連携の深め方
適当にパーティ分けをして、いざイベントへ。
俺は喧嘩仲裁の流れから、リコリスちゃん・フィリアちゃんと同じ組になった。
「さあ、ハインド先輩!」
両手を上げて駆け寄りながら、リコリスちゃんがなにかを要求してくる。
えっと、なにか約束していたっけ?
それとそのポーズ、なにかに似ているな。
確かセレーネさんと馬に乗った時に、似たようなことが――。
「あ、抱っこ?」
「わーい! ……って、違いますよ!?」
違ったか。
いや、もちろんわかっていたけれども。
抱え上げたリコリスちゃんを降ろし、改めて向かい合う。
……呆れているのか、若干フィリアちゃんからの視線が痛い。
「あれだよね? リコリスちゃんが、フィリアちゃんをどうサポートしていくかっていう」
「そうです! さあ、私に知恵を!」
「あのね、リコリスちゃん」
当然のように、短時間で策を思いつくと期待してくれるのは嬉しいが。
別に俺の頭脳は天才的ではないし、閃きに満ちているわけでもない。
「あれからたったの数時間だよ? さすがになにも思いついていないよ」
「ええっ!?」
心底意外! という顔だが、うん。
そこは凡人の頭脳だからして、段階を踏まないとね?
と、いうことで。
「とりあえず、二人の戦いを俺に――」
「私も行くぞ!」
「――……俺たちに、見せてよ」
どっから湧いた、ユーミル。
背後を取るんじゃない、背後を。
心臓に悪いだろうが。
しかし、四人となるといきなりイベント参加というわけにも……。
そんなわけで、まずはトレーニングモードを使って慣らし運転。
イベント本戦が始まってからというもの、見るほうに回ってばかりだ。
序盤な上、自分の戦法も定まっていないので仕方ないか。
さて、リコリスちゃんとフィリアちゃんの様子は……。
「わっ!」
「……!」
非常にぎこちなかった。
ぶつかる寸前、互いにブレーキをかけて衝突を回避する。
元から相性はよくないのだろうが、昨晩の件でより悪化しているらしかった。
「ストップ。二人とも……」
操作盤に停止の指示を打ち込み、一旦戦いを止めさせる。
野盗の姿をした五体の仮想敵が消失、リコリスちゃんとフィリアちゃんのHPが全快になる。
「どっちも気を遣いすぎだよ」
へたり込むリコリスちゃん、憮然とした様子のフィリアちゃん。
時間がないので、いきなりイベントに――というのも考えたが。
ここまでひどいとなると、イベント付属のトレーニングモードにしておいてよかった。
ステージは本戦と同じ例の異空間だが、このモードなら自由に仮想敵を設定して練習することができる。
「まずは遠慮をなくすところからかな……よく話し合って、それから――」
「そうだな! 私たちが手本を見せてやろう!」
「――えっ?」
ユーミルは俺の言葉に割って入ると、そのまま操作盤を奪い取った。
そして、野盗よりも強く設定されているモブ騎士を五体召喚。
「ちょっ!?」
どうして強引なのか、それは時間がないから。
どうして強引なのか、それはじれったいから。
「ごちゃごちゃ言うより実践してみせたほうが早い!」
「まっ――」
「行くぞぉ!」
「――話を聞けぇ!」
意図はわかるし正しいとも思うが、横暴が過ぎる。
しかしそれでも、体は勝手にユーミルのフォローへと走り出した。
数分後。
「すごーい……」
「……」
「ふふ、すごいだろう?」
練習用の敵騎士を撃破しまくり、ふんぞり返るユーミル。
それを見て、なんとも言えない表情の二人。
「すごい……いっぱいぶつかってました」
「うん」
「そうだね! たくさんぶつかられたね、俺が!!」
へたり込み、息を切らせた状態から叫ぶ俺。
うっ、きつい状態から急に叫んだから胸が苦し――。
「げっほ、ごほっ!」
「だいじょうぶ……?」
フィリアちゃんが背中をさすってくれている。
ありがとう……。
それにしても、ひどい模擬戦だった。
呼吸が整ったところで、ユーミルを睨みつける。
「お前、二人にいいところを見せようとしただろう? なぁ?」
「な、なんのことだ?」
「とぼけやがって……」
露骨に目を逸らすな、舌を出すな。
てへ、じゃないんだよ。
はぁー……。
「……もういいや。ここまで好き勝手したんだから、うまいことまとめてくれ」
「私がか!?」
「お前がこの状況に持ち込んだんだろうが。ほら」
大雑把で考えなしなくせに、大抵の物事の本質は見抜いているやつだ。
無理に俺が口出しする必要もないだろう。
しばらく黙って見守ることにする。
「……と、いうことでだな! リコリス、フィリア! わかっただろう!?」
「どういうことですか!?」
ユーミルは言葉に詰まった末に、説明を放棄した。
今やってみせたことが全てという態度だが、そこは言語化してあげないと。
言語化……思えば、俺が考える喧嘩の原因もそれだったわけだが。
「わかった」
「フィリアちゃん、わかったの!?」
驚くリコリスちゃんの横で、フィリアちゃんが動きを見せた。
小さく手を上げ、一歩前に進み出る。
「ユーミルが見せたかったのは、連携の良し悪しじゃない」
「うむ?」
いいな、フィリアちゃんはしっかり言語化を試みている。
ユーミルにも見習ってほしいくらいだ。
「あれだけハインドとボコボコぶつかっても、お互い怒鳴り散らしても、私たちみたいに険悪にはならなかった」
「う、うむ!」
「正直、半分くらいはキレているけどね。俺は」
さすがにここは一言なしには済ませられなかった。
ただでさえ魔族仕様のスキルとステータスのせいで、普段とは違うのだ。
特に騎士は「攻撃範囲」と「技の反動」の差が大きいせいか、衝突とFFが多発した。
ふざけんじゃないよ、この野郎。
「だから……リコリス」
「ふぇ!?」
フィリアちゃんがリコリスちゃんを真っ直ぐ見る。
流れが読めていなかったのか、それとも圧に押されたのか、リコリスちゃんは大いにたじろいだ。
「私は、リコリスにぶつかられて怒……るかもしれないけど」
「怒るんですか!?」
リコリスちゃんに合わせてなのか、それともそういう性格だからなのか。
どちらかはわからないが、フィリアちゃんの言葉は率直だ。
良くも悪くも飾り気がない。
「でも、怒っても、嫌いにはならない。リコリスは、どう?」
「わ、私は……」
話の核心に至ったところで言葉を切り、じっと答えを待つフィリアちゃん。
問われたリコリスちゃんは……。
「わ、私だってそうです! なんだー! とか、このー! とか思っても、嫌いになんてなりません! 友だちですもん!」
こちらはこちらでやや野暮ったく、けれどリコリスちゃんらしい素直な答えだ。
……ユーミル、にやにやするな。
俺だって我慢しているんだから。
「……そこだけ。そこだけ共通の理解があれば、きっと大丈夫」
「はい! どんどんぶつかって来てくださいね! 受け止めます!」
「私は受け止めない。できるだけ避ける」
「ええっ!?」
「避ける」
「そ、そんなに強調しなくても!」
期せずして、いい流れになったな。
これならば、もう昨日のようになることはないだろう。
「そ、それだ、二人とも! 私はそれが言いたかった!」
「嘘つけ」
「連携なんて、最終的にいい感じになればそれでいいのだ! 今はぶつかれ! ぶつかり合って、わかりあえばそれでいい!」
もちろん、ユーミルがこうなることを予見して動いたわけはない。偶然だ。
絶対に偶然だ。
偶然だが、それを毎回のように引き寄せるのがずるいところだ。
「それにしても、かなり頑張って喋ったね。フィリアちゃん」
「うん。疲れた」
舌の回りを確認するような仕草のフィリアちゃんに、俺は労いの言葉をかける。
俺の拙い助言をしっかりと聞き入れてくれたようで、嬉しくなるな。
……と、二人で視線を交わしあっていると。
「おい、疲れている暇はないぞ! 確認が済んだら、早速イベントにゴーだ!」
「ゴーです! ハインド先輩とユーミル先輩のおかげで、短いトレーニングで済みました!」
「そうだろう、そうだろう!」
さっさとトレーニングモードを終えて、イベントに参加しようと急かしてくる。
もうちょっとこう、余韻というか……まあ、いいけどさぁ。
「……結局のところ、連携がどうとかよりもさ」
「?」
トレーニングモードの操作盤を引き寄せながら、装備を確認するフィリアちゃんに声をかける。
フィリアちゃんは動きを止め、こちらを向いて小さく首を傾げた。
「ああいう手合いと付き合っていくなら、あのパワフルさについていくのが一番の課題だと思わない?」
「……異議なし」
フィリアちゃんが同意するように二度うなずいたところで、景色が歪む。
トレーニングモード、終了だ。
さて、これで二人のメンタル面の問題は解決したわけだけれど……。
ここからは実戦で、細かいところを詰めていかないといけないな。