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駆け込み廃プレイ

「ぬぐぐぐぐぐぐ……」


 イベント戦闘を終える度、トビがメニューを開く。

 目当てはランキングページだ。

 そして、リアルタイム更新で変動した数字に一喜一憂する。

 先程からこの繰り返しだ。


「うぬぬぬぬ……」


 トビの現在の順位は4位。

 ポイント獲得の推移からいって、魔王の出待ち期間がなければ3位以内は余裕だったかもしれない。

 今の3位は……。


「マタタビダンスゥゥゥ!」


 マタタビダンス、という変わったプレイヤーネームの古参だ。

 飼い猫の酔っ払いみたいな動きを見て思いついた名前らしい。

 ギルドには所属していないが、こういった個人戦にはよく顔を出すソロプレイヤーの有名人だ。

 ただ、そんな彼も最近になって加入したグループがあり……。


「こいつだけは! こいつにだけはぁぁぁ!」

「なんでそんなに怒ってんだよ、トビ」

「だってあいつ、尻派なのでござるよ!? みんなで、魔王ちゃんはあんよが一番だって結論を出したっていうのに! 許せねえ!」

「アホか」


 魔王ちゃん親衛隊、副隊長。

 それが最近、彼に付与された役職である。

 隊長であるトビとはこのところ、激しく議論を交わす間柄である。

 ……まぁ、なんだ。楽しそうでなにより。


「でもマタタビさん、魔王ちゃんウォッチも欠かしていないんだよな? いつプレイしてんの? 大学生くらいの容姿に見えたけど」

「マタタビダンスって、いわゆるネオニートなのでござるよ! 投資とか不労所得とか、そういうの!」

「ああー……」


 もう身の上話までするような仲になっているのか。早いな。

 TBは基本、総プレイ時間=強さとならないよう気を遣っている。

 しかし今回のイベントは普段と違い、上位に食い込むにはプレイ時間がそれなりに必要だ。

 俺たち学生は、外に出て働く社会人よりはずっと有利だが……。

 さすがに、在宅で自由に時間をゲームに(つい)やせる人たちには負けてしまう。


「やっぱ厳しいか。そろそろ諦め――」

「でも拙者、負けないよ! 特に最終日の今日は、まだまだ廃プレイできるもんね! ポイント獲得のペースは勝ってる! まだ行ける! まだ舞える!」

「――……そうだな」


 実際、学校の課題消化も秀平にしては頑張っていた。

 その目は真っ直ぐひたむきに上を目指し……。


「そして、親衛隊の中で拙者だけが魔王ちゃんに()められ……うへへ」


 目指し……いや、(くも)っているし(よど)んでいるな。

 この暗黒空間に負けないくらい駄目な色だ。

 ちなみに親衛隊の面々、俺が知る限り、ほぼ全員が二十位以内にみっちり入っている。

 イベント限定の臨時幹部は総勢百名ほどなので、上澄(うわず)み中の上澄みのへんた――魔王ちゃんファンのプレイヤーたちである。


「……お?」


 マッチング完了の音、ではない音が聞こえた。

 これはゲーム内のメール着信音だ。

 視界内に表示されたアイコンをタッチし、開いて確認。


「なになに? ハインド殿。運営から()び石きた?」

「ちげーよ。っていうか、そうだとしても俺だけに来るのは変だろ」

「知らないのでござるか? ゲームによっては受け取りに時差があって……」

「知るか。TBにガチャはねえ」

「あっはっは。で、メールでござるな? 誰からなので?」

「フィリアちゃんから」


 メールを一読した俺は、イベント戦闘のマッチングを一度中断。

 すぐに返事をしたほうがいい内容だったので、トビの判断を(あお)ぐ。


「一緒にイベントやらないかって。どうする?」

「どうするって、そんなの……」




「フィリア殿は1位でござるよ、1位! 乗っかるしかねえ!」


 イベント中盤辺りから勢いを増したフィリアちゃんの成績は、今やトップである。

 仮にフィリアちゃんが4位だったり3位だったりしたら、トビの競争相手になったところだが……。

 割とポイントに差があるので、一緒にプレイしても問題ないだろう。

 メールを返信してから数分と経たずに、フィリアちゃんは俺たちに合流してくれた。


「みんなが、かなり手伝ってくれたから……」


 無表情で謙遜(けんそん)するフィリアちゃんだが、多分少し照れている。

 俺たち渡り鳥も何度かサポートはしたが、特に頑張っていたのはリコリスちゃんを中心としたヒナ鳥たちだ。

 フィリアちゃんのポイントに余裕ができたので、今日は休む旨のメールが来ていた。


「フィリアちゃんは休まなくていいの? もう一切イベントに参加しなくても、余裕がありそうなポイント差になっているけど」


 これだけのポイントとなると、プレイ時間もかなりのものだろう。

 遊びで疲れるな! などと言う人もいるが、全力の遊びは疲れるのだ。

 しかし、俺の問いにフィリアちゃんは頭を振る。


「……ハインドが、トビを支援して3位以内にしたがっているって聞いたから」

「ハインド殿への恩返しでござるな!」

「……そう」


 恩返しって、トビのやつ例の喧嘩(けんか)の件を知っているのか?

 誰が話して……って、リコリスちゃんだな、きっと。

 当事者が話したのなら別にいいか。

 フィリアちゃんはインベントリから紙を二枚取り出すと、俺とトビにそれぞれ渡した。


「これ……増えた特殊行動のリスト」

「おお、ありが……うわ、多っ!」

「まじで多いでござるな!? やべえ!」


 しばらく目を通していないうちに、フィリアちゃんが把握した特殊行動の量は爆増していた。

 よくもまあ、これだけの数を……1位になるわけだよ。半端じゃない。


「昨日わかったやつも多かったから、共有できなかった。ごめん」

「いやいや、最終日付近は自分の成績を優先していいって取り決めだったから……大丈夫だと思う。他の臨時幹部の人も、怒ったりしないと思うよ?」

「これを見ると、達成が難しい項目も多いでござるしなぁ。有用かつ簡単なやつは共有済みでござるし、不義理にはならんでござろう」


 俺とトビが時間のない焦りもあり、ルーズな提案をしてみるが……。

 フィリアちゃんはいい顔をしない。

 うぅむ、年下の子にそういう態度を取られると、こちらも(えり)を正す必要を感じてしまうな。


「あの、ハインド殿……」

「……そうだな。今からでも流しておこう。フィリアちゃん、俺に任せてくれる?」

「……うん。ありがとう」


 魔界勢力内への情報共有は、仲間内では俺の担当だ。

 リストをメールで回すことになっているので、受け取ったリストをデータ化、流し込んで送信。

 これでよし……と。うん、確かにこうしたほうがフェアだな。

 結果がどうなるにせよ、気分がいい。フィリアちゃんが全面的に正しい。


「OK。さすがにこれ以上は、気づかなかった人はお気の毒ってことで」

「よしよし、拙者も更に燃えてきたでござるよ! やるぞー!」

「そう。ハインドは?」

「俺? 俺はもう、今から3位を狙うのは厳しいからなぁ」


 トビと一緒にプレイしている成果もあって、かなりポイントは増えているが……。

 それでも序盤から中盤のローペースがたたり、上位の背中はまだ見えない。


「でも、5位くらいなら行けそう」

「え?」


 しかし、ランキングを見ながら話すフィリアちゃんの見解は違ったらしい。

 現在の俺の順位は、13位となっている。

 5位になるには八つも順位を上げなければならないが……。

 自分の順位ばかり気にしていたトビも、俺の順位を見てフィリアちゃんに同調する。


「あー、確かに団子でござるしな。まるっきり無理って話でも……ハインド殿、どうすんの?」

「どうって言われてもな……」


 言われた通り、ポイントだけを見るならトップ4までと5位以降は差がある状態だ。

 しかし他のプレイヤーだって、今からイベント終了までポイントを獲得し続けるはずだ。

 そこまで簡単なこととは、どうしても俺には思えない。

 それでも、フィリアちゃんは()るぎのない瞳で俺に向かって首を縦に振る。


「ハインドなら、きっと届く」

「……マジか。確かに俺、特殊行動の達成は甘いところが多いしな……」

「トビも、2位になれると思う」

「え? 拙者もでござるか!? 3位じゃなくて2位!?」

「うん。手伝う」


 フィリアちゃん、ストイック……。

 これが1位を取れる中学生プレイヤーのメンタルなのか……? と、俺とトビは顔を見合わせる。


「……迷惑?」


 返事がないのを不安に思ったのか、フィリアちゃんが探るような言葉をかけてくる。

 俺とトビは(あわ)てて応えた。


「いやいや、まさかそんな。順位が上がるほど報酬は高いんだ。迷惑なんて有り得ないよ」

「そうでござるよ! どうせ終了時間一杯までプレイするつもりでござったし!」


 これは本当のことだ。

 休憩は入れたばかりだし、イベント終了時刻は十時。

 ド深夜というほどではないので、今夜はギリギリまで粘るつもりだった。

 上がれるなら上がれるだけ、順位は高ければ高いほど嬉しい。それは間違いない。


「じゃあ、行こう。上位まで。ちゃんと恩返し、したい」

「は、ハインド殿!? この子、すっごい頼もしいのでござるが!?」

「本当にな……フィリアちゃん、よろしく頼むよ」

「うん。大丈夫、私がついてる。任せて」

「「ふぃ、フィリアさん!」」


 こうしてイベント最終日、俺とトビはフィリアちゃんに運命を(ゆだ)ねることになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これで2位と5位になれたら、フィリア様になるなw
[良い点] 1位のフィリアちゃんが助力しに来てくれた! 理由は、 >フィリア「……ハインドが、トビを支援して3位以内にしたがっているって聞いたから」 というハインドへの恩返しの気持ちからなようで…!…
[一言] これはさん付けになるw
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