聖夜は家族(義理の弟)と過ごす日です!
クリスマスに彼氏に振られるなんて最低だ。
「だからって、弟を呼ぶことないだろ……」
「だってアンタしか暇な人間いなかったんだもん」
イルミネーションに彩られた夜の駅前。待ち合わせに現れた弟は、不貞腐れながら開口一番文句を言った。
彼氏に「クリスマスは豪華なデートしてみたいね」って言われて、大喜びでバイト代をつぎ込みホテルのディナーを予約した。なのに、直前で二股が発覚しお別れ。
折角予約したし、キャンセル料が勿体無いので弟を召喚したのだ。悲しい。
「女に全部任せるなんて、そいつ男としてどーなの」
「私が好きでやったんだもん……初彼氏と、初クリスマスデートだったんだもん……」
「……あーあ、めんどくせ。今日は一日寝てようと思ったのに」
ブツブツ言いつつ、律儀に待ち合わせ時間を守り、指定したドレスコードのスマートカジュアルで来てくれる優しい弟。
普段、だるだるの部屋着しか見ていないせいか、可愛いシャツにセーターと綺麗なジャケットを羽織っている彼は新鮮だった。コートもそれ、見たことないやつだ。
「服、わざわざ買った?」
「これくらい持ってるし。もう大人だし」
ポン、と頭を軽く叩かれ、歩いていってしまう。私はその後ろを小走りで追いかけた。
電球が巻き付けられた街路樹が延々と続く道路を歩く。この先に定番のデートコースである大きなショッピングモールやホテルなどの施設があるのだ。
すると、私たちの横を通り過ぎた女性が数人、彼を振り返った。
背が高くて、綺麗な顔立ち。鼻ぺちゃな私とは似ても似つかない美形の弟は、どこにいても注目を集めてしまう。
弟の悠成と私、智花が似ていないのは、血が繋がっていないからだ。
5歳の時に両親が子連れで再婚。現在21歳の私たちは、誕生日が3ヶ月しか変わらない、同い年の姉弟なのだ。
「悠成って、彼女いないの?」
「いないけど、それがなに?」
「そっか、よかったぁ。いたら誘うの申し訳なかったもんね」
「……」
呼び出しといてなんだけど、ちょっと安堵する。
弟はモテるせいか、女の子に頓着しない。彼女より私を優先してしまって約束を破ったり、冷たくあしらったりする事がある。中学も高校もそんな感じだった。
大学は別のところに通っているのでよく知らないけれど、もし彼女がいてデートの約束をすっぽかしてこちらに来ていたとしたら、申し訳が立たなすぎる。
私が優先されたり優しくされるのは、もちろん家族だからだ。
他人同士が集まって出来た家族。色々あったけれどなんとか上手くいっているから、きっと彼なりにそれを崩したくないんだと思う。
その心遣いは嬉しいんだけど、お姉ちゃんは心配です……。
「そういえば、パパとママは?」
「デートだって。いい年して落ち着きないよな」
「ふたりにディナーあげたらよかったかなぁ?」
「いや、ディナークルーズがどうとか言ってたから……」
うちの両親はラブラブだ。私たちが大きくなってからは、毎年クリスマスは家を空けて帰ってこない。だから毎年、悠成とふたりきりでケーキを買ってテレビを見て過ごしていた。
「今年もいつもと変わんないなぁ」
そう毒づきながら、イルミネーションを眺める。
本当なら、彼氏と一緒にうっとりしながら腕を組んで歩いていたはずなのに。悠成の歩調は早くて、眺める、というより通り過ぎる、だ。
あーあ、なんでこんなことになったんだろ。せめて、クリスマスが終わるまで隠し通してくれたらよかったのに。そしたらこんなに惨めな気持ちにはならなかったかもしれない。アイツは今頃、二股の本命彼女と一緒にケーキでも突ついているんだろうか。
「くそぉ」
悔しさに唇を噛めば、ライトアップされた景色が滲む。
こうなったら、とことんデートを楽しんでやる! 相手弟だけど!
理想のデートコースの予習はバッチリだ。悠成には悪いけど、全部付き合ってもらう。このデートコースをきちんと成仏させなければ!
決意を新たに前を歩く悠成へ小走りで追いつくと、ガッと腕をつかんだ。
「うわ、なにすんだよ」
「腕組もう、悠成」
「なんで」
怪訝な顔の彼を見上げ、私はキリッと「デートだから!」と宣言する。
彼はやれやれとため息をついて、少しだけ歩調を緩めてくれた。しがみつくようにつかまっていた腕を自然に組み直して、並んで歩く。
「デートとして付き合うのはいいけどさ、姉貴──」
おおっと、いけない、忘れてた!
「今日は名前で呼んで!」
「えぇ……」
「恋人のつもりで!」
「…………いいけど」
渋々了承してもらい、「と、智花」と吃りながら呼ばれる。眉間にもの凄いシワが寄ってるけど、見なかったことにしよう。
「なあに?」
「あー……俺じゃ慰めにならない、よね?」
「え、なんで? いいよ?」
さっきも言ったけど、暇な人間アンタしかいなかったんだよ。それに、毎年一緒にいるのに今更だよ。
……なんて、失礼なので黙っておく。
「今日は悠成が良かったの!」
組んだ腕をギュッと抱きしめると、眉間のシワをますます深めて「マジか」と呟かれる。どうせ、迷惑だとでも思ってるんだろうけど。
そんな悠成に、私は次なるプラン「ジュエリーショップ」を宣言する!
「げぇっ、そこはパス、虚しい!」
「見るだけ、見るだけだから!」
「はぁ……」
恋人と言えばペアリング。
ブランドとか全然詳しくないけど、ちょっと背伸びしていいものを買ってみたかったな。いや、無駄にならなくて良かったんだけどさ。
「わぁっ、かわいい!!」
「石に可愛いとか意味わかんね」
ショーケースの中を覗き込みながら歓声をあげると、悠成は眉根を寄せた。彼はこういうものに一切興味がないし、常々「可愛いの意味がわからない」と愚痴っているので、まぁ放っておく。
しばらくあれが可愛いこれは邪魔くさいなど色々言いつつ見ていると、ショップの店員さんがやってきて試着を勧めてくれた。
「みてみて〜! 似合う? どう?」
「あーそーだな……って、ふは」
悠成が気のない返事をしながら私の顔を見て、ふいに噴き出す。
なに? なんかついてる?
「智花って、子供の頃からちっとも変わってないな」
「は? どゆこと?」
「だって今の顔、お菓子のオマケでついてくるオモチャの指輪した時と、まったくおんなじ」
むっ。なにそれ、成長してないってこと?
睨みつける私をよそに、なにがそんなに可笑しいのか、悠成はクスクスと笑っている。
私はそっと指輪を店員さんに返した。
悠成は「まだ見てもよかったのに」と言っていたけど、なんかそんな気分じゃなくなった。
大人になって、甘いデートをするつもりだったのに。相手は弟だけど!
「次はぬいぐるみでも見る?」
「バカにすんな!」
「でも、あれ、好きなやつだろ?」
そう言って指差した先には、確かに私が集めているブサカワウサギのぬいぐるみが山積みであった。
「うわぁ! 出っ歯バージョンと10円ハゲバージョンがある!」
「それ可愛いの……?」
目を輝かせて走り寄る私に、苦笑しながらついてくる悠成。
結局、ジュエリーショップよりだいぶ長居して、お揃いのマグカップやらクリスマス限定ぬいぐるみやらを買ってしまった。
「楽しかった?」
「うん、楽しかった! いっぱい買ったった!」
ホクホク顔で戦利品を掲げると、悠成が笑う。
「ならよかったな。で、次はどうする?」
「えーっとね、予定では……」
「あ、あれ。クリームたっぷりトッピングのパンケーキだってさ」
「どこどこ!?」
──結局、そうやって誘導されまくってしまう私には、甘い大人のデートなんて出来るはずもなく。
悠成と一緒に、あっちに行ったりこっちに行ったり、単なる楽しいお買い物をめいっぱい楽しんだのだった。
だけど、悠成のおかげで元彼のことなんてすっかり忘れて楽しめた。
大人のデートなんてしていたら、いちいちアイツのことを思い出して、落ち込んでいたかもしれない。
そして、あっという間にディナーの予約の時間が迫ってきた。
「悠成、ご飯前にトイレいってくるから、そのへん見てて」
「わかったー」
いよいよラスト。夜景の見えるレストランで大人なディナーだ。
さっきまで無邪気に遊んでしまっていたので忘れていたけれど、私たちもそのためにオシャレしていたわけで、一気に緊張してくる。
服装や髪型の乱れを直しトイレを出て、悠成を探していると。
「げ、智花」
背後から、聞き慣れた声が聞こえた。
げ、って……ヘコむわ。その声は、振り返らずともわかる。弟とデートすることになった元凶、別れたばかりの元彼だ。
「お前まさかひとりできたの? すげー張り切ってたもんな……引いたわ」
「いいでしょ別に……関係ないじゃん」
むっとしながら振り返ると、彼はニヤニヤしながら横にいた派手な女の子の肩を抱いた。
あー、二股の相手とご一緒。そりゃそうか。
不義理を反省するどころか見せつけてくるその根性に、怒るというより悲しくなった。まだ癒えていない傷を抉られて、一方的に見下されるのは悲しい。
早くこの場を去りたい──。
俯いて唇を噛んだ、その時。
「智花、それ誰?」
ふいに、悠成の声がして腕を掴まれた。
絡まれたとでも思ったのだろうか。心配そうに顔を覗き込んでくる。
「悠生……えっと、元彼?」
「はぁ!? 付き合ってねーわ!」
「ひっど……!」
どういうわけか、私との交際歴は抹消されたらしい。
さすがにムカついたが、彼はなぜか怒っているらしく思い切り睨んできた。
「男はべらしてるって噂、本当だったんだな。すぐ代わりが用意できるんだもんな。同棲もしてるんだって?」
「な、なにそれ……!?」
驚きで固まっていると、彼は悠成と私を軽蔑したように見ながら鼻で嗤った。
「知らねーの? お前、女子にすげぇ嫌われてるよ、ビッチって。大人しそうな顔して遊びまくってるって、俺のとこにも教えにきてくれた子いっぱいいるし」
彼は横にいる女の子をチラと見て笑う。彼女は微笑みながらも、私に鋭い視線を投げかける。
「びっ……! はぁ!? だってこれはおと」
「はいはい、そこまで」
誤解を解こうと反論しかけ、悠成に手で口を塞がれた。そして耳元で小さく、「それ、今言う必要ある?」と囁かれる。
確かに、惨めの上塗りかもしれない。誤解が解けたところで、私たちはもう戻れないんだから。
「あんたも気をつけた方がいいよ。騙されて貢がされる前に、はやく逃げな。じゃないと遊ばれて捨てられるよ」
彼は今度は悠成にしたり顔で忠告しだす。
私はなんだか情けなくなった。そんな嘘の噂が広まっていて、どういうわけか彼はまるっと信じたんだ。
彼は私の何を見てたんだろう。ううん、私こそ、どんな疑われるようなことしてたんだろう。
わけがわからなくて涙目になる──と、悠成がいきなり、私を後ろから抱き締めた。
「え、ちょ!?」
「お気遣いなく。俺は智花を信じてるし、智花になら騙されてもいいんで」
抱き締めて、こめかみに軽く口付けされる。
私たちは姉弟なのに、その瞬間、頬がかぁっと熱くなった。
「俺、この子一筋だから」
悠成がキッパリと言いきると、勝手にすれば、と彼らは去って行く。
呆れたような元彼の態度と、なぜか睨むようにチラチラとこちらを伺う彼女。やっと行ってくれてホッとしたけど、ものすごく疲弊してしまった。
「そんな変な噂があったなんて、知らなかった……」
げんなりして思わず力が抜ける。と、悠成が体を離して俯いた。
「……悪い。俺は知ってた」
マジか。別の大学の悠成が知ってるって、けっこう有名だったりするのかな。嫌だなぁ。
申し訳なさそうな彼に、私は苦笑して「教えてよね」なんて冗談めかして言う。すると、彼はさらに小さくなって呟いた。
「なんて言えばいいかわかんなかったんだ……だってそれ、全部俺のせいだし」
は? なんであんたのせい?
驚いて顔を覗き込む私から、彼は目を逸らす。
「ごめん、あいつの彼女、たぶん俺のこと知ってるやつ。たぶん、ずっと前に告白されたけど断った人で……姉貴のこと嫌がらせしてんだと思う」
あぁ……だからあの彼女、私のことめっちゃ睨んできてたのか。
元彼の元カノだからだと思ってた。にこにこして黙ってるのに、目がずっと怖かったんだよね。
「あんたも大変だね。巻き込んでごめんね」
同情して笑うと、悠成は眉をしかめた。
「違う。俺がシスコンだって噂がまずあって、それを否定しなかったのがいけないんだよ。それで勘違いされて、姉貴が逆恨みされてんの。……まさかそっちに矛先いくと思わなくてさ。ごめん」
「ううん、こっちこそ……あんたがシスコンだって周囲に勘違いさせるようなこと、私もしてたんだよね? ごめんね」
「いや、だからそれは、俺が否定しなかったからで……あーもう」
無限謝りループに入りそうになって、私たちは顔を見合わせて笑った。
「もーいいか、今日は恋人だし、シスコンで!」
「そうだよ、私もブラコンになるっ」
ぎゅっと腕を抱き締めて寄りかかると、一瞬ぐらりと揺れた悠成が「お、おうっ」と体勢を立て直しながら同意する。
「次はもっと見る目のある男にする! それまで私は悠成のものだ!」
「そ、そう……うん、それがいいよ」
盛り上がる私にちょっと引きながら、「んじゃ、メシいこっか」と促してくれる。
そうだね、ご飯食べよう。食べて忘れちまえ!
そして私たちは移動し、豪華なホテルのディナーを堪能した。
正直、味がわからないほどカチコチになってしまった。対する悠成は、飄々とその場を楽しんで美味しそうに食事をしている。
「おごりだよね?」と笑いながら言って、お酒まで注文する始末。
我が弟ながら、末恐ろしい!
「……じゃ、終わり?」
食べ終わってナプキンをテーブルへ置き、悠成が首を傾げた。
ああ────来たよ、この瞬間。
私は俯いて、ちょっと迷った末、赤面しながら白状する。
「上に……部屋、とってあるの」
「はあっ!?」
そう。実はホテルも一緒に予約してしまったのだ。
言うかどうしようか、直前までずっと迷っていたのだが、今日は色々と迷惑をかけたし、迷惑ついでにもうちょっと甘えてみようかな、なんて。
だけど、ちょこっと目を上げて目の前の彼を見ると、呆れたような目でこちらを見ている。
「さすがにやりすぎだろ」
「わかってるけど、もう予約してるし、キャンセルしてもどうせお金かかるし……」
冷静に言われると恥ずかしくて、ますます赤くなってしまう。
豪華なホテルの部屋を見たいという欲求を、モジモジしながら伝える。
「それに、そのぉ……お礼が……したいの」
だめかな? 上目遣いで必殺のお願いに、悠成はうっと唸った。
「え……それって、まさか……いや、そんなのよくな」
「ルームサービスいくらでも頼んでいいから! ね? 豪華なお部屋見たいでしょ!?」
最後のダメ押し! 食べ物で釣る!
「…………あぁ、はい」
なぜか諦めたような顔で言われたけど、気にしない!
お会計を済ませて、ホテルのフロントで予約のチェックインを済ませる。
わーい、ドキドキ。
荷物もそんなにないのでルームキーを受け取って、部屋へ直行した。
普段の旅行なんかで泊まるよりもちょっとだけ奮発したお部屋は、広くて綺麗で、ふっかふかのベッドだった。
ふたりして思わず歓声をあげ、さっそくダイブした後、部屋中を探検する。
冷蔵庫や引き出しは片っ端から開けるよね。アメニティもチェック。ルームサービスのメニューも確認。
あらかた見終えると、ふたりしてベッドの上に足を投げ出して座った。たくさん歩いたから、ちょっと疲れたよ。
「んで?」
「へ?」
もこもことベッドの上で軽く飛び跳ねてスプリングを確認していると、悠成が尋ねてくる。
「彼氏とこの部屋来て、なにするつもりだったの?」
わかってるくせに、ニヤリと意地の悪い顔で言われ、思わず赤面した。
「な、なにって……こ、子供には関係ないでしょ!」
「いや同い年だし」
冷静なツッコミが痛い。悠成は呆れたように溜息をついて、「ほんと、どーしょうもないな、このビッチ姉」と笑った。
「うう……どうせ。期待しまくりのイタイ女だよ……」
「ほら、こっちおいで。今日は恋人でしょ?」
ベッドの頭側の壁に寄りかかっていた彼が、両手を広げる。私は大人しく従って、彼の足の間に収まり、後ろから囲うように抱き締められた。
ゆっくりと大きな手で頭を撫でて、慰めてくれる。
家でも、本当にヘコんでいるときはいつもこうしてくれた。
こんなことしてるからシスコンの噂なんてたつんだってわかってるけど、やめられなかった。
たぶん、自業自得だ。
彼氏が欲しいのも、大人のデートをしたいのも本当。だけど、もうちょっとこうやって、仲の良い姉と弟でいたい。
弟離れなんて当分できないかもなぁ、なんて思っていると。
「ここでする予定だったことも、俺がしようか?」
ふいに耳元で囁かれ、私は飛び上がる。
「え、な、な、な、なにを!?」
「智花が期待してたこと」
って、そんなの姉弟ですることじゃないから!
「なにいってんの、バカ!」
「いたっ!」
バチコーン!とアッパーかまして腕の中から逃げる。
まったく、すぐそういう冗談言うんだから。
悠成といるといつもドキドキしてるのは、誰にも内緒だ。
そうやってふざけた後、私たちはベッドの上でひと息つく。
その時、ふと大きなガラス張りの窓から、外の景色が目についた。チラチラと白い花びらのようなものが、夜景を遮るように絶え間なく降っている。
「わっ、雪だ!」
「マジだ!」
私たちはしばらくぼーっと口を開けて雪を見ていた。
ホワイトクリスマスって、すごく珍しいんだよね?
なんだか特別な気分になった。悠成と見れたことが嬉しい。
「……楽しかったな」
彼が、ふいにポツリと呟いた。
よかった。悠成が楽しかったのなら、散々な目に遭っても惨めでも、それだけで救われる。
私が喜ぶと、彼は柔らかく微笑んだ。
「なんで俺が毎年クリスマスは家にいるか、わかる?」
「えー……モテないから?」
「バカ。姉貴と一緒にいたいからだよ」
笑って茶化すと、むっとして拗ねた口調になる。
たぶん、彼は優しいから、家に私をひとりで置いておけなかったんだろう。ありがたくて、照れ臭くて、ついわざと突き放してしまう。
「姉離れしなきゃだよ」
「うん。俺もそう思ってた。今日までは、そう思ってたんだ」
ふいに真剣になって、彼は私の目をじっと見つめた。
「俺がいるじゃん。見る目なくて、いい男いなかったらさ、俺がいるからいいじゃん。クリスマスって、本来は家族と過ごす日だろ。だったら、一生俺と過ごせばいい。これからもずっと、俺が姉貴と一緒に過ごすよ」
ぐっと力のある瞳に射抜かれて、身動きがとれなくなる。
それは、弟として、だよね……?
少しだけ上気した頬に、あらぬ期待をかけてしまいそうになる。
「そっか……それもそうだね。クリスマスって、家族と過ごす日なんだもんね」
「そうだよ。俺とはずっと家族だろ、これからも」
だから、ずっと一緒にいよう──。
その言葉に含みがあるように感じてドキドキしながら、誤摩化すように目を逸らす。
恋人ごっこは間もなく終わって、もうすぐいつもの姉と弟に戻る。それをちょっとだけ残念に思いながら、私は再び窓の外を見た。
雪はますます勢いを増し、ぼたぼたと大きな花びらを散らすように降り注いでいる。これは積もりそうだ。
今年も、いつもと変わりばえしないクリスマス。
だけど、悠成と一緒にいられることが、私にとって何よりのクリスマスプレゼントなのかもしれない。