大型アップデート後・周囲の近況 その2
230:名無しの武闘家 ID:dWMZknV
スキル名 浸×勁
性能 対象に深い衝撃を与え、
××秒後に追加××××を与える
231:名無しの軽戦士 ID:aLhDMnQ
へえ、時間差でダメージは面白いな
浸透勁(で、合っている?)
232:名無しの重戦士 ID:SanGWAM
この感じだと、武闘家お得意の防御無視は付いていない?
浸透勁(バトル漫画で見たことある、多分合ってる)
233:名無しの魔導士 ID:frDrSES
回復のルーチンを狂わせられそうだね
神官目線だと厄介かもしれぬ>浸透勁
234:名無しの武闘家 ID:dWMZknV
何故バレたし
一瞬で丸裸……スキル名の連呼やめて……やめて……
235:名無しの神官 ID:ZKkKZUE
伏せ方が甘いんよ
それだとそのまま見せているようなもん
236:名無しの騎士 ID:kHsyrhz
TBはテキストにパターンがあるしなぁ
重戦士のペネトレイト・インパクトとか
これと性能も説明文もほぼ同じだし
237:名無しの武闘家 ID:GdmiyMN
ということで、潔く入手法を教えてね?
浸透勁の
238:名無しの武闘家 ID:dWMZknV
お、おう
いいけど、やるのは武闘家スレでね?
こうなったらもう、全部教えちゃうわ……
239:名無しの神官 ID:nuHJhud
スキル名 ア××××ス
性能 ×の啓示が下り、
×××後に××全員に××××を与える
240:名無しの魔導士 ID:frDrSES
そうそう
伏せるならこれくらいじゃないと
241:名無しの神官 ID:ZKkKZUE
いや、さすがにこれは伏せすぎでは?
――先程見た、ネタスキルを晒すスレに似ている。
似ているが、この伏字の量は一体?
「……これは?」
内容の大半を理解できなかったので、俺は素直に愛衣ちゃんに訊いた。
いや、推測はできる。
できるのだが、きっと訊いたほうが早い。そんな判断。
「人の口に戸は立てられないってーことです」
「え?」
愛衣ちゃんが口の前、手で四角形を作る。
そしてそれを、起こしたり倒したり。
独特な動きと表現だな……それ、戸? 戸なの?
「ご存知のとーり、TBのイベントは基本ランキング制。もしくは対人戦」
「うん」
「他のプレイヤーを出し抜くことも大切です」
「うん」
「です、がー」
手で作った戸が変形、というか弾け飛んだ。
ああっ、スレ住人たちの自制心が……。
「隠さなきゃ、でもせっかくのレアスキルを自慢したい……どうしても自慢したい……」
「人情だね……」
段々と、この奇妙なスレが成り立った経緯が見えてきた。
愛衣ちゃんはそこまで話すと、力尽きたようにベッドに寝直した。
数十秒前に起きたばっかりなのに……と、寝たままの体勢で愛衣ちゃんが手招きしてくる。
……?
「それで結局、我慢できなかった。そんな人たちが――」
「ま、待って! なんで絡みついてくるの!?」
「――このスレ“継承スキル自慢スレ(秘匿版)”に集まって、得たスキルをつらつらと……私も我慢できなーい! ひーざーまーくーらー。膝枕、しろぉー」
「や、やめ……!」
「うへへへへ。せっちゃん先輩が行っちゃったから、次は先輩の番だぜー」
「……」
「あ」
俺をベッドに引き込もうとする愛衣ちゃんと、ベッドサイドで仁王立ちする理世の目が合う。
理世は無言のまま、ジェスチャーで愛衣ちゃんに選択肢を与える。
おとなしく俺から離れるか、硬い床に正座で座るか、それとも――。
り、理世? その首を掻き切るような動きは一体……?
「………………」
冷たい目で見下ろしてくる理世は、あくまで口を開かない。
……と、ともかく、後の択に行くほどデンジャラスである。
当然、愛衣ちゃんは最初に提示された選択肢――俺から離れて柔らかいベッドの上を維持するほうを選んだ。
それを見届けてから、理世は結局一言も発さず己の作業へと戻っていく。
その背中から発せられるのは、強烈な威圧感。
「こわぁ……」
同意だが、あれはまだ怒りゲージ二本目くらいだろう。
三本溜まると、表情が普段見せないような笑顔で固定される。
どちらが危険かは……あえて言うまでもない。
「ところで愛衣ちゃん。このスレを見ていた理由、単に面白いからとか、個人的な趣味だけじゃないよね?」
無軌道で気分屋に見える愛衣ちゃんだが、その実かなり計算高い。
お願いされた内容から外れた行動をしていた以上、いざという時の言い訳――もとい、なにか他の目的があって、こんなことをしているはず。
「え?」
「……えっ?」
と思っていたら、なにを言っているのか分からないという顔をされた。
いや、嘘でしょう? という疑念のこもった視線で見続けていると、愛衣ちゃんはやがて相好を崩して舌を出した。
この天邪鬼は、本当……。
「冗談ですよ、冗談ー。もちろんありますよ、意図っぽいなにかのようなものは」
「ずいぶんと頼りない言い方をするなぁ……」
「責任持ちたくないんですもん、面倒だから。代わりに先輩が責任取ってください」
「なんでだよ」
「そ、そんなー。私にあんなことやこんなことをしておいてー。責任を取る気がないだなんてー」
「すっごい棒読み」
やたらと責任という単語を強調する愛衣ちゃんの声に、ちらちらという視線が何故か俺の側に一方的に集まる。
居心地悪いな……みんながなにを想像しているのか知らないが、多分それは違う。
そして愛衣ちゃん、これ以上理世を怒らせないほうがいいと俺は思う。
「まー、私に対して無責任な先輩は置いておくとしてー」
「すこぶる人聞きが悪い」
「一応お伝えしておきますと……」
「うん」
「このスレ、断片とはいえ情報の塊ですよね?」
「……!」
緩急自在な愛衣ちゃんのペースに、俺の思考は置いていかれ気味だ。
数秒の間を経てから、その言葉の意味するところを徐々に理解し始める。
「さっきのネタスキルスレもそうですけど、目を通しておいて損はないんじゃないかなーって。後々役に立つ、かも?」
「なるほど、確かに。となると過去スレも、追えるだけ追って保存しておいたほうがいいか……」
上手く隠して公開しているスキルも、ゲーム内のヒント次第で精度の高い推測が可能になる。
ネタスキルに関しては、運用次第で強スキルに化けるということも考えられる。
扱いの難しい情報も多いが、集めておいて損はない。
スマホでは大変なので、秀平にタブレットを借りて――
「どうぞ」
「えっ!?」
――そう思った直後、カフスの付いた白魚のような手が端末を差し出してくる。
最新モデルのノートPCの画面には、大型アップデート以降のスレッドタイトルがずらりと並んで表示されていた。
「もしかして、俺たちが話している間にまとめてくださったんですか!?」
情報の選別はまだですが、と静さんが事もなげに答える。
普通のやり方では見られない、過去のスレッドまで全て揃っているな……これはすごい。
一見関係なさそうな雑談スレでも、継承スキルの記述があれば抜き出しているようだった。
完璧な仕事である。
「仕事はやー。静御前、有能すぎるんですけど……」
「静御前ではございません。わたくしのことはどうぞ、呼び捨ててくださって結構です。愛衣様」
「あ、はい」
愛衣ちゃんの変な呼び方を封殺しつつ、いつでも編集・印刷可能ですと話す静さん。
お願いすれば、情報の選別まで全てやってくれそうだ……さすがに量が量なので、ツールを使うなり人海戦術を使うなりするつもりだが。
ひとまず、お礼を言わなければ。
「ありがとうございます、静さん」
「いえ。お役に立てましたか?」
「そりゃーもー、ばっちぐーですよ。さいこー」
「恐れ入ります」
緩々の愛衣ちゃんのお礼にも、美しいお辞儀で返す静さん。
愛衣ちゃんはだらだら掲示板を見るのが好きなのか、後でゆっくり見ようと上機嫌だ。
そこまでで一旦、情報収集は終わろうと周囲を見回してみたのだが。
……俺たち以外のメンバーは、まだ一区切りつかないみたいだな。
「せっかくだから、もう少しスレに目を通しておこうか?」
そう声をかけると、静さんからはうなずきが。
愛衣ちゃんからは「さんせー」という声が返ってきたので、三人同じスレを読み込ませたスマホを持ち直す。
見るのは先程と同じ、継承スキル自慢スレ(秘匿版)だ。
最新部分を軽く見る程度にすれば、ちょうどいい時間になるだろう。
250:名無しの魔導士 ID:CVNmSKw
ついさっき面白いスキルをもらったんで投下
スキル名は丸出しにするね、性能は伏せるけど
スキル名 ミスティックチャーム
性能 対象を××状態にし、
一定時間使用者の×××××に対し××できなくなる
×××××への使用時は使用者の支配下に入り、
×××××ことができる
251:名無しの弓術士 ID:XDYREAN
なんか……
252:名無しの弓術士 ID:nagDaga
うん……なんだろう、卑猥
支配下とかいう表現が特に
253:名無しの神官 ID:mTtuMyE
おお、卑猥卑猥
254:名無しの騎士 ID:kspURns
そう見えるよう狙っているだろう、おめー
ふざけんじゃねえよ、取得方法を教えろください
255:名無しの重戦士 ID:aWVXBLd
危ないスキルなの? 運営が用意した罠なの?
垢BAN誘発スキルなの?
256:名無しの軽戦士 ID:EBjACca
チャーム……魅了? お守り? 文脈からして魅了か
逮捕者あぶり出しスキルかもしれん
257:名無しの魔導士 ID:aaarfUe
冷静に考えれば、
全年齢対象ゲームのTBにそんなスキルがあるわけがない
だが……いやしかし……
258:名無しの弓術士 ID:zXcABhe
あの……水を差すようで悪いんだけど
これ伏せ方がひどいだけで
単に新種の状態異常スキルなんじゃ……?
259:名無しの魔導士 ID:YaMIfuk
是非、取得方法をお教えください
どうしてもそのスキルを最愛のHさんに試したいのです
YやS、特にYには絶対に負けたくありません
お願いします
260:名無しの武闘家 ID:ggWGkRj
ガチめの人が来ちゃった!
っていうか、恋敵多っ! ライバル多っ!
261:名無しの弓術士 ID:CjZPgwg
じゃ、じゃあ、俺も気になるGさんに……
262:名無しの武闘家 ID:dWMZknV
現地人(NPC)にも使えますか?
263:名無しの騎士 ID:rTSTUzY
ぐへへ
264:名無しの神官 ID:ZKkKZUE
やめなされやめなされ
深夜のスレのノリを持ち込むのはやめなされ
265:名無しの重戦士 ID:SanGWAM
いや、俺も教えてほしいぞ!
釣りでも恨まないし、取ってみて思ったよりも
普通のスキルだったとしても、それでもいいから!
超! 惹かれます! 超! 超!
「ちょー!?」
それまで寝転ぶか、よくて半身を起こすだけだった愛衣ちゃんが跳ね起きた。
勢いのままベッドを降り、テーブルスペースにいる理世へと詰め寄る。
「これ妹さん! この名無しの魔導士、妹さんでしょ! ちょっとー!」
「……なんのことですか?」
理世の表情は変わらない。
が、付き合いの長い俺の目には、握った拳が若干震えているのが見えた。
「Hさんて、先輩に使う気満々じゃないですかー!」
「な、なにを馬鹿なことを! 私は自分自身の魅力で勝負してみせます! そんな、怪しげなスキルに頼るわけが……」
「いーや、嘘ですね! 私の知っている妹さんは、最終的に目的のためには手段を選ばないタイプの人です! 今はそうじゃなくても、余裕がなくなったら絶対そうする人です!」
「……」
あ、黙った。
これは理世には非常に珍しいことで、図星を突かれたのか反論する言葉が見つからなかったらしい。
先程の、あえて何も言葉を発さなかった状態とはまるで違う。
愛衣ちゃんに黙らされた形だ。
「……マリーおじょーさま」
「な、なんですの?」
理世が黙ってしまったので、愛衣ちゃんは次に魔導士仲間のマリーをロックオン。
マリーはかつてないほど活発に動く愛衣ちゃんに驚いている。
「妹さん、閲覧じゃなくて文章を打ち込むような動きをしていませんでしたか? 傍にいたなら、わかりますよね?」
「わ、わたくしはなにも見ておりません……わよ?」
「目がざぶんざぶん泳いでいるんですけど……あー、もういいや」
柄にもなく熱くなっちまったぜ……とつぶやきつつ、愛衣ちゃんが踵を返して戻ってくる。
そして俺の脇を通る際に、ポンポンとこちらの肩を叩き――えっと、どういう意味かな? これは。
「ああっ!?」
その時、突然秀平が大きな声を上げた。
部屋中の視線が集まる中、秀平は慌てた様子でスマホの画面を見せながら俺のほうに走り寄ってくる。
「わ、わっち! これ! これ見て!」