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童話

からだに優しい大豆さん

作者: てこ/ひかり

 むかしむかしあるところに、”からだに優しい大豆”さんがいました。”からだに優しい大豆”さんは、人間に必要な”えいようそ”をふんだんに含み、食べるだけでみんなを健康にするので、たくさんの人々や野菜達からしたわれていました。


 さて、”からだに優しい大豆”さんの住む家の、その三軒隣に、”ふつうの大豆”さんもまた住んでいました。”ふつうの大豆”さんも、必要な”えいようそ”はふつうに含み、みんなを”それなり”に健康にしていましたが、やっぱりみんなが求めていたのは”からだに優しい大豆”さんでした。ワイワイとにぎわいを見せる三軒隣を見て、ふつうの大豆さんはポツリとつぶやきました。


「僕ももっと、からだに優しくなりたいな」


 そうして”ふつうの大豆”さんは、飼っていた”いそふらぼん”を連れて、からだに優しくなる旅に出ることにしたのでした。


□□□


 晴れた空の下。”ふつうの大豆”さんが道を歩いていると、道ばたで”緑色した枝豆”さんが、何やら悲しそうな顔でうつむいて座りこんでいるのが見えました。”ふつうの大豆”さんはあわてて”枝豆”さんの元へとかけよりました。


「どうしたんだい?」

「大豆さん……」


 大豆さんの顔を見るなり、枝豆さんは深いため息をもらしました。


「僕はもう、自分に自信が持てません」

「何があったの?」

「だって枝豆なんて……。まだまだ若くって、大豆さんに比べたら”えいようそ”もなくって……」


 しょんぼりと肩を落とす枝豆さんに、大豆さんもどうして良いか分からなくって、おろおろとあわてふためくばかりでした。


「だって、枝豆と大豆なんて、”しゅうかくじき”が一ヶ月くらい違うだけで、同じ仲間じゃないか!」

「だから、枝豆の方が”みせいじゅく”だって言うんでしょう? 大豆さんがうらやましいですよ」

「そんなことないよ」


 ”ふつうの大豆”さんは首をふりました。確かに大豆の方がタンパク質がほうふで”いそふらぼん”も取れますが、枝豆は枝豆で、大豆にはない”びたみんC”や”べーたーかろちん”も取れる、いわば豆と緑黄色野菜のイイトコどりみたいな存在なのです。


「枝豆さん、元気を出して。あなたは”せいちょうしてない”のが悪いことみたいに言うけど、決してそんなことはないのよ」


 ふつうの大豆さんの頭から、”いそふらぼん”がひょっこり頭を出して枝豆さんを励ましました。枝豆さんの隣にいた”べーたーかろちん”も、そうだそうだと言わんばかりに尻尾を振りました。


「枝豆さん。君が自分で自分を悪く言うところは、”あんがい”そうじゃないかもしれないよ」

「大豆さん……」

「じゃ、僕は行くね。僕ももっと、からだに優しくなりたいと思ってるんだ」


 そう言ってふつうの大豆さんは少し顔色の良くなった枝豆さんに別れを告げました。


□□□


 また次の雨空の下。”ふつうの大豆”さんが道を歩いていると、今度は道ばたで横たわっている”もやし”さんと出会いました。大豆さんはあわてて”もやし”さんの元へとかけよりました。


「大丈夫ですか?」

「大豆さん……」


 大豆さんの顔を見るなり、もやしさんは弱々しく笑いました。


「私はもうダメかもしれません……」

「何があったの?」

「私、生まれつき”もやしっ子”で……それを思うとどうがんばっても、元気がわいてこないんです」

 ふるふると唇をふるわせるもやしさんに、大豆さんもどうして良いか分からなくって、おろおろとうろたえるばかりでした。


「だって、もやしと大豆なんて、発芽してるかしてないかの違いだけで、同じ仲間じゃないか!」

「だから、もやしの方が”ヒゲ生やしすぎ”だって言うんでしょう? 大豆さんがうらやましいや……」

「そんなことないよ」


 ふつうの大豆さんは首をふりました。もやしさんは大豆のさらに成長した姿で、”びたみんC”がたっぷり含まれるのです。


「もやしさん、元気を出して。あなたは”せいちょうする”のが悪いことみたいに言うけど、決してそんなことはないのよ」


 ”いそふらぼん”がそう言ってもやしさんを励ましました。もやしさんの隣で傘をさしていた”ぐるたみん”さんも、そうだそうだと言わんばかりにうなずきました。


「もやしさん。君が自分で自分を悪く言うところは、”あんがい”そうじゃないかもしれないよ」

「大豆さん……」

「じゃ、僕は行くね。僕ももっと、からだに優しくなりたいと思ってるんだ」


 そう言ってふつうの大豆さんはちょっとだけ元気になった”もやし”さんに別れを告げました。


□□□


 さて、また別の夕暮れの空の下。ふつうの大豆さんは、歩きつかれて途方にくれていました。歩くたびに、ふつうの大豆さんは”醤油さん”や”豆腐さん”達と出会いました。だけど道ゆけど道ゆけど、どうしたら”ふつうの大豆”さんが”もっとからだに優しくなれるか”、誰も答えを知らなかったのです。


 仕方なく、ふつうの大豆さんは”からだに優しい大豆”さんの家を訪れました。”からだに優しい大豆”さんは、”ふつうの大豆”さんを笑顔で出迎えました。


「やあこんばんは、”ふつうの大豆”さん」

「”からだに優しい大豆”さん……」

「どうしたの?」

「どうしたらもっと、あなたみたいに”優しく”なれますか?」


 ”ふつうの大豆”さんの苦しそうな顔を見て、”からだに優しい大豆”さんはキョトンと首をかしげました。


「どうして君が、もっとからだに優しくなる必要があるの? 君はそのままでも十分優しいよ! だって僕ら、同じ大豆の仲間じゃないか!」

「でも……もっともっとからだに優しい方が、やっぱりいいじゃないですか……」


 ”ふつうの大豆”さんが目に涙を浮かべるのを見て、”からだに優しい大豆”さんは手招きしました

「来てごらん」

「?」

 そう言って、”からだに優しい大豆”さんは、”ふつうの大豆”さんを家の中に招きました。


「こんばんは」

「わあ……!」

 家の中にいたのは、村中の野菜や食物のみなさんでした。”にんじん”さんや”キャベツ”さん、”ピーマン”さん、それに”とり肉”さんや”魚”さんたちが集まっていたのです。”ふつうの大豆”さんは目を丸くしました。


「”ふつうの大豆”さん。僕ら大豆がいくら自分だけ張り切っても、”えいようそ”がかたよってしまうよ」

「…………」

「僕はね……実は最初から”からだに優しかった”わけじゃない。君と同じ、”ふつうの大豆”として生まれたんだ」

「え!?」


 ”ふつうの大豆”さんはおどろいて”からだに優しい大豆”さんを見上げました。”からだに優しい大豆”さんは優しくうなずきました。


「本当だよ。僕だって、君と何にも変わりゃしなかった。だけどね、まわりの”やさいさん”たちに助けられて……”えいようばらんす”を整えて、からだに優しくなっていったんだ」

「へええ……!」

「君だって、君だけなら足りない”えいようそ”も、いろんな”たべもの”さんたちに助けてもらえれば、もっともっとからだに優しくなれるんだよ」


 ”ふつうの大豆”さんはびっくりしました。”からだに優しい大豆”さんは、”はじめっから”からだに優しく生まれて来たんだと思っていたのです。


「”ふつうの大豆”さん。あなたは”あなた”であるのが悪いことみたいに言うけど、決してそんなことはないんじゃないかしら」


 ”いそふらぼん”が、”ふつうの大豆”さんの頭から顔をのぞかせて、そうつぶやきました。隣でほほ笑んでいた”からだに優しい大豆”さんも、やさしくうなずきました。


「”ふつうの大豆”さん。君が自分で自分を悪く言うところは、”あんがい”そうじゃないかもしれないよ」


□□□


 それから、”ふつうの大豆”さんはみんなにお礼を言って自分の家に帰りました。一日の終わりに、”いそふらぼん”といっしょにベッドに包まって眠るときに、”ふつうの大豆”さんは今朝より少し優しい気分になりましたとさ。


おしまい。

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[良い点] 示唆に富んだストーリーが良かったです。 [一言] 食べ物に感謝して、バランス良く食べたくなりました。
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