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大型アップデート後・周囲の近況 その3

 顔面に叩きつけられそうなほどアップになった画面を手で遠ざけ、ピントを合わせる。

 表示されていたのは、掲示板ではなく動画だった。


「わっち、早く! 早く見て!」

「わかったわかった。自分で持つから、タブレットから手を放せ」


 それがどういう類のものなのかは予想がついた。

 慌てた秀平の様子、そして動画。

 そう、動画だ。

 最近見た動画の中で、TB関連といえば――メディウスが投稿したものが記憶に新しい。


「どれどれ」


 数秒視聴した時点で、おおよその内容も把握。

 というか有名投稿者だけあってタイトル、概要欄の時点でわかりやすいのだが。

 中身は以前の動画内で発表していた、継承スキルを「育てる」というもの。


「あー……始まっちゃったか」

「む? なにがだ? ハインド」


 騒ぐ秀平を見て、未祐も作業を切り上げて近寄ってくる。

 俺は一瞬だけ悩んだ後に、端的な言葉を選んで口にした。


「PK狩り」




 結局その後は、みんなで動画を共有して視聴した。

 PKを撃破した数に応じて成長するスキル『信賞必罰』が、動画のメインとなっている。


「このプレイヤー、知っている人か?」


 秀平に向かい、スキルの使い手――茶髪の青年が映ったシーンを見せる。

 秀平は目を細め、その人物を認識すると首を捻った。


「いや、俺の知らない人だなぁ。ってか、外国人! 高身長! 足、長っ!」

「だな。彫りが深いし、鼻も高い。かなりのイケメンだな」

「けっ!」

「けっ、じゃねえよ。ツラがどうこうで嫉妬が必要な容姿をしていないだろうが、お前は……」


 むしろこっちが舌を出して指でも立てたい気分だ。

 やらないけれど。

 秀平はもう一度だけ俺のスマホを見ると、改めて首を横に振った。


「……うーん、やっぱり知らないや。そもそも、俺の交友関係に外国人なんて――」


 秀平が周囲を見回し、へらへらとした笑いを浮かべる。

 しかし、一周する終点にいたマリーに目を留め……。


「なんですの?」


 金髪を揺らし、(あお)い瞳で秀平を見返すマリー。

 ゴリゴリに西洋人な容姿を見せつけてくるマリーに、秀平は間の抜けた声を出しつつ後頭部を()いた。


「あー……ま、まあ、今はいるけど。当時、俺たちの仲間内に海外の人はいなかったよ? やっていたネトゲも、大半が国内専用タイトルだったし」

「そうか」


 あの気の強いルミナスさんを始め、その時代の仲間とやらが何人いるのか不明だが……。

 秀平に訊けば全てわかる、というわけでないのは確かなようだ。

 これまでに聞いた話から推察すると……。


「ってことはこの人、メディウスのアメリカのお友だち……か?」

「多分そうだね」


 飛び級でアメリカの大学に、という漫画のような経歴を持つメディウス。

 海外の知人・友人が多数いたとしても不思議はない。

 ……と、そこまで話したところで。


「で、お前はどうしたいの?」

「へ?」


 俺は秀平の意思確認へと移った。

 これが大変な事態なのはわかる。

 メディウス一派はPKを挑発しているし、いくつか掲示板を見たところ、不思議とPK側もそれに乗りそうな空気を感じる。

 間違いなく、この騒動は大きくなる。

 問題は俺たちが――特に秀平が、どうそれに関わっていくかだ。


「ライバルになるのが確定だから、邪魔をしたい?」

「あ……そりゃ、そういう気持ちはあるけれど」

「あるんですの?」

「フェアじゃないな! 忍者きたないな!」


 正々堂々、決闘大好き! なマリーと未祐の二人が、率直な感想を口にする。

 秀平は鼻白(はなじろ)んだが、すぐ立て直してそれに反論した。


「うるさいよ!? 勝つためにできることは全部やる、そうやって人知を尽くすのも――」

「人事な」

「じ、人事を尽くすのだって、立派な戦術! 謀略調略策謀、場外乱闘バッチこい! なんてったって、TBの俺は忍者だし! 忍者!」

「うーん、言っていることは正しいんだけど、なんかきたない。で、結局のところは?」


 勢いよく話していた秀平は、俺の言葉を聞いて急にトーンダウンした。

 握って振り回していた拳を力なく下ろす。


「相手がPKだからなぁ……」

「ま、そうだな。無理に邪魔をしたり手を出したりすれば、俺たちが悪者だな」


 当たり前だが、健全なプレイヤーにとってPKは邪魔者だ。

 そんな邪魔者を倒してくれるPKKの妨害をするという行為は、一般プレイヤーから不興を買いかねない。


「では、どうしますの? 将来のライバルが強化されることを知りながら、放っておきますの?」

「いいではないか! 相手が強いほど燃える!」

「未祐っちはそれでいいかもしんないけど……そういう正面衝突みたいな手以外を採れるのが、ネトゲの魅力だと俺は思うんだけどなぁ」


 未祐はあえての放置を推奨、マリーもその行動は好みではあるようだが、そこまでお人好しでいいのか? という顔だ。

 秀平は秀平で、なにかできることはないのかと頭を悩ませる。

 悩ませるのだが、考えていたのは少しの間だけで……。


「わっち」

「なんだ?」

「なんか考えて?」

「そう言われてもな……」


 割とすぐに、こちらにアイディア出しを丸投げしてきた。

 特になにも思いつかなかったらしい。


「うーん……」


 大っぴらに妨害することはできず、しかし傍観は嫌だと言う。

 この状態で採れる手段なんて……うん? 傍観?

 見るといっても、ただ漠然(ばくぜん)と見るだけでなければ、あるいは。


「……うん。じゃあ、野次馬だな」

「おっ! ……おっ?」

「悪い、言い方を間違えた。消極策だが、偵察に行く程度ならどうかな? と。この目でメディウス一派の戦い方、見てやろうぜ」


 先程の秀平の言葉にもあったように、秀平は最近のメディウスを知っているわけではない。

 当然、メディウスの仲間の情報も知らないことが多い。

 だったら偵察という名目で「意識的に見る」ことは、決して無駄にはならないはずだ。


「あの。少しいいですか?」


 と、ここで異を唱えたのは椿ちゃんだ。

 少し申し訳なさそうな顔をしているが、そうやって意見を出してくれるのは大変ありがたい。

 ここ最近、なにやら椿ちゃんが積極的になってくれて個人的には嬉しい。

 どうぞどうぞと、秀平と共に話の続きを(うなが)す。


「その、この動画を見るに……わざわざ偵察に行かなくても、PK狩りの様子もいずれ動画化されるのではないですか? 私たちは継承スキル取得に集中して、動画だけチェックすれば充分なような」

「あ、でも……」

「?」


 椿ちゃんの意見ももっともだ、と思った直後。

 小さく声を上げたのは和紗さんで、今度は椿ちゃんが是非聞かせてほしいと続きを促す。


「あ、あのね、椿ちゃん。動画で見せてもらえるシーンって、色々なものが限定されていると思うんだけど……どうかな?」

「なるほど……言われてみれば、動画はいくらでも編集可能ですしね……」

「うん。そう考えると私たちが見たい部分を見せてもらえる保障、ないのかな? って」

「ありませんね……すみません。私が甘かったです」

「う、ううん! ハインド君の言うように、実際に見に行くことで得られるもの……きっと、あると思うんだ」


 そう椿ちゃんに言いながら、和紗さんは俺をちらっと見た。

 目を合わせると恥ずかしそうに、すぐに逸らされてしまったが……しっかりバトンは受け取りましたよ、ご心配なく。

 この弓術士コンビ、実はずっと仲がいい。

 騎士コンビと同じくらい、椿ちゃんと和紗さんが互いを信頼し合っている様子が見て取れる。


「……てことで、どうだ? 秀平」

「あ、うん。いいね、偵察! 賛成!」


 和紗さんが偵察の意義を説明してくれたので、そのままの流れで秀平に最終確認を取る。

 秀平は特に反対する意見がなかったらしく、割と乗り気な表情でうなずいた。

 ただ、なにか懸念(けねん)のようなものに思い至ったらしく、途中でその表情が(くも)る。


「……メディウスたちと顔を合わせるのは気まずいから、隠れながらでもいい?」

「好きにしろよ。必要なら隠密用の装備も準備する」

「サンキュー、わっち!」


 メディウスというか、秀平が会って気まずいのはルミナスさん個人だろうが……ここは黙っておくことにしよう。

 話が一段落(いちだんらく)したのを察し、未祐が手を叩いてまとめに入る。


「よし! 決まりか? 決まりだな! では、明日最初の行動はPK狩りのデバガメに決定!」

「言い方、ひどくありませんの?」

「その言葉、あんまり綺麗な意味じゃないから多用しないほうがいいぞ。特に成り立ちが」

「そうなのか!?」


 出歯亀という言葉は未祐が使ったように単に「(のぞ)き行為」という使われ方もするが、補足すると……って、それはいいか。後で教えておこう。

 ともかく、明日のゲーム内での行動が決定。


「残念だが魔界スキルはもう少しの間、お預けだな!」

「ああっ!?」


 未祐が何気なくそう口にしたことで気がついたのか、秀平の表情が絶望に染まった。

 そして直後、こう言い放つ。


「しまったぁぁぁっ!? 魔王ぢゃぁぁぁぁぁぁんっっっ!」


 ……大事な魔王ちゃんのことを一瞬とはいえ忘れるくらい、秀平にとってメディウスたちの動向は気になるものだったようだ。

 床に両手をついて項垂(うなだ)れる秀平に、司が慌てて駆け寄り、支えようとする。

 司は優しいなぁ……でも、放っておいていいと思うぞ、それ。

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