飢餓道
◆◆◆飢餓道◆◆◆
ずぶ ずぶ ぐちゃ
「そろそろ、キリコさんを呼んでもいいよね?キリコさーん。」
「待たせたな。ふぅ、向こうの空間は快適であった。望めば望むだけ欲しい食べ物が出て来おる。主にも分けようかと思いいくらか手に携えておったのだが、どうやらこちらには持ってこれないらしい。」
「大丈夫です。私はまだそんなにおなかすいていませんからね。先へ進んで水と何か食べられるものを探しましょう。」
「主が先に進もうなどと発言する時が来るとは、なかなかいい成長になったようだ。」
「食べるものがないっていう事は、死ぬっていう事ですからね。立ち止まっているわけにはいきません。」
「ならば、もう少し食料を持ち込めばよかったではないか。」
「うー。そもそも、ちょっと様子をみてすぐ帰ると思っていたんですー。なのにキリコさんが・・・。」
「おっと、藪蛇であった。ともかく、食料全般を探しながらついでに出口か先へ進む道か帰還アイテムを見つけるとしよう。」
「出口はともかく、帰還アイテムなんてあるんですか?先へ進むっていうのも・・・。」
先へ進んでしまったらもっと帰れなくなってしまいます。
「来た時の階段や転移装置が消えるダンジョンは不思議のダンジョンと呼ばれ、脱出経路が定まらない代わりに帰還アイテムがそこそこ用意されている。そして当然、帰還アイテムは先へ進むほど入手が容易になる。何故だと思う?」
「えっと・・・手に入れて使っちゃう人が減るからですか?」
「うむ、それもある。だが、ダンジョン側からしてみれば、ほどほどに潜ってほどほどに戦って、帰って欲しいはずだ。あまりにも進まれ過ぎてしまうと攻略されてしまう危険が出てくるからな。それに引き換え、今はどうだ?罠にハメてじわじわとこの階で体力を奪って仕留めたい。少なくとも、この階にいる限りはそう簡単に脱出なんてされては困る。そんなダンジョン側の意志があるような気がするだろう?」
「そういわれてみれば、なんだかそんな気がします。」
食べられない魔物。
食べられそうにない植物。
飲めそうにない水。
この階自体が罠になっていると言えなくもありません。
だとすれば、落とし穴の底にわざわざ脱出用のアイテムなんて置いてくれるわけがないし、ここのダンジョンマスターはちゃっかりと針とかを設置している感じです。
「という事は、一応は食料になりそうなものを探しつつ、先へ進んでしまった方がまだ脱出できる可能性があるって事なんですね。」
「そう言う事だ。さて、今更だがちょっと作戦を変えよう。」
「どうしたんですか?」
「どうやら長期戦になりそうだからな。主が歩いて移動するのは危険だ。そこのトカゲに乗せてもらって寝ている方が体力の節約になるだろう。」
「うーん、いい案のような気はするんですが、寝たら落ちてしまいそうです。」
「大丈夫だ、これでくくりつけておこう。」
キリコさんが土を操って紐みたいにしています。
「さぁ、さっそく横になってくれ。」
私はロイヤーの背中で横になり、キリコさんの操る紐で固定されました。
「なんか、魔物に捕まって運ばれている人みたいです。変に誤解されたりしませんよね?」
「なに、他に人がいれば食料のアテがあるかもしれん。むしろ好都合だろう?」
「うーん、話が通じればいいんですけれど。」
「その時はその時だ。今は寝ている方が良い。」
「そうですよね。おやす・・あ、でも、あの辺りに宝箱があるみたいなのですけれど、それは・・・?」
「ふむ、視認できないという事は埋まっているのだろう。ともすれば、もしかしたら帰還アイテムが埋まっているかもしれぬ。今回がダメなら以降は諦めるにしても、1度だけそれに賭けてみるのもいいだろう。詳しく教えてくれ。寝ている間に掘っておこう。」
「えっと、あの黄色い草から2歩左の・・・あ、はい。そこです。」
「良し、分かった。当たりだったら起こすが、ハズレだったらそのまま進む。今は安心して寝ておくように。」
「はーい、おやすみなさい。」
えへへ、やっぱりキリコさんは頼りになりますね。




