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グレン対レッサードラゴン

 グレンと『レッサードラゴン』の体格は互角だ! どっちもリアル世界のワニぐらい!

 ただし、敵は大きな翼で空を飛べるが、グレンの翼は小さい! 飛べない!

 赤くなったり火を吐いたりドラゴンっぽくなってきてはいるが、見た目の上ではまだまだトカゲ――


「――小物とはいえ、本物のドラゴンに勝てるのか! 注目なのであーる!」

「……ユーミル。何で独白風? 心の中に留めておけよ。さっきから全部、声に出ているぞ」


 戦闘開始を今か今かと見守るユーミルは絶好調のようだが、肝心のグレンはどうか。

 広場の中央付近で滞空する『レッサードラゴン』に向けて、グレンがのしのしと歩いていく。

 その行進は堂々としており、どこか王者の風格すら漂っている。

 グレンが進む、進む。


「いよいよだな、ハインド!」

「ああ。重量級の神獣の戦いは新鮮だし、俺も楽しみだ」


 進む、進む。

 四本の足で身を(よじ)るようにしながら進む、進む。

『レッサードラゴン』の横を通り過ぎ、進む、進む。

 進む、進む……。


「――って、おぉい!」

「どこまで行くのだ!?」

「ぐ、グレン!? 敵はそいつですわよ!? 戻りなさい!」


 慌てて制止するヘルシャの声に、グレンが歩みを止める。

 それからゆっくりと振り返ると、人間っぽさを感じさせる動きで首を傾げた。

 え? マジ? という声が聞こえてきそうな……あれ?

 何だか段々、グレンの気持ちが分かるようになってきたかも。勘違いか?


「おお……! すごい、すごいぞ、ハインド! ドリル! グレンのやつ、あの程度の小物は眼中にないときた! イカす!」

「めっっっ――ちゃ好意的に解釈すればそうなるかな……なぁ? ヘルシャ」

「……」


 そうでないことは、何も答えないヘルシャの顔色を見ればわかるが。

 命令の伝達が上手くいっていないな、これは。

 前に出ろとは言ったが、戦えとは言っていないものな……。


「ところで、グレンの一撃で瞬殺! ……とか、そういうことはないのか?」


 グレンが引き返してくるのを見つつも、ユーミルが敵モンスターを気にする。

 あの『レッサードラゴン』、こちらが攻撃するまで反応しないタイプか……。

 姿形が同じでも、フィールドで会う個体とは色々と違うらしい。

 本来の『レッサードラゴン』は攻撃的な性格で、向こうから仕掛けてくるのが常だ。


「外見は一般モンスターだけど、HP設定はボスらしくタフにされているから……大丈夫だろう。ある程度、殴り合いになるんじゃないか? ヘルシャもそれを見越して――」

「ああっ!? グレン、右! 右ですわよ! そちらは左です!」

「――うん。大丈夫じゃないな!」

「どっちなのだ!?」


 モンスター育成系のゲームで、プレイヤーの言うことを聞かない子みたいになっている。

 おかしいな、グレンは生まれた時からヘルシャと一緒のはずなのだが。

 このままでは、まともな戦いになるかどうか、わからない流れだ。


「おーっと、行ったぁ! 行ったぞ、グレンが!」


 それどころか、グレンは指示にない動きで攻撃を始めた。

 空を飛ぶ相手に対し、いきなりボディプレスをかます。

 ヘルシャは何も言えずに目を丸くしているが、ユーミルは嬉しそうに声を上げている。


「いきなりのボディプレス! そのままの流れで――逆水平チョップ! 頭突きも決まっていくぅぅぅ! 痛い! こぉれは痛い!」

「割と器用な動きをするな、グレン。しかも機敏だし」

「どうして言うことを聞かないんですの!? もうっ!」


 いざ戦闘に入ると、グレンは戦意旺盛だった。

 相変わらずヘルシャの言うことは聞かないが、パワフルな連携技を的確に決めていく。


「ここで毒霧……じゃない、火吹きが炸裂っ! 完全にグレンのペースかぁ!?」

「……何か、プロレスの実況みたいだな。さっきから」


 ちなみに毒霧を吐くドラゴンもいることはいる。

『ポイズンドラゴン』というそのまんまな名前で、沼地などで稀に出現する希少種だ。


「おっ? ここに来てレッサードラゴンが勢い付いてきたな? ハインド」

「急に素に戻るなよ……でも、そうだな」


 飛行で高度を取ったのを契機に、『レッサードラゴン』が上から攻め立てる。

 こうなると、グレンの爪では有効なダメージを与えることができない。

 カウンターを狙うか、炎を吐いて応戦ということになるのだが……。


「ヘルシャ、ヘルシャ」

「……何ですの?」


 グレンが吐く炎には、勢いがない。

 見たことがないので、もしかしたらあれがフルパワーかとも思ったが……。

 戦闘開始前のヘルシャの言動を振り返るに、その可能性は低いだろう。

 それよりも、まずはヘルシャだ。

 さっきから指示出しの声が止まっている。


「グレンのやつ、ちょっと動きに迷いが見られる気が……何とかできないか?」

「神獣一匹満足に操れない、こんなわたくしにどうしろと……?」


 やさぐれてんなー。

 最近になって気付いたのだが、ヘルシャは割と打たれ弱い。

 代わりに立ち直りと切り替えが素晴らしく早いのだが、それでも短期的に見ると結構へこみやすい。

 ゲーム的に言うなら、防御力が高いのではなく回復力が高く……故にダメージはしっかり受けている、的な感じになるだろうか? ちょっと微妙な例えかもしれないが。

 こんな性格なので、よく知らない人からすれば打たれ強く見える――といったからくりのようだ。


「言うことを聞かないなら聞かないでさ。何か、グレンの力にっていうか……グレンの炎が、戦意が増すようなことを言うのはどうだろう?」

「……」


 つまり、このまま放っておいてもしばらくすれば復活する。

 しかし、こうしている間もグレンは戦闘中だ。

 一秒でも早く精神的に立ち直ってもらわないと、グレンの真価が発揮されない。

 ついでに、ヘルシャがへこみまくっているのがユーミルにバレる。

 今は――


「空と陸に分かれた竜の卵、二匹の激突が続くぅ! 未来の竜王になるのは果たしてグレンか! レッサードラゴンか!」


 ――プロレス風の実況をするのに夢中なので、ヘルシャの様子に気が付いてはいないが。

 放っておくと一つもいいことがないので、グレンへ激励を送らせるために俺はヘルシャを激励する。

 ……激励のための激励という訳が分からない状態だが、深く考えるのはよしておこう。


「どれだけカームさんに(なつ)いていようと、主人はヘルシャ。お前だろう? グレンは……俺の見立てでは、単に素直じゃないだけだ。ヘルシャが本気で呼べば、きっとグレンに声は届く。だから――」


 もう充分です、といった様子でヘルシャが俺を押し留めるように腕を上げる。

 それから目を閉じ、胸に手を当て深呼吸すると……吹っ切れた表情で、大きく口を開いた。


「……グレン! わたくしが間違っていました!」


 長い金の髪を揺らし、手振りを交えながら言葉を紡ぐ。

 広間全体に届くような、澄んだ声で――そうそう、これこれ。

 急に格好よくなりやがるんだよな、ヘルシャって……一瞬で精神力がフル回復している感じだ。

 ユーミルとは別の意味で、羨ましくなる芯の強さを持っている。


「好きに戦いなさいな! どんな動きをしようと、その程度の敵に負けるあなたではないはずです! ……いいえ、負けるあなたではないわ!」

『……』

「見せつけておやりなさい! シリウス全員からの愛を一身に受けて育った、神獣の力を!」

『……!』


 ヘルシャの激励――というよりも「鼓舞」を受けたグレンは、これまでにない鋭い反応を見せた。

 大量に空気を吸い込み、体を膨らませた次の瞬間。

 凄まじい猛火を吐き出しながら、なんとロケットのように離陸した。


「火を吐きながら飛んだぁ!? ハインド、見たか!? 見えているか!?」

「ああ、見えているよ。特撮怪獣か、あいつは……物理法則どうなってんだ?」

「やっておしまい! グレン!」


 不完全な成長途中の羽を精一杯動かし、暴れる体を抑え付ける。

 直後、己の吐いた炎を(まと)い、グレンが『レッサードラゴン』に突っ込む。

 飛行する相手の、更に上を取ってからの一撃。

 フロア全体を揺るがすような落下突進技が決まり、周囲に爆炎を散らしていく。


「「おおーっ!」」

「ふふ……これがわたくしたち、シリウスの神獣・グレンの力ですわ!」


 光に変わる『レッサードラゴン』から背を向け、ヘルシャが誇らしげに髪をかきあげる。

 四肢を踏ん張り、華麗な着地を決めたグレンもこの時ばかりは主人と同じ気持ちのようだった。

 肺に残っていた空気を、残り火と共にボフッと吐き出す。

 しかし俺はその時、見てしまった。


「あっ……」


 グレンが飛ばした火の粉が、ヘルシャの髪に降りかかるのを。

 ……その後。

 俺が回復魔法を使用するまで、ヘルシャが悲鳴を上げながら走り回ることになったのは言うまでもない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴジラで似たようなことしてたな! もしや、行き着く先はそこか?ドラゴンといえばドラゴンかもしれないけど、ヘルシャは釈然としない反応をしそうだなぁ。
[一言] へルシャらしいなぁ・・・・ 最後が締まらねえw
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