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結果発表とアクセサリー展示会 前編

「ツリーだ! おい、見ろ!」


 到着するなり、長い銀の髪を振り回し、賑やかに指をさす。

 広間の中央には、確かに巨大なツリーが鎮座していた。


「あー。そういえば、今年は家でやらなかったな……」

「そうだろう!? どうしてだ! 立派なやつがあるのに!」

「ミニツリーは出したけども。玄関にあっただろう?」


 我が家では小さいツリーを出しただけだった。

 大きなものもしまってあるのだが、いかんせんバイトの都合で時間が取れず。


「片付けが大変ですしね。お(かあ)さんはミニでも大変なんですよ?」

「家事の合間にやっているのでござるし、出しただけ偉いでござるよ! ナイスおかん!」

「むぅ……確かにそうか。ありがとう、(はは)よ!」

「作ってくれたクリスマスリース、昨日のうちに届いたよ。ありがとうね……え、ええと、お母さん?」

「……。もうお母さんでいいです……」

「そうか! 母……ハハインド!」

「うるせえ! しょうもねえことを言うな!」

「あ、あはは……」


 季節のものは生活に彩りを添えてくれるが、出し入れが本当に大変なのだ。

 ……クリスマス翌日、TB各地の神殿や教会にはワープ用のポータルが設置された。

 その上に乗ると、ここ――『期間限定・アクセサリー展示室』へと移動することができる。

 時間を合わせて一斉ログインした俺たちは、コンテストの結果発表も兼ねるこの会場を訪れていた。


「ていうか、ハインド殿。クリスマスリース? あの輪っかみたいな? ……初耳でござるが」

「私たちのところにも届きましたよ! ありがとうございます!」

「あ、うん。合同でパーティをやるって聞いたから、一つにしちゃったけどね」

「へー……」


 贈ったのは和紗さんと小春ちゃんの家で……何でそこで引く、トビ。

 それよりも、今はこの会場に目を向けることにしようじゃないか。


「この辺のアクセサリー群……は置いておくとして。とりあえず、中央のツリーに向かってみるか?」


 会場内をざっと見渡すと、ツリーを囲むように受賞したアクセサリーがケースに入って並んでいる。

 高級そうな壁・床・照明・絨毯などの内装の雰囲気も含めて、美術館か宝石商のような印象だ。

 ちらっと見えるケースの中身は、美術品や宝石からは程遠い珍品も多いようだが……。


「そうだな! 行こう、ハインド!」

「――はっ!」


 こちらに差し出されたユーミルの手を、リィズが素早く払い除ける。

 周囲の空気が凍り付き、にわかに緊張が走った。


「……何をする?」

「あなたこそ、今なにをしようとしました?」

「……」

「……」


 が、それは一瞬のこと。

 いつものやり取りには違いないので、睨み合うユーミルの背を俺が。

 リィズの背をセレーネさんが押し、俺たちはツリーのほうへと移動を開始した。

 会場内は他のプレイヤーもいるので、あまり同じ場所に留まっていると迷惑がかかる。




 巨大ツリーには、電飾の代わりに魔法っぽい不思議な光の飾りが。

 雪の代わりに綿状のものを載せているのは一緒で、受ける印象は現実のツリーから遠くない。

 だが、そんな中で何よりも目を惹くのは――


「これ……デフォルメされたNPCか?」


 二頭身ほどで描かれた、NPCたちの絵が入ったバッジがツリーのあちこちに取り付けられている。

 ネームドの中でも有名なキャラクターに絞ってあるようだが、知っている人を探すだけでも面白い。

 現に、ツリーの周囲には結構な数のプレイヤーが集まっている。

 ツリー自体が回転しているので、移動せずとも定点で全容を見ることが可能だ。


「むっ、女王見つけた……どうしようハインド」

「どうしようったってな……まだ苦手なのか?」

「女王がいるなら、ティオ殿下もいるのでしょうか?」

「北の兄妹さんなら見つけました!」

「各国の首脳キャラは全員いるみたいだね……」


 みんなであちこちを指差し、見つけたキャラの名を口にしていく。

 セレーネさんの言う通り、各国の有名どころは揃っているみたいだけど……。


「先輩、もしかしてクラリスさんを探しています?」

「!?」


 シエスタちゃんの指摘に、俺は首と視線の動きを止める。

 更に追撃の咎めるような二つの視線を受け、体全体の動きも停止させた。

 嘘を吐いても仕方ないのだが、何故か口から出たのは否定の言葉だった。


「い、いや、そんなことは……ただ、初めて会ったNPCだし」

「全く、先輩の年上好きも程々にしてほしいですねー。今すぐ年下好きにジョブチェンジしてください」

「ジョブ!?」


 年上好きはジョブだったのか……属性とかじゃなくて。

 シエスタちゃんによる新説に目を白黒させていると、追い打ちをかけてくる。


「ね、妹さん。妹さんもそのほうがいいでしょう?」

「……そうですね。最終的に“唯一”に絞られるとはいえ、過程においては有利に違いありません」

「ちょ!?」


 そこでリィズに助力を求めるのは卑怯だろう!

 こんなことになるのなら、正直に……言っても、きっと変わらなかったのだろうなぁ。

 そもそも、否定の言葉は綺麗に無視されたのだし。


「ハインド、数ヶ月差というのは年下のうちに入るか? 入ると言え!」

「さ、さあ? どうなんだろうな……」

「私はそのままでも……」

「セレーネさん、最近みんなのノリに乗っかってきますよね……」


 馴染んだという観点からすると、いいことなのだろうが。

 個人的には、このように反応に困ることが多々ある。


「ちなみにトビ先輩は、ロリコンという不治の病ですね?」

「そ、そう? あいつのアレは、小さい子限定とかじゃなくて。主に庇護(ひご)欲から出ているもんだと――」

「魔王ちゃん! 魔王ちゃんはどこ!?」


 と、折角のフォローもトビ本人の声に遮られる。

 みんなもその声に釣られ、ツリーを一斉に見上げる。

 というか……。


「トビ……魔王ちゃんなら、一番目立つところにいるじゃんか」

「え?」

「あそこですよ、トビ先輩」


 サイネリアちゃんが示したのは、ツリーの天辺。

 トビは目をすぼめるようにした後、喜びの表情と共に瞳を輝かせる。

 次いで、目元を手の甲で覆った。


「うおぉぉ!? そんなところに! あまりに魔王ちゃんが眩しくて見えなかったでござるぅ!」

「……」


 うざったい……その場の全員がそう思っただろうが、誰も何も言わなかった。

 反応すると、ウザさが更に加速するだけだからである。

 魔王ちゃんはツリーの最も高いところで、舌を噛んで涙目になっているという可愛い絵をもらっていた。


「ですが、魔王がツリーの天辺なんですか……? それってどうなのでしょう?」

「リィズの言いたいことも分かるけど、プレイヤーからの認知度とか人気度で決めているんじゃないかな。神様系のNPCもいるけど、いかんせん登場から日が浅いし」

「魔王ちゃん、初代イベントのプレゼンターだったものね……」


 TBの顔という意味では、あの魔王ちゃんが該当するということに。

 厳格な宗教観がある世界でもないだろうし、特に問題はないのだろう。

 名前も『TBツリー』となっているようなので、おおらかな目で見るのが正解に思える。

 俺は話を切ると、何となく魔王ちゃんの絵を再度眺めた。


「……あれ? あの絵、アニメーションしているか?」

「本当でござるな!? 高笑いからの……あっ、舌噛んだ! 涙目! ふぉぉぉぉぉ!!」

「うるさいな……」

「お菓子を食べて笑顔復活、以下ループ……最高でござるな! ハインド殿もそう思うでござろう!?」


 トビがスクショやら動画やらで撮りつつ、同意を求めてくる。

 あ、このツリーは撮影自由なのか……後で俺も何枚かスクショを残しておくとしよう。


「凝っているのは間違いないな。魔王ちゃんだけの特別仕様か?」

「……いや、ハインド。それはどうも、違うようだぞ」


 ユーミルがツリーの天辺から少し下を指差す。

 それに従い、俺は視線を向けたのだが……どれのことだ?


「あれだ、あれ!」

「みょっ!? か、顔を挟むな!」


 顔を両側から挟まれ、首の角度を強引に調整される。

 今度は止められなかったリィズが抗議の声を上げているが……あ。


「あれか? サマエ……ル?」

「何でアイツ、投石されているアニメーションなのでござるか……?」


 魔王ちゃんの少し下ではその側近、サマエルが投石されていた。

 デフォルメされたサマエルが投石に怯んだ後、魔王様ラブ! と叫んで石を跳ね返している。

 最後に、親指を立てて白い歯が光ると……ある意味、魔王ちゃんよりも気合の入った仕様だった。


「開発スタッフに愛されているでござるなぁ、サマエル……」

「運営サイドから見ても、おいしい役どころだろうしな!」

「本人は不本意だろうがな……」


 輝くツリーの上で、投石を跳ね返し続けるサマエル。

 その姿は、ある種ツリーに相応しい崇高な精神を体現しているかのようだった……。

 魔人だけど。

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