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完璧な僕が好きな子に好かれないわけ

作者: 熊谷次郎

この作品は小池一夫先生の漫画寺合宿の17年5月期の課題テーマ「弱点と欠点」で制作したものです。

僕、藤沢真一は完璧だった。

眉目秀麗、才色兼備。学業は学年一位。陸上の部活でもインターハイ出場。おまけに生徒会で会長もやっている。誰からも一目置かれる存在だった。

そんな僕が女の子と付き合うこともなく一匹狼を気取らなくてはいけないのには理由があった。

実は僕は人間界で人に紛れて暮らしている鬼の種族なのだ。

そのことを僕はずっとひた隠しにして生きてきた。しかし、幼なじみの山田聡にその正体がばれてしまっていた。

これは子どもの頃のまだ物事の判別もつかない頃のことだった。山田が数名のガキ大将達にいじめられていたのを目撃した僕は山田をかばうために鬼の力を使ってしまったのだ。それ以来、山田は僕の秘密を保持し、僕のことを慕うようになった。

 そんな山田が僕と対峙するようになったのは他でもない、僕と山田が同じ高校のクラスメイトの川本美咲のことを好きになったからだ。

 川本は黒髪をショートにして制服のスカートを短くしておしゃれに気を使うようなイマドキの女の子だけど、小さな妹たちの面倒を見ているような家族思いなところもあって僕はそこに惹かれていた。

 たまたま帰り道に一緒に帰ることになったときも僕のことを「頭が良くてうらやましいな」とか「何でそんなに運動神経がいいの?」とか、僕のことを褒めてくれてとても嬉しかったのを覚えている。

 ただ、「それだけかっこいいと誰かに告白されたことあるでしょ?」と

言われたときのことは少し胸が苦しかった。

 それは川本からそれを行われてしまったことと、自分の正体が鬼だと言うことを悟られた結果、皆に嫌われてしまうのではないかと危惧したからだった。

 その質問がなされた時、僕は「されたことがあるけど、断った」と言ったら、川本は意外そうにこう返してきた。「ええ、どうして? 君のタイプじゃなかったの?」そして彼女はこう付け加えた。

 「じゃあ、私が立候補してもいいのかな?」

 僕は心の中では嬉しかったものの、心中は複雑だった。

 「僕の全てを知っても?」

 僕は答えた。

 「え?」

 川本はキョトンとしていた。

 僕はそれ以上は話さなかった。


 そんな事態が一変する事件が起こる。

 放課後、僕は山田に川本と一緒に帰ったときのことを話したときだった。

 「脈ありじゃないですか。このまま付き合っちゃえばいいんじゃないですか? ああ、僕も川本さん好きだったのに、藤沢さんにとられちゃうんですね。やっぱり、イケメンは違いますね」

 山田は残念そうにそう言った。

 山田と帰ろうとしたとき、川本が僕に話してきた。

 「ねえ、藤沢君。今日も一緒に帰らない?」

 僕は断る理由もなかったので一緒に帰ることにした。

 普段通い慣れた道も川本と一緒に帰ると景色が一変してキラキラ輝いているように見えた。

 ところがその道で学校でも素行に問題があるいわゆる不良の生徒らが僕らを囲んで話しかけてきたのだ。

 「生徒会長じゃないっすか。女を連れてどうするんですか? やっぱりセックスでもするんですか? モテる男は違いますね」

 「俺らも仲間に入れて下さいよ」

 明らかに川本をそう言う目で見ていた。僕は身の危険を感じた。

 「川本さん下がってて」

 川本は僕の裏に隠れた。

 「いやあ、俺ら留年が近くて、優秀な生徒を憎んでるんです。会長、俺らの仲間が生徒会の奴らのタバコの指摘で出席日数が足りなくなって学校を退学する事になったんで、俺は生徒会長をボコボコにしてやることにしました。その女はおまけです」

 不良達は手をポキポキ鳴らし始めた。川本の存在が危ない。

 どうしよう、どうすればいい?

 …僕は迷うことなく鬼の力を使うことにした。

 姿の変わった僕の姿を見て不良達は怯えて逃げていった。

 そして、その様子を見ていた川本もまた僕の姿におののいていた。

 「…何なの、その姿……」

 川本の声は低かった。

 僕は震えそうな声で言った。

 「見ての通りさ。俺は人間じゃないんだ。

 鬼なんだ。だから、誰も人を好きにならない。

 黙っててごめん」

 川本は下を向いたまま「ごめんなさい」と言って走り去っていった。

 僕はそんな川本の姿を追いかけなかった。

 僕は終わったと思った。


 数日後、僕は学校生活を送る際一人でいることが多くなった。 

 別に川本が僕の正体について言いふらしたわけではない。だから、学校生活自体が変わったわけではないのだが、僕の気持ちが変わってしまった。僕は他人と関われない存在なんだ。その事実が重くのしかかった。

 そして、もう一つ変わったことがあった。

 山田が川本と付き合いだしたのだ。

 どうしてなのかを知りたいような知りたくないようなだったが、もう僕は人と関わり合いになりたくなかった。

 だが、思わぬところで、僕はその経緯を知ることになった。

 放課後の人気のない教室で川本が僕に向かって話してきたのだ。

 「ねえ、藤沢くんが鬼だっていうの、本当だったのね」

 僕は逡巡しながら答えた。

 「その鬼の能力で、この学校を滅ぼそうとしているんでしょ?」

 僕は「は?」と思った。

 「私知ってるんだから。山田君に聞いてるんだからね」

 その言葉に驚いた。

 「前に不良を追い払ったでしょう? それは山田君が鬼である藤沢君を追い出そうとしてけしかけたんだって。でも、藤沢君、言葉通り鬼の形相で不良を伸し倒した。鬼はやっぱり人間の敵なのね」

 その言葉を聞いて、川本の「あ、どこ行くの?」の声を聞くこともなく僕はすぐに駆け出していた。

 行き先は勿論山田のところだ。

 廊下の一階、下駄箱のところに山田はいた。

 「山田~~!! 何なんだ川本さんへのあの説明」

 山田は僕をみるなり憮然とした顔でこう言った。

 「ああ、僕が川本さんにそう教えたんですよ。わかるでしょ? 僕も川本さんのことを好きだったんですよ。

 だから、不良に絡んで貰って川本さんに藤沢さんの正体がわかるようにし向けたんですよ。川本さんが藤沢さんを嫌うようにね。

 どうです? 僕のことをムカつきましたか? ぶっ飛ばしたいと思いましたか? いいですよ?

 その際は僕があなたの正体が鬼だって言いふらすだけです。それを防ぐために僕を潰しても、その際は川本さんがあなたの正体を言いふらすことでしょう。

 あなたはもう僕に手を出せないんですよ」

 山田のその言葉に僕は何も言い返せなかった。

 「じゃあ、僕はこれで」と言う山田の背中を僕はずっと眺めていた。


 山田と川本は本格的に付き合いだした。

 僕はそれを黙ってみるだけだった。二人が僕のことを話したら僕の人間としての生活も終わってしまうのだ。二人を遠くで見つめることしかできなかった。

 そんな中、またあの不良達が姿を見せてきていた。今度は山田と川本に絡んできていた。

 「おい、山田。会長は何なんだ。お前の言ったとおりに絡もうとしたら命の危険を感じたぞ。お前なんて、会長の金魚の糞なんだから、お前だけじゃ何ともないんだよ。

 それに俺らを利用してその女に近づいたんだろ?

 気にくわないんだよな。お前をぶっ飛ばしてやる」

 「な、何だよ、お前ら。報酬は渡しただろ?」

 「そんなの貰ったうちに入んねえよ。

俺らはいらいらしてるんだ。ちょっとツラ貸せよ」

 「ま、待ってくれ。こんなはずじゃないんだ」

 僕は気がつくと二人の前に出ていた。

 「そこまでだ」

 不良達は僕を見て驚いていた。

 「な、何だよ、会長。こいつに味方するのか? こいつはお前をはめたんだぞ? そんなやつの肩を持ってどうするんだよ」

 僕は言った。

 「こいつは僕の友達だ。友達に手を出すのは僕が許さない」

 不良達は固まった後、「ずらかるぞ」と言って去っていった。

 「藤沢……さん」

 山田は申し訳なさそうに言った。

そして、地面にはいつくばり土下座をし始めた。

 「ごめんなさいッ……!!」

 僕は言った。

 「いいよ。それよりもさ、お前川本さんと付き合うことになったんだろ? 僕、本当は川本さんのこと、好きだったんだ。川本さんのことを幸せにしてやれよ」

 山田のそばにいた川本さんが僕の前までやってきた。

 「藤沢君、ごめんなさい。私あなたに言いたいことがあるの。

 私、あなたが鬼だと知ってあなたのことを避けるようになってしまった。

 でも、本当はね、私も鬼なの。人間に悪さをしようとしている鬼を倒す鬼なの。君が人間に悪さをしていると思って君のことをよく知っている山田君に近づいただけなの。

 だけど、君は悪さをしない良い鬼だってわかった」

 川本が潤んだ瞳で僕を見た。そして、手を差し出してきた。

 「藤沢君、私と付き合ってくれない? 一緒に悪い鬼を退治していきましょう」

 僕はその手を重ね、握手をした。

 「ああ、僕でよければ協力しよう」

 僕と川本の戦いはここから始まったーー!!

 

 

 

 


読了ありがとうございました。

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