行きはよいよい帰りは
◆◆◆行きはよいよい帰りは◆◆◆
帰りは積み荷が食料じゃなくなったので寄ってくる魔物は少なく比較的安全という事で、馬車の上に載せられるという事もなく、ちゃんと護衛に参加できることになりました。
でも、なんだか相対的に視界が狭くなったせいで返って護衛しにくくなったような気がします。
私たちが今歩いている道も舗装されたわけではなく、ただ単純に人が良く通るから踏み固められて道になったようなもので、人が歩かない場所は草や木が伸び放題になっています。
皆さんはよく、こんなところから出てくる魔物がわかりますね?
耳を澄ましていたら草をかき分けてくる音でも聞こえるのかな?
そう思って私は少し耳を澄ませてみました。
「おいおい、ちゃんと歩けよ?ふらついてるぞ?どうせ飲み過ぎたんだろ?」
「ぜん、ぜん大丈夫、だし。ちょっと眠いだけ…。」
「ふぁ~ーあぁ。 だりー。 なんか魔物でもでねぇかなー。 」
「俺、普通のジャガイモよりも、間引きでたくさん取れる小さめのジャガイモの子供みたいなのあるじゃん?アレが好きでさぁ。」
みなさんの話し声が聞こえるだけでした。行きと違って、集中してなくても大丈夫なのでしょうか?
「おーい、右から少し来るぞー!」
「迎撃準備!迎撃準備!」
馬車を挟んで向こう側から魔物が来るそうです。
耳を澄ましてもダメなのかな?私には全くわかりませんでした。
向こうに回ってこちら側を手薄にするような段階ではないみたいなので、私たちはその場で様子をうかがうようです。
当然…かどうかはわかりませんが、馬車を止めて魔物と戦います。そのまま馬車だけ進んで護衛と離れた後を狙われたら守れないからです。
ザクザクと剣で切りつける音や、矢の飛ぶ音が少しの間しましたが、すぐに静かになりました。
「よっしゃ、こいつらは今夜の酒代だな。」
「護衛うまいわー。ボウズはないし、向こうから勝手にボーナスが来やがる。」
「だよなー。ま、固定で護衛しているのは俺らも含めてだいたいそんな考えだろ。」
やっぱりみなさん強いですね。
こちら側に来た時は、私も頑張ります!
そう思い私は武器を構えてみました。何も来ませんけどね。
「あの、なんでみなさんこんなに強いのに、こんな大人数で護衛なんてしているんですか?」
同じく手持ち無沙汰にしている一緒の割り当ての人に聞いてみました。
馬車は3両なので、それなりの荷物ではあるみたいなのですが、みなさんほど強ければこんな人数はいらないような気がします。
「たまに強いのが出る。死人が出ない編成が必要。」
「なるほど、そうなんですか。ありがとうございます。」
えっと、たまに強い魔物が出て、その時でも死人が出ないで済むくらいの戦力を整えているって事かな?
普段は出ないから大丈夫!とか言って護衛をケチるブラックな商人さんじゃないって事ですね!
「ちなみに、強いのってどういう魔物ですか?」
「アレだ。」
「え?…こ、こぼると!!」
私たちの前にふらりと現れた灰色の魔物、種族名はコボルトです。
犬が元になったと言われていますが、全く原型をとどめていない恐ろしい魔物です。
「来たか!全員!左側へ回れ!コボルトだ!」
背丈は3mもあり、あえて四足歩行する事で接近を気付かれないようにする事もあります。
あんなのに殴られたら私、ひとたまりもありません…。
「大樹の加護よ、スタンニードル!」
木々が枝を伸ばし、コボルトを攻撃しました。
それを振り払ったコボルトは術師に襲い掛かろうとしますが、次々と木々が邪魔をして進めないようです。
カース!
私はコボルトの顔を狙ってカースの魔法を使いました。
「ははっいい目くらましじゃねーか!」
いち早く駆けつけてきたライネルさんが大剣を叩きつけます。
「っかー、相変わらずかってぇなぁおい。嬢ちゃん、そのまま目くらましで援護だ。ダリス、タメ技使うからもうちょっと持たせろ!」
ライネルさんがタメ技の構えに入りました。
「深き森は去る者逃さず。ウィークバインド!」
もう一人の木術師さんが援軍に来ました。
ツタが巻き付いてコボルドを束縛していきます。
あ、靄が消えました。もう一度カース!
ライネルさんの大剣が一瞬光りました。
「我は人、其方は木なれど旅人なり。タイラント!」
木の巨人が現れ、コボルトを拘束しました。3人目の木術師さんですね!
ライネルさんの大剣がもう一度光を放ちました。
「いくぜ!バーストブレイド!」
ライネルさんの今度の一撃はコボルトを一刀両断にしました。すごいです!
「ふぃーっ。一番ツエーとこで良かったー。さすがはダリー3兄弟だぜ。あ、最初にけしかけた奴が三男のダリス。次に来たのが長男のダリアン。最後に来たのが次男のダリクハイトっていうからダリー3兄弟って呼ばれてるんだぜ?」
「ライネルさんもかっこよかったです!」
「おいおい、やめろよ、照れるじゃねぇか。あんなん、トドメだけもらったようなもんだって。そうだ、嬢ちゃんの魔法もなかなかだったぞ?」
「ほんとですか?嬉しいです。」
「にしても、また積み荷が増えたな。ん、なんだ?物欲しそうな顔で見るなよ。」
「見てません。」
もう、ライネルさんはすぐに茶化すんですから。
「俺らが束になれば勝てる程度をアンデッドにしても大して強くないぞ?夢はやっぱりドラゴンだよな。」
「ドラゴンって‥いくらくらいするんですか?」
「うーん、弱いドラゴンならたしかB、からだったか?亜竜ならDでもいるけどせめてCは欲しいよなぁ。死んでてもいいんだからCなら1000万園くらいで買えるんじゃないか?」
「い、いっせんまん…。」
そんなに稼げるのでしょうか?
「Cランクって言ったら、キマイラとかクルゲウスとかだからそれくらいはするぜ?」
クルゲウスっていうのは、巨大な怪鳥の魔物の事です。
カラスをすっごくおっきくしたのをカッコ良くして、風魔法と氷魔法を使えるようにした感じです。
「私はDランクくらいので十分だと思うんですけど。」
「何言ってんだよ?お金で安全が買えるんだぞ?さっき倒したコボルトがEランクなんだ。
そんで俺はDランク。
もちろん、Dランクなんて珍しくもない。
そんなたくさんいるDランクが食いっぱぐれないって事は、それだけDランクの魔物もいるって事だ。
お前、そんなんが出てきた時に、Dランクのアンデッド1匹連れているだけで安心できるか?」
「いえ、それはちょっと怖いですけど…。」
「だろ?とりあえずもうちょっと頑張って高いやつを買っておけばいいんだって。ランクの高い魔物はだいたい頭もいいから、アンデッドになってもそこそこ多彩に戦ってくれる…はずだ。」
「間違えたら…。」
「せっかく貯めたお金がパーって事は無いとは思うけど、スケルトンのLv上げがいるかもしれんな。まぁ、今回のウォリウのおかげで、生前強ければいいってわけじゃないのはわかっただろ?依頼で何を納品してもらうかはゆっくり考えればいいんだよ。」
「そうですね、もうちょっと頑張ってみて、それから決めればいいですよね。」
お金が溜まりそうになかったり、早めに戦力が必要になったら臨時でEランクとかを仲間にすればいいですよね。
「おっと、長話してしまったな。すまーん!待たせた!そろそろいくぞー!」
ライネルさんがそうみんなに呼び掛けて馬車を出発させました。
この後は魔物に襲われることもなく平和に進み、町へ帰る事が出来ました。




