという者は多いようだ。

 相手が嫌っていたら挨拶がしたくてもできない。逃げてしまったり、嫌な顔をされるのだから。

「ロベリア」

「母様。父様は?」

「話し込んでいるわ」

 会場内を見回していた私に近づいて声をかけたのは母様だった。近くに父様がいないので聞いてみると苦笑をして答えた。どうやら父様と仲のいい人族の誰かがいたのだろう。

 父様が一緒にいなかったのはよかった。もしも母様と一緒に戻ってきたら、今の私を見て文句の1つや2つを言われていただろうから。

「誰か気になる男性はいたかしら?」

 母様の言葉に私は首を横に振った。見回しながら子供のころに会った顔を覚えていない男性を探していた。見ればすぐにわかる。顔を覚えていなくても、彼を見ればわかる。

 だから、ここにいないともわかってしまった。期待はしていなかったけれど、こんなに人族以外が多く集まっているのだからいるのではないかと少しは期待してしまっていたのだ。

「そう……。でも、焦らなくていいのよ。ロベリアはトルメラでもティーアでもないんだから。あの子達は父様の思い通りになってしまったけれど、自分の意思で相手を選んだの。だから、貴方も自分の意思で選んでいいの」

 父様が近くにいたらきっと母様も言ってはくれなかっただろう言葉。母様も父様をできるだけ怒らせないようにしているから、今まで何も言ってこなかったのだろう。

 自分の意思で選んでいいと言われた言葉に私は大きく頷いた。たとえ、父様が別の男性を連れて来たとしても私はすでに選んでいる。もしかすると、彼はすでに結婚をしているかもしれない。そうしたら諦めなくてはいけないけれど、父様の言いなりには絶対にならない。

「お前達、国王陛下がお出でになったぞ」

 父様の静かな声が聞こえた。先ほどより会場は静かになっているが、国王が来たことには気がつかなかった。いったい何処にいるのかと、2階へと視線を向けた。

 2階からも入室ができるため、そこにいるのではないかと思ったのだ。大階段の上に思った通り国王はいた。真っ白で美しい白い孔雀の鳥人族の国王。

 右には同じく白い鳥人族の女性。彼女は見た目が人族よりのため、種類はわからなかった。しかし、腰から生えている白い翼から鳥人族だとわかった。そして、国王の左に立つ黒い鳥人族の男性。彼を見て私は目を見開いた。

「見つけた……」

 小さく呟いた私の言葉は誰にも聞こえなかったようだ。

 国王の左に立つ彼。私が探していた男性に間違いはない。顔を覚えていなかったはずなのに、彼を見た途端に昔の記憶がよみがえった。それと同時に男性の顔を思い出した。

 今よりも若い顔ではあったけれど、彼で間違いはない。まさか国王の側にいる存在だとは思わなかった。彼の格好から国王騎士だとわかるが、どうして今国王の側にる必要があるのか。国王という存在から、どんなときでも守れるようにと側にいるのか。

 私にはわからなかったけれど、漸く見つけることができた彼に安堵の息を吐いた。ただ、これからどうやって彼に近づこうかと考えるしかなかった。国王の側にいるということは簡単には近づくことができないのだ。

 父様が挨拶をするときに一緒について行っても、一定距離から近づくことは許されないだろう。今日は会話をすることは諦めるしかないのかもしれない。そう思いながらも私は彼に視線を向け続けた。









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