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「待ってよ」
背後からの声。ぞわり、と背中を悪寒が撫でた。
嘘だろう。あれだけ走ったのに。冗談じゃない。こんなのに捕まったらどうなるのかわかったものではない。
「話を聞いて貰えないかなあ?」
口をきくつもりは無かった。とにかく外へ。
飛びつくように外への扉にしがみつく。開かない。鍵がかかっているのか? ガチャガチャと取っ手を揺さぶる。頼む、開いてくれ。
「そこ、出られないと思うよ」
鋏はゆっくりと振り返る。声の主はすぐそこに立っていた。薄闇に包まれた空間に不釣り合いな金髪がふわふわと揺れている。それがこちらを品定めしているように見えたのは考えすぎだろうか。
「お、俺をどうする気だ……」
「どうもしない。話を聞いて欲しいの」
姿だけは少女のような何かは悪戯っぽく微笑んだ。
「珍しいのよ、あなた。生きているまま、“そう”なるのは……おかげで妙なことになったのだけど」
少女がスッと手を伸ばしてきた。鋏は反射的にそれを払いのけた。つもりだった。
「さすがに触れるのは無理よね、安心した。まだちゃんと生きているみたい。でも、そろそろ危ない領域よ。しっかりしなきゃいけないわ」
鋏は背後の扉へ身体を潰れるほど押し付けていた。頭でこれ以上下がれないとはわかっていても、だ。
「怯えるないで、という方が無理だと思うし、それに追い打ちをかけるようで悪いんだけど、私は人間じゃないわ。察しの通り、霊の類と思ってもらって構わない。ただ、何もしない。何もしないんだけど、あなたが巻き込まれていることくらいは教えてあげようと思って」
何の話だ。
「学校ってね、私みたいに霊がうじゃうじゃいるの。いろいろあるからね。で、あなたは少し人間の世界での存在感を薄めすぎたようで、私たちの領域に片足を突っ込んでしまったようなのね。つまり、あなたは霊の類に近づいてきているってわけね。ここまで大丈夫?」
鋏は混乱する頭で言葉を反芻する。こいつはやはり幽霊で、自分は幽霊の領域に踏み込んでしまったという。そして、その原因は理不尽ではあるが心当たりがある自らの行いであった。




