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第01話 笑顔の理由





 玄関を開いて、家の中に入って私は小さく息を吐いた。普通にしていたつもりだったけれど、ギルとの会話に緊張していたようだった。

 好きな男性と2人きりということも緊張した。けれど、昨日は疲れていたためベッドに横になりすぐに眠ってしまった。

 それに、雨に濡れてぼーっとしていたから緊張することもなかった。1日たってすっきりしてから、2人きりだということに緊張してしまったのだ。

 送ってもらった時間でさえ、緊張してあまり会話をしていなかった。そのことが、残念だと思うけれどよかったと思えることもあった。

 それは、寝ぼけたギルを見ることができたということ。そのおかげで、私の名前を呼び捨てで呼んでもらえることになったのだ。

 朝のことを思い出して小さく笑みを溢した。思い出していたから、私は背後に近づいてきている者がいることに気がつかなかった。

「ロベリア」

 声からして誰が背後にいるかなんてわかった。けれど、いつもと違う声色。いままで、私に対しては一度もそんな声で話しかけてきたことはない。

 嫌な予感がする。振り返らないわけにもいかず、ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは予想通り父様だった。

 口元に笑みを浮かべてとても気持ち悪かった。今すぐにでも部屋へ走って行きたかった。けれど、私の正面に父様がいるためそんなことはできない。

「喜べ、ロベリア」

 笑みを浮かべて言うものだから、父様が縁談の話でも持ってきたのかと思った。

 昨日喧嘩したばかりなのに、そんなことを考えていたのかとうんざりしてしまう。けれど、続いた言葉にそうではないのだと知る。

「国王陛下が、ロベリアに会いたいそうだ」

 国王陛下。パーティーの日、会話をすることはなかった存在。私が、ギルを追いかけて休憩室へと行ってしまったため会話をしなかったのだ。父様は会話をしたのかも知らないけれど、私は国王に興味がなかったので会話をしなくてもよかった。ギルと会話ができればよかった。姿を見ただけなのに、どうして国王は私に会いたいと言っているのか。不思議で仕方がなかった。

 考えてもわかるはずがない。そして、私に断る権利はない。きっと、昨日私が飛び出したあとに誰かが来たのだろう。その者の言葉に父様は喜んだことだろう。

 たとえ国王が鳥人族であろうと、もしかすると国王に気に入ってもらえれば王族になれるのだから。私の気持ちなど関係ないのだ。

 行かないということもできる。私はこの家がどうなろうとどうでもいいのだから。しかし、母様やワイナのことを考えるとできなかった。

 きっと私が行かなければ、この国に住むことができなくなるだけではなく、路頭に迷うことになるだろうから。国王の一言でそうなるだろう。そうなってしまった者達を何度も見たことがある。

 父様だけなら、行かなかった。けれど、行くしかないのだ。結局は、父様の望んでいるように進んでいく。父様だって、国王が相手とは考えてはいなかっただろうけれど。

「まさか、お前のような女が国王から声をかけられるなんてな。代々貿易商をしてきたが、これで王族になれるのなら、お前のような女は鳥人族だろうと差し出すさ」

 そう言って、上機嫌に嗤いながら父様は階段を上り自室へと向かって行った。私は何も言えずに立ちすくんでいた。

「『悪役令嬢』と呼ばれているような女でも、国王は興味を持つ。そこら辺の女はそのことに喜ぶだろう。なんたって、『悪役令嬢』ほどの最悪な女はいないんだから、自分にも可能性はあるって思うだろうさ!」

 2階から父様の嬉しそうな声が聞こえる。けれど、私の頭にその言葉が入ってくることはなかった。けれど、私みたいな女に興味を持つ国王ならば、他の女性は自分に興味を持ってくれるかもしれないと思うかもしれない。国王だって、私が『悪役令嬢』と呼ばれていることを知っているはずだ。それなのにどうして私なんかに会いたいと思ったのか。それは、国王に会えばわかることなのかもしれない。

 暫くして母様がやって来て、部屋まで連れていってくれるまで私はその場に立ったままでいた。

 父様のあの笑みの理由は、私が国王と結婚をして王族になれると確信しているからだろう。ただ、話しをしたいだけなのかもしれない。もしかすると『悪役令嬢』と呼ばれているから、国から私を追い出そうとしているのかもしれない。『悪役令嬢』と呼ばれている人族がいれば、国の評判が悪くなってしまうのかもしれない。

 考えてみるが、全て違うのだろうと思う。今母様に尋ねたとしても、きっとわからないのだろう。国王の考えなんか、関わりのない私にはまったくわかるはずもないのだから。











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