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第08話 知っている






「会いたかったよ」

 そう言って国王は玉座から立ち上がると、ゆっくりと階段を下りて私の前に立った。笑みを浮かべている国王はとても不気味だった。

「どうして、私に会いたかったんですか?」

 ずっと疑問に思っていた。どうして私なんかに興味をもったのか。『悪役令嬢』と呼ばれている女に会いたいのか。ただの、物珍しさだろうか。

 けれど、この国王はそんなことじゃ会いたいとは思わないだろう。きっと、会いたいと思うようなことがあったのだ。いったい、それは何なのか。私には心当たりがない。

「会いたかったよ。あの日のパーティで、挨拶をしてくれなかった君が父親に引っ張られて城から出て行ったのを見てしまったからね」

 あのパーティーに出席していた者は全員見ていただろう。私が父様に引っ張られて城から出て行く姿を。けれど、それだけで興味をもつものなのか。

「挨拶をしなかったことは、申し訳ないと思っています」

 挨拶をしなかったことがいけないのか、素直に謝るのがいいだろうと判断して謝ることにした。

 けれど国王は、そのことはべつに構わないとでも言うかのように首を横に振った。私には、挨拶しなかったことを謝れというようにも聞こえたのだが、どうやらそうではなかったようだ。

 口元に笑みを浮かべたまま国王は、スワンさんがいるにも関わらずに言った。

「君がギルのことを好きだということは知っている」

 どうして知っているのか。そして、何故今それを言うのか。いったい国王は何を考えているのかと、真っ直ぐその目を見つめ続けた。

 国王は口元に笑みを浮かべたまま何も言うことはない。私が何かを言うのを待っているのか、反応を見ているのか判断することができない。

「国王陛下。ロベリア様が困っております。あまり、からかわぬようお願いします」

「からかってなんかいないさ」

 笑みを浮かべたまま言うと、小さく息を吐いた。どうやら、漸く私をここへ呼んだ理由を話す気になってくれたようだ。

 挨拶をしなかっただけで、会いたいとは思うはずがない。それ以外の理由が何かあるのだ。

「ロベリア・アルテイナ。君は明日、私と結婚するんだよ」

「な……にを、言ってるんですか?」

「言葉の意味がわからなかったのかい?」

「私は、そんなこと聞いていません。それに、私は貴方と結婚する気なんか全くありません」

 私の意思に関係なく告げる国王に、結婚する気はないと告げた。もしかすると、父様は私が国王と結婚するのだと話に聞いていたのかもしれない。

 結婚する気はないと言う私に国王は、何故断るのかと不思議そうな顔をした。国王と結婚できるのだから、断るはずがないと思っていたのかもしれない。

 きっと国王は、私が父様から結婚の話しを聞いていると思ったのかもしれない。たとえ結婚の話しを聞いていても、私は同じことを言っていた。

「君は私と結婚するよ」

 自信ありげに言う国王。それは、断れば家族がどうなるかわかっているだろうという意味が含まれている気がした。

 断れば、この国から家族が追い出される。父様だけなら構わないけれど、母様やワイナも追い出されるのなら嫌だ。けれど、国王とは結婚する気はない。

 スワンさんは言っていたのだ。私のままでいいと。だから、もう一度はっきりと言おうと口を開いた。しかし、それを遮るように国王がはっきりと言った。

「断れば、ギルはこの国からいなくなる」

 どうしてここで、ギルの名前がでてくるのか。国王ですら私がギルを好きだと知っているのだから、もしかすると、断るのだったらギルをクビにするということなのだろうか。

 私の所為で、ギルがクビになってこの国から出て行かないといけなくなるのは嫌だった。それに、私が結婚することを我慢すれば家族がこの国から追い出されることはない。ギルもクビになることもなく、この国にいることができる。

「君が私と結婚したら、ギルを君専属にしてあげよう」

 嬉しくはない。私は、好きでもない国王と結婚した姿をギルに見られたくはなかった。でも、国王と結婚したらそれは不可能なこと。

 私の隣にいるスワンさんが、心配していることはわかっていた。もしかすると、スワンさんは聞いていなかったのかもしれない。国王が私と結婚すると言うことを。

「君は、知りたくないかい? ギルの右の翼が無い理由を……」

「え……」

 国王は知っているのか。もしも知っているのなら、知りたい。結婚とは関係ないと思える話題を振ってきた国王に、私は小さく頷いた。











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