アクセサリー作り・セレーネ
「そういや俺、お前の最終案知らねえや。結局どうなったんだ? マントの留め具はやめたんだっけ?」
ほとんどの案は佐野先輩に見せた時のまま決定したのだが、トビだけは直前まで変更を加えていた。
マントを作るユーミルと若干被るし、そもそもマント内の一パーツで処理できそうということも理由だったのだろうが……。
「せっかくなので拙者、より実用性を追求してみようかと。佐野先輩にいただいた、さりげなく忍者要素をデザインに盛り込むというところは活かしつつ――」
「お前にしては御託が長いな。俺並だぞ」
「自覚あったのでござるか!?」
失礼なやつだな。
いつも長いだのくどいだの言われつつ、それでも分かりやすいようにと頭を悩ませながら説明しているというのに。
「で、結論は?」
「武器に装着するアクセでござるな!」
「ほう」
武器……トビの場合は刀だ。
刀の装飾品というと、いくつか存在するが。
「鍔を豪華にするとか?」
「ノンノン。忍者刀に華美な装飾はご法度でござるよ」
「となると目貫、笄、鞘に下緒……この辺は違うか」
「待った、こうがいって何でござる?」
「忘れんなよ!? あれだ、櫛みたいな用途のやつ。マニアックだけど、前に一緒に調べたよな? 俺が刀鍛冶初心者だったころに」
「ほ、他はちゃんと分かったでござるし!?」
何だか刀がのっぺりしていて寂しい、それっぽくないと言うから調べたのに。
その上で、結局「シンプルなほうが忍者刀らしい」とかぬかしやがったのだ、こいつは。
だから必須パーツ以外で付いているのは、下緒という飾り紐のようなものだけである。
これは単なる飾りではなく、たすきがけや帯に装着する際に使ったという説もあるそうだ。
「分かった、じゃあ小柄だ! ミニサイズの刀みたいなあれ!」
「ぶー。答えは……二本の刀を合体させて、一つの武器にするアタッチメントでござるよ!」
「分かるかぁっ!」
思わずテーブルを叩くと、驚いたノクスが肩から飛び立つ。
あ、ごめんよ……と。
それはそれとして。
「無茶苦茶言うな、お前……合体って、双刃刀とか両剣とか言われているあれだろう?」
「浪漫があるでござろう!」
「浪漫しかないな。現実に存在しない武器じゃないのか……?」
双刃刀は創作物ではよく見る、振り回すと自分の体を傷つけまくりそうな形状の武器である。
スタンダードな形としては、槍の柄の上下に刃があるものが代表的だろうか?
実用性はともかく、見た目は格好いいのだ。見た目は。
「そもそもTBの武器の仕様的に、戦闘中に合体なんて可能なのか……?」
「大型武器扱いにならないか、という心配でござるか?」
「そう」
TBは職によって持てる武器に制限があり、合致しないと大幅に武器性能が低下する。
双刃刀ならカテゴリ的に騎士、重戦士向きの武器に数えられる可能性もあるように思う。
軽戦士には扱えない種類の武器だ。
「拙者の武器は性能が一本ごとに独立している故、問題ないかと考えているのでござるが……」
「テストが必要だな。やってみるか?」
「やってくれるのでござるか!?」
やらなければ話が進まないじゃないか。
もう夜も遅いし、さっさと準備を済ませて訓練場に行くぞ。
俺は眠い。
「っていうか、これだと本格的に冬要素が行方不明じゃねえ? 完成したとしてもさ」
「み、水属性を付加すれば平気平気! セレーネ殿にいただいたブルークリスタルも使うでござるし!」
「武器の接続部分に水属性って、意味あるのか? アクセとしての性能は保たれんのか?」
「さあ? 調べてみたけど、情報が全然なかったのでござるよ」
「そうか……だったら仕方ねぇな」
どうも、分からないことだらけということらしい。
まぁ、何かしらの検証作業をするのは日課みたいなものだ。
やるだけやって、無理だったら専門家に訊くとしようじゃないか。
「ということで、試してみたけど駄目でした」
「助けて専門家! でござる!」
「そ、そうだろうね……」
翌日、俺とトビはセレーネさんに相談していた。
場所はセレーネさんの城である鍛冶場だ。
トビの刀を適当なアクセ登録の装備……『飾り布・白』できつく巻いて接合、かかしを斬りつけてみたのだが。
ダメージが驚くほど下がったので、これは失敗だろう。
「ついでにハインド殿が最初から双刃にもできるよう、柄を工夫した刀を二本作って登録してくれたのでござるが……それも駄目でござった。こちらでいいなら、そもそもアクセサリー枠を圧迫しないのでござるが」
「登録時はただの双剣種扱いでした。戦闘中の接合自体はできましたけど、接合すると何故か武器種が?表示になりまして。大型武器以前の問題ですね」
「不明なデバイスが接続されました、状態でござるよ。カスダメ連発! バグかな!?」
「本当、TBのシステム的にはその通りなんだろうね……」
セレーネさんが苦笑を浮かべる。
話の途中からそうだったのだが、セレーネさんは既に結果が分かっているような様子だった。
「セレーネ殿……拙者、調べてもこの件に関するプレイヤー間のそれらしい記述を見つけられなかったのでござるが。これはどういうことでござろう?」
「うん。生産者の間ではそういうのを“可変武器”って呼んでいてね。ちょっとディープなところまで潜らないと情報が載っていないはずだよ」
「意外ですね。考えつく人、割といそうな武器ですけれど」
考える人が多ければ、掲示板などの浅いところで情報が見つかるはず。
しかし、セレーネさんは首を横に振る。
「TBでは、生産関連の情報をなるべく秘匿することが基本になっているっていうのが一つ。これは割とプレイヤー間で言われていることだよね、何度か同じ内容に触れる機会もあったし。もう一つが、意外と可変武器に需要がないっていうか……」
「へ? 有り得んでござるよ!? 格好いいのに!」
「あ、えっと……それは私も、理解できるんだけど。みんな、今の武器に満足しているんじゃないかな? これが仕様って言われると、特段ストレスを感じるものでなければ納得しちゃうっていうか」
「武器の種類、最初から豊富ですもんね。TBって」
「ぐぬぅ……」
つまり武器選択に不満を感じる人が少ないので、声が大きくならないと。
あるいは、何か抜け道がないかと生産者同士で静かに競い合っているのかもしれない。
もし可変武器を成立させる方法を見つけられれば、それを売りに一稼ぎできる。
「可変武器を求める声が大きくなれば、運営に要望が届くと思うんだけど……」
「セレーネさんは一通り試したんですか? って、愚問だとは――」
「もちろんだよ!」
「おおぅ、食い気味の返答でござるな……」
俺たちの何里も先を行っているのはさすがである。
セレーネさんからすれば、とうの昔に通りすぎた道だったらしい。
「でも、何をしても仕様的に無理っていう結論に達して……私の見落としが絶対ないとは言えないけれど、降参して運営にメールで問い合わせたらね?」
「どうなったんですか?」
「……実は、対応中ですって返信が来たの。この意味、二人なら分かるよね?」
「「おおっ!!」」
ということは、アップデートで実装される可能性は大いにあると。
同時に、今の仕様では無理だと運営に判を押されたようなものでもあるが。
「そういうことなら、トビ。後で俺たちも運営に要望を送っておくとして、アクセは――」
「そうでござるな。備えておいたものに切り替えるとするでござるか」
トビが青い石で作られた手裏剣を取り出す。
形は中央に穴がある平手の四方手裏剣だ。
全体的に丸みを持たせてあるので、雑に触っても怪我をすることはない。
「あ、使ってくれたんだ。青のハードクリスタル」
「提供、感謝でござるよセレーネ殿! ハインド殿と一緒に石を削って、手裏剣の形にするところまでは昨夜のうちに。思ったよりも小さくなったので、ありきたりでござるがペンダントにでもしようかなぁと。結果、佐野先輩の助言は活かせなかったでござるが……」
本当は、武器同士を接続するアクセに忍者っぽい模様を掘り込むつもりだったらしい。
もっとも、それくらいで気を悪くするような佐野先輩ではないので、これはこれで大丈夫だろう。
トビが持つ小さいクリスタルの手裏剣を見て、セレーネさんは小さく手を挙げる。
「あの、トビ君。武器のアクセにこだわっていたんだよね? だったらそれ、鞘に付いている下緒か下緒の近くに付けたらいいんじゃないかな?」
「え?」
「あー」
あんなに武器の構造関連で頭を悩ませていたのに、気が付かなかったのは不思議といえば不思議な話だ。
トビは完全に不意を突かれた格好だし、俺は俺で眠気があったとはいえ、昨夜は頭が回っていなかったらしい。
「鞘側の飾りなら、刀本体に付けるよりは邪魔にならないだろうし。トビ君、下緒を飾り以外の用途では使っていないんだよね? どうかな」
「そうですね。バランス的に、二個セットにして付けてもいいかもしれん」
「おお!? では、諦めていた棒手裏剣ミニも!」
「うん。それくらいなら一つのアクセとして登録できるだろうから、やってみたらいいと思うよ?」
そういった武器アクセは、生産時に武器の一部として登録しないことで別の効力を発揮させることも可能だ。
もちろん最初から武器の一部とすることで完成時の質を上げる助けにもなるので、一長一短あるのだが。
この場合は、元から武器の一部となっている下緒に、新規で作った飾りを装備のアクセ枠を使って追加……と、ややこしいがそういうことになる。
「早速、もう一つ作るでござる!」
トビが手裏剣の飾りを二個にすべく、早速作業に取りかかる。
施設の道具が充実しているので、そこまで難易度は高くないだろう。
「ところで、セレーネさんのアクセサリーは……?」
セレーネさんが作るアクセサリーは、確か直球勝負のシンプルなマフラーだったはずだ。
性能重視で、マントを着けずにそれのみで寒さを防げるものを目指すとか。
「えっと、実はこれからなんだ。軽くでいいから、ハインド君に手伝ってほしいんだけど……」
佐野先輩の助言では、ワンポイントでいいから自分らしさを出してはどうかという意見をもらっていた。
セレーネさんはそれにかなり悩んでいたはずだが……どうやら方針は固まったらしい。
「分かりました。トビ、俺たち縫製室に行くけど――」
「手順は昨日ので覚えたでござるよ! お構いなく!」
気合が乗っているな。
そこまでトビの手先は器用ではないが、これなら完成度も期待できそうだ。
「そうか。では行きましょう、セレーネさん」
「――あ、う、うん!」
セレーネさんが急に血色のよくなった顔で返事をする。
変な間があったが……まぁ、いいか。
しかし、俺がセレーネさんに教える側とは珍しい。
いつも鍛冶でお世話になっているので、少しでも役に立てるといいのだが。