表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
930/1112

宣戦布告

「セントラルゲームズのTB動画で言っていたこと、ハインド殿は憶えているでござるか?」


 セントラルゲームズというのは、メディウスたちプロゲーマーグループの投稿者名……チャンネルネームである。

 丘を下りながらの会話に、俺は腕を組んで小さく(うな)った。


「言っていたことって……範囲が広すぎて絞れないぞ」

「ええと、最初のほうの動画で言っていた、TBでの大目的。これができたらクリア! みたいな」

「ああ、ランカー殲滅(せんめつ)宣言のあれな」


 トビが憶えているかと訊いたのは、メディウスたちが戦闘系イベントで優勝する! と、動画内で発表していた際のものを指していたようだ。

 俺たちのやり取りを聞いて、リコリスちゃんが小首を傾げる。


「え? そんなに過激なこと、言っていましたっけ?」

「違うよ、リコー。先輩が言いたいのはね? 直接の発言ではないけど、あー……」


 シエスタちゃんがリコリスちゃんの疑問に対し、スムーズに答え始めた。

 かと思われたのだが……不意に遠い目をすると、そのまま視線を巡らせてサイネリアちゃんを見る。


「……サイ」

「……はぁ。まったく」


 さては面倒になったな?

 サイネリアちゃんはそんな態度にも慣れたもので、即座にバトンタッチ。

 リコリスちゃんに向き直る。


「いい、リコ? あの人たちは、イベントでトップを取るって宣言したわよね?」

「うん。サービス開始からゲームをやっている人たちじゃないのに、すごいよね!」


 リコリスちゃんは無邪気にメディウスたちを褒め称える。

 シエスタちゃんが小さな溜め息の後にあくびをする一方、サイネリアちゃんは表情を変えない。

 根気よく言葉を重ねていく。


「……よく考えて。ランカーの――今の私たちの立場で考えてみて」

「?」


 噛んで聞かせるように、あるいは子どもに言い聞かせるように。

 結論を急がず、リコリスちゃんの想像力に働きかけるが……。


「???」


 思うに、頭が悪いわけではなく、無邪気な性格のせいだろう。

 リコリスちゃんの頭上に浮かぶ疑問符は消えることなく、むしろその数を増した。

 さすがにこれには降参とばかりに、サイネリアちゃんの顔にも苦笑が浮かぶ。


「ええと……リコ。中途参加でトップを取るっていう宣言はね? 既存のランカーを全て蹴散らします、ごぼう抜きします――って言っているのと同じことなのよ」


 そして、ここで答え合わせ。

 他人からの敵意に鈍いリコリスちゃんでも、ようやく理解した。


「……ああっ!?」

「おおっ!?」


 ……なにか、理解の声が一人分多かった気がするが。

 ともかく、サイネリアちゃんはそういうことだと大きくうなずいた。


「……だから、ハインド先輩が言ったようになるのよ。実質、ランカー殲滅宣言だって」


 サイネリアちゃんから会話の主導権をお返しします、といった視線。

 ありがとう、サイネリアちゃん。

 動きを止めていた俺たちは、それを受けて会話を再開した。


「で、トビ。続きは?」

「あ、ああ、うん。今の話の通り、実質敵対宣言だったけど。別にいいよな? 構わないよな? っていう確認が一つ。まあ、そこは俺もゲーマーだし」


 つまり、わざわざトビに筋を通しに来たと。

 なんて律儀な。

 と同時に、メディウスがトビをどの程度大事に思っているかがわかる。


「他には? なにか言っていたか?」

「ちょっと遠回りになるけど、前提になる話をしていい?」

「いいぞ」


 移動時間は――まあ、長くはないがそこそこある。

 まだ馬のところまで戻れていないし、丘後方にあった森を抜けていない段階だ。

 先程までいた丘は隠れ素材ポイントだけあって、そこに至る通り道は……。


「危なぁぁぁいっ!?」

「危ないのはお前だぁぁぁ!」


 鬱蒼(うっそう)としていて、速度が出ない。

 焦ると、ユーミルのように足を取られることになる。

 転ばなかったのは結構だが、人に思い切りしがみついてくるのはどうなんだ?


「このっ……まったく、気をつけろよ。そそっかしいな」

「むぅ……すまない、ハインド」


 本日二度目ということもあり、どうにか巻き込まれずに支え切れた。

 せっかくの運動神経も、こう注意力散漫では意味がない。


「……それで、ハインド殿。メディウスたちは、ゲームによってヒール役になるかベビーフェイス……ヒーロー役になるか、なんとなく決めるそうなのでござるが」

「へえ?」


 トビの話によると、決める基準はまずゲーム内の空気。

 これは荒れているか、そうではないか。

 和やかなのか、対戦重視でピリピリしているかどうかが重点だそうで。

 次に人気のあるプレイヤー、実況者がどういった系統の人間か。

 これらの要素を分析し、自分たちの立ち位置を決める……とのこと。


「メディウス(いわ)く、最も怖いのは無関心だそうでござるよ? アンチが増えすぎるのはよくないものの、全くいない状態も問題があると。固定のファンばかりに囲まれて、内容が硬直化しないように。動画の味が薄まっていないかどうか、アンチの数とその発言内容で計っているそうで」

「水清ければ魚棲まず、ってやつか?」

「そんな感じでござるな。多分」


 それは「アンチの数をコントロールできる」と言っているに等しいが……。

 トビの話を聞く限り、できちゃうんだろうなぁ。メディウスには。

 そしてこの話なのだが……ヘルシャが(こと)(ほか)、興味深そうに聴いているのがなんだか面白い。


「そう考えると、TBでは……微妙だな? ランカーに喧嘩を売りつつも、今回はPKの掃討に出ているし。継承スキルの都合もあるんだろうけど、視聴者は混乱するだろ」

「ブレが出ているでござるな? 徹しきれていないというか」

「だな。どうしたんだ?」

「最初の宣言を出した時点で、想像以上にゲーム内でのアンチが増えて……それで、軌道修正した結果だそうで」

「ほう?」


 ゲーム内でのアンチということは、そこまで致命的ではないのだろうけれど。

 動画のコメント欄はそんなに荒れていなかった印象だし。


「その、思ったよりもアンチが増えすぎた原因……メディウスは、拙者たちにあるって言うのでござるよ」

「お?」


 つまり、メディウスたちが敵対を表明したランカー勢の人気・支持が思ったよりもあったらしい。

 きちんとプレイヤースキルを備えた美女・美少女ゲーマーがここまで揃っているのは珍しく、男性陣は――まあ、一部の突き抜けた者を除くとそこそこ。

 この場にいる女性陣全員……とワルターは、もれなく人気があるからなぁ。

 掲示板を(のぞ)くと、関係ないスレでも結構な頻度で名を見かける。

 それなりの反発を予想していたが、どうもメディウスの想定以上のものだったらしい。


「俺たち――っていうか、ユーミルたちに限らず、他にも人気ランカーは多数いると思うけど……それで?」

「今回は、どちらかというとヒール役寄りで立ち回って……お前たちを特に念入りに叩き潰すかもしれないけど、それでもいいよな? って。笑顔で」

「はぁ!? よくねえよ!」

「拙者も全く同じ台詞を言い返したでござるが……軽く受け流されたでござるよ」

「受け流されちゃいましたか……」

(しか)り。あー、怖い怖い。そういうやつなのでござるよ、昔から」


 メディウスはプロゲーマーらしく、実力で黙らせる方針に決めたようだ。

 これ以上の中途半端は、余計にアンチを生み出す結果に繋がる場合がある。

 その判断はきっと正しい。

 正しいのだが……標的にされるほうはたまったものではない。


「興味深いお話でしたが……聞くにわたくしたち、シリウスのことは無視ですのね? へえ……」

「いい度胸をしていますね。よほど潰されたいようで」

「こっちのほうが百倍怖い!?」

「火が点くの、ものすげえ早いな……」


 へルシャとリィズはもう臨戦態勢だ。

 そりゃ、挑発されて黙っているような性格じゃないよな。知ってた。


「……って、そ、そんなわけで……宣戦布告を受けたってことになるのかなと」

「な、なるほど、そうか。とにかく、話は分かった。で、それはそれとして」


 やっと馬を係留させておいた場所に着いた。

 この距離を短時間で移動してきたメディウスは、人数差を考慮しても、やはり少しおかしい。


「継承スキルのお預けに、偵察して見せられた無双状態。その上、こんな話を聞かされたら――」

「うおぉぉぉぉ! 燃えてきたぁぁぁ!」

「わっ!? び、びっくりした……」


 驚くセレーネさんの横で、気合の叫びを上げるユーミル。

 リコリスちゃんが呼応して続き、ついでに乗馬であるグラドターク一号が(いなな)く。

 うーん。にぎやかというか、うるさいというか。


「――こうなるよな。ユーミルなら」

「は、はは。みんな、頼もしいでござるなぁ……あ、いや、拙者も継承スキルは楽しみでござるよ? それ以上に、魔王ちゃんに早く会いた――」

「はいはい」

「ハインド殿! ちゃんと聞いて!? 魔王ちゃんに関する話は、メディウスの話よりもずっとずっと大事でござるよ!? ここ重要! って、赤線が拙者の脳内ノートにいっぱい引いてあるからね!?」

「その発言は大分問題ある気がするが……」


 宣戦布告を受けた以上、戦力の増強は急務だ。

 馬に乗り込んだ俺たちは、継承スキルを求めて魔界へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 競技メンタルで遊びなく一位とるぜ(ドヤッ) したらエンジョイ勢、アイドル崇拝勢が殊の外多くてアンチ増えすぎたから、思い切って原因らしい主人公勢をベイビーフェイス扱いしてヒールプレイで目立ちま…
[一言] オンラインゲームで粘着されると嫌だな。
[良い点] この作品の雰囲気大好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ