王都への道、再び ~三人娘を添えて~
往路でもそうだったのだが、復路も各地で砂漠の変化を見て取れた。
まずはバスカ荒野だが、プレイヤーの増加に伴って盗賊の数が大きく減少。
移動中に会ったのは残党に近い連中で……
「ま、待ちやがれぇー! ぜぇぜぇ、は、はええっ……! 何だあの馬鹿でかい馬ぁ!?」
「徒歩じゃ無理ですぜ、お頭ぁー!」
どうやっても追いつかれそうも無いのでスルー。
野卑で野蛮でおまけに臭いので、彼女達と長時間向き合わせたくない存在でもある。
「あ、あの! 放っておいていいんですか、ハインド先輩!?」
「あー、いいのいいの! それよりも先に進もう!」
三人乗りで一番後ろになっているサイネリアちゃんが振り返って叫ぶが、俺は気にしないように返した。
盗賊を街の治安維持組織に引き渡すと報酬を受け取れるが、何分手間が掛かる。
「なるべく道中は急いで、各地の要所だけを抑えていこう! 今夜中に着きたいって話だったよね!?」
「はい! 早目にホームを作ってから活動した方が、何をするにも経験値に無駄がないよってシーちゃんが! ね、シーちゃん! ……ってあれ、寝てるっ!?」
リコリスちゃんが驚愕した。
彼女達二人を王都へと急かした当の本人はこうして睡眠中である。
それにしても、これだけ周りが大声で話しているのに起きないのはさすがというかなんというか。
「ハインド、そろそろバスカの街だ!」
「やっぱ盗賊を相手にしなければ直ぐに着くな! 経由するぞ!」
馬の休憩、それと街の主要施設の場所くらいは三人に把握してもらった方が良いだろう。
「ひいっ! 今こっちを見て笑いましたよ、このラクダ!」
「想像よりも大きくて怖いですね……」
「何だかこの顔にシンパシーを感じます。仲良くなれそう」
キャメルマーケットでの三者三様の反応。
三人にはラクダを買ってもらって歩調を合わせてもいいと言ったのだが。
「「「お金が足りません」」」
という簡潔な理由でこの案は不採用。
このままグラドタークに相乗りで進むということになった。
続いての吊り橋は、馬を降りて一列になっての移動なのだが。
「うわぁー! 高いです! 落ちたら死んじゃいます!」
「り、リコ! あんまり揺らさないで……!」
「先輩、歩くの疲れたんでおんぶして下さい。抱っこでもいいです」
「ハインド……甘やかしが過ぎるようなら、二人とも橋から落とすぞ?」
「や、やらないやらない! シエスタちゃん、まだ疲れるほど歩いてないでしょ! ほら、しっかり!」
「ちぇー」
橋を揺らしながらの賑やかな行進である。
それを過ぎると、今度は熱風が吹き荒ぶ砂漠へと入っていく。
三人にも外套をまとわせ、グラドタークに乗り直しての移動となる。
「暑いぃぃー、暑いですぅー……バテちゃうー……ゲームなのにー……」
「一人であんなにはしゃぐから……」
「ぐでー」
三人中二人が暑さにやられ、ぐったりとしている。
といっても現実ほどの不快感があるわけではないので、直に慣れることだろう。
砂漠のモンスターに慣れてもらうために数戦だけ行い、残りは馬の速度に任せてどんどん振り切っていく。
その数戦を見た限りでは前よりも三人の連携が洗練されていたので、俺達の助けはそれほど必要なさそうだった。
こうして王都までで一番広いフィールドであるヤービルガ砂漠を横断し、オアシスの街マイヤに到着。
「あー、生き返るぅー! え、この水、有料なんですか!?」
「リコ……。あ、すみません、今この子の飲んだ分も払いますから……。はい、これで」
「ゴクゴクゴク……ぷへー」
「あ、ちょっとシーまで! 先にお金を払いなさいってば!」
馬用のバケツにオアシスから水を汲みつつ、そんな三人の様子を見たユーミルが俺の方に近付いてくる。
俺達は慣れているので、既に使用料を支払い済みだ。
「遠足の引率をしている気分だ」
「まぁ、いいじゃねえの。偶には世話をする側に回るのも」
「うむ。普段の私は、お前に一方的に世話をされているだけだからな!」
「そこで胸を張ってドヤ顔をする意味は、俺には微塵も理解できんが」
オアシスで休息した後は、残りの道程は三割といったところ。
ルキヤ砂漠でフィールドボス『ヴェノムスコーピオン』を倒せば王都ワーハは目の前だ。
グラドタークで一気に駆け抜け、遂に王都が目視できる位置に。
直後、大きなサソリが砂中から勢いよく飛び出してきた。
俺とユーミルは三人を前に立たせ、やや後方で待機。
「じゃあ、後はお前達のお手並み拝見だ! こいつに関して私達は、基本的に手を出さんからな!」
「パーティ状態は維持しておくから、危なくなったら助けに入るよ。頑張れ」
「はい、頑張ります!」
「お任せ下さい」
「ういー。ほどほどにやりまーす」
フィールドボスには経験値もドロップアイテムも存在しない。
よって、戦闘をしないメンバーがパーティに入っていても特に不都合は起きない。
このフィールドボスは俺達の時は五人で倒したが、リコリスちゃん達の方が当時の俺達よりもレベルが上だ。
先程の戦闘を見た感じでも、それなりに余裕を持って倒せるはず。
鋏を打ち鳴らして大サソリが三人へと迫る。
「みんな、行くよ!」
騎士のリコリスちゃんが大盾を取り出して鋏をガード。
続けてサイネリアちゃんの放った矢が次々とサソリに向かって飛んでいく。
硬い甲殻に矢が阻まれているのを見て、シエスタちゃんが『ライトエンチャント』を使用。
このスキルは全タイプの神官が習得可能な共通スキルなので、バランス型のシエスタちゃんでも使うことが出来る。
サイネリアちゃんの矢が光魔法の力を帯び、『ヴェノムスコーピオン』の体に矢が刺さり始める。
そのままリコリスちゃんがサソリを一人で止め続け、後衛の二人が堅実にダメージを与えていく。
三人の中で指示を出しているのは、主に弓術士のサイネリアちゃんだ。
「リコ、敵が力を溜めているみたい! 何か大技が来るかも! シー、リコを回復させる準備しておいて!」
「分かった、サイちゃん!」
「もうやってるよー。リコー、どう見ても毒持ちっぽい尻尾が怪しいから気を付けてねー」
「え? ――わぁっ!」
ヘイトを集めるスキル『挑発』を連発していたリコリスちゃんにサソリの尾が迫る。
シエスタちゃんの戦闘中とは思えない、のんびりした警告が間に合ったのか間一髪シールドで防ぎきる。
そのままカウンター、右手に持った短めの剣でサソリに一発。
「サイちゃん、シーちゃん、決めてね!」
続けざまに防御型騎士のスキル『シールドバッシュ』を使用して、構えた大型の盾で強打。
それにより『ヴェノムスコーピオン』が気絶モーションを取って、その場から動かなくなる。
「ナイス、リコ! シー!」
「あいよー」
気絶時間を利用してシエスタちゃんの詠唱を少し待ち、同時に『アローレイン』と光属性攻撃魔法『ヘブンズレイ』が同時に放たれた。
見た目の通りに物理防御が高く魔法耐性が低い大サソリは、降り注ぐ大量の矢で動きを止められつつシエスタちゃんが放った光線が全て直撃。
光に焼かれてその場から消えていった。
「お見事! 素晴らしい連携じゃないか! なあ、ハインド!」
「本当に。PvP大会が三人出場だったら、もっと良い成績を残せたんじゃないかな?」
俺達の賛辞に、リコリスちゃんとサイネリアちゃんは照れたような仕草を見せた。
シエスタちゃんだけは余り表情を変えず、もっと褒めろとばかりに俺にグイグイ寄って来るのはさすがと言わざるを得ない。
こうして三人を連れた俺とユーミルは、一晩で無事に王都ワーハまで戻ることに成功した。